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Past#2 対峙-confront-
Past#2 対峙-confront- 3
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慌てて飛び付くように這い寄った。真っ暗の中で胸に手を当ててみたもののコルセットが邪魔してよく鼓動がわからないばかりか、なんだか上下運動もしてない気がして、不安が頭を支配する。
ぴったりと閉じられた瞼はぴくりとも動かない。もはや完全にパニック状態で手首を掴むものまた固定器具が邪魔して脈が計れない。口に耳を寄せても自分の鼓動しか聞こえない気がする。
昨日容態は安定したのに、どうして。そういえば腹部に深い切傷があった。もしかして殴ったせいで傷が開いたとか、それで出血多量で?
落ち着かなきゃいけないのは分かる。でも理解と実行は連動してない。
どうしよう、どうしよう。あと脈が計れる部位ってどこが……
首、そうだ首。
あわあわと浴衣の襟(えり)を開いた途端、目に入った包帯やコルセットに思わず目を背けてしまった。
でもそれが現実で、再度恐々向き直って、気付く。
……そういえば、朝は小袖を着ていたのに、今は浴衣だ。
やっぱり自分がパンチ、なんて可愛い代物じゃない。本気でストレート食らわせたから。それで傷が開いたんだ。
闇に沈む顔が、青白に見えて仕方がない。その頬の冷たさが、雨の中の温度と被る。手が震えた。どうしよう、今度こそ微かにも脈を感じなかったら、どうし――――
「……首ってのはさ」
まさに動脈に当てようとした手が止まった。
「頭と並んで人間の最大の急所だ」
形の良い唇がゆっくりと言葉を落とす。
悟らせるように。
諭すように。
でもそれが自分の手を止めたわけではない。
手を止めたのは音もなく、後ろ首に添えられた彼の手の存在のせい。
ぞくりと嫌な感じがする。ネックのある服を着た時に、たまに感じる不快感。
それは本能という奴の警告なのかもしれない。
「アンタにそのつもりがなくても、そこを触れられるってのは命握られるってこと。だから今ここで、俺がこの手降り下ろしてアンタの首折っても正当防衛……分かるか?」
囁くように、彼は言う。瞼は開かない。黒い瞳は、見えない。ただ首にかかる力が増す。
彼の手首を固定する板が、頸椎(けいつい)に押し当てられている。
「……起きて、たんですか?」
尋ねれば、少しだけ、彼の整った眉が寄った。
それは情況が分かってないのかと、訝しむ表情にも見えた。
ぴったりと閉じられた瞼はぴくりとも動かない。もはや完全にパニック状態で手首を掴むものまた固定器具が邪魔して脈が計れない。口に耳を寄せても自分の鼓動しか聞こえない気がする。
昨日容態は安定したのに、どうして。そういえば腹部に深い切傷があった。もしかして殴ったせいで傷が開いたとか、それで出血多量で?
落ち着かなきゃいけないのは分かる。でも理解と実行は連動してない。
どうしよう、どうしよう。あと脈が計れる部位ってどこが……
首、そうだ首。
あわあわと浴衣の襟(えり)を開いた途端、目に入った包帯やコルセットに思わず目を背けてしまった。
でもそれが現実で、再度恐々向き直って、気付く。
……そういえば、朝は小袖を着ていたのに、今は浴衣だ。
やっぱり自分がパンチ、なんて可愛い代物じゃない。本気でストレート食らわせたから。それで傷が開いたんだ。
闇に沈む顔が、青白に見えて仕方がない。その頬の冷たさが、雨の中の温度と被る。手が震えた。どうしよう、今度こそ微かにも脈を感じなかったら、どうし――――
「……首ってのはさ」
まさに動脈に当てようとした手が止まった。
「頭と並んで人間の最大の急所だ」
形の良い唇がゆっくりと言葉を落とす。
悟らせるように。
諭すように。
でもそれが自分の手を止めたわけではない。
手を止めたのは音もなく、後ろ首に添えられた彼の手の存在のせい。
ぞくりと嫌な感じがする。ネックのある服を着た時に、たまに感じる不快感。
それは本能という奴の警告なのかもしれない。
「アンタにそのつもりがなくても、そこを触れられるってのは命握られるってこと。だから今ここで、俺がこの手降り下ろしてアンタの首折っても正当防衛……分かるか?」
囁くように、彼は言う。瞼は開かない。黒い瞳は、見えない。ただ首にかかる力が増す。
彼の手首を固定する板が、頸椎(けいつい)に押し当てられている。
「……起きて、たんですか?」
尋ねれば、少しだけ、彼の整った眉が寄った。
それは情況が分かってないのかと、訝しむ表情にも見えた。
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