バニラ(仮)

mito

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たまたま俺に会いに来ただが話したくなっただったか、とにかく最愛の幼馴染み様は、学習能力はあったらしく、襟元引っ掴んで張っ倒す前に、早々にこの場を後にした。


当然残った日滝久遠はというと、黙って俺を見ているだけ。

居心地悪すぎる沈黙が漂う。というか。用がないなら俺は帰ってもいいですか。


「あー……と、日滝久遠、だっけ。なんか用?」


名前は覚えているものの、そこは敢えて曖昧な感じでぼかしておく。俺にとってあの日はなかったことになったわけで、できれば関わり合いになりたくない。

そもそも、俺は大学に通っているわけでもないし、倉田にとってコイツは報復相手であるのだから、接点もないし関わることもないだろう。

そう思っていたというのに、何故今俺の目の前にコイツが立っているのか。まったく意図が分からない。



何も言わないし。表情も、ちっとも変わらねぇし。


「俺さ、今仕事中なんだわ。倉田が強引に連れてきただけで。何もねぇなら、仕事戻りてぇんだけ」

「いつなら、空いてますか」

「……は?」


幻聴か。
幻聴だな?


「大地さん、次いつ休みですか」



最近幻聴をよく聞きすぎてる。
自分でも知らないうちに、この変わりない日常に相当なストレスを抱えていたらしい。

長期休暇を申請すべきか……


「いや、俺の休暇とお前に何の関係があんの?」


やばいと思ってんのに聞き返す自分の律義さが今は憎い。


「俺と、映画見てください」


あ、やべ。今精神の異常きたしたこれ。


「……聞き間違いだよな? 俺に映画勧めてほしいの、わりぃけどそういうのは俺、」

「いえ、俺と映画見てほしいんです」

「……俺と、お前で?」

「はい」

「正気?」

「質問の意味がよく分かりませんが、俺はそれを頼みに来ました」


いやいや冗談もほどほどにしてほしい。
何が楽しくて男と二人で映画をみにゃならんのか。

しかも、一度会っただけの、しかも襲われかけた奴と一緒に!


「いや、前も言ったけど俺男に興味ねぇんだわ。つーかお前、映画は前戯とか言ってなかったか……!?」


そんな奴と分かっていて俺がわざわざ貴重な休み潰して映画に行く!?
ありえない、いったら喰われること間違いねぇのに行くはずがない!



「それです」

「は?」


鑑を見るまでもなく顔の筋肉を動かすのに忙しい俺とは真逆に、まるで人形のように表情を変化させない日滝久遠は、一拍遅れて、ゆっくりと縦に首を振った。


「映画の見方、教えてください」

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