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Past#1 不意打-thunderbolt-
Past#1 不意打-thunderbolt- side.?
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確かに、昔から歪んでたけど。
ここまで病んではなかったし、常に死にたがりだったわけじゃない。
"死にたがりの武藤の死神"
少なくとも、その名称で呼ばれなかったここ四年は、普通に生きてきた。
ヤクザ社会における普通、だけど。
「それから、言っておきますが」
「……なに」
「うちは朝比奈にも武藤にも関係はないです。強いて言うなら西町で道場を営む《富岡》と言います」
「……」
言い切る彼はすっかり荒々しさや殺伐とした雰囲気を身の内に仕舞いこみ、まるで何も知らない一般人のような、柔和な笑みを浮かべていて。
ヤクザかと聞いた時のあの表情を知らなければ、うっかり騙されていただろう。
徹底した猫かぶりには呆れるよりも脱帽する他ない。
「貴方の経緯なんて全く知りたくもありませんが、私たちは、人として当たり前に、怪我人を助けただけ。理解できましたら、もう黙って寝てなさい。貴方、ただでさえ、貧血を起こし」
「――悪い、世話になった。出てく」
「た状態……ってはぁ!? 貴方本当に人の話聞いてないですね……っ」
「聞いた、富岡だろ?」
「その後が重要なんですが!?」
いきり立つ彼は、表面をどう繕っているにしても、その根底は善人なんだろう。
ヤクザの巣窟ともいうべきこの地区で生きる限り、ヤクザとの縁は切っても切れない。
この町は東と西、2つの地区から成り立ち、そのほぼすべてがもともとは朝武会のものだった。
だが、朝武会が崩壊した今、土地はどちらかの組が所有する『シマ』となっている。
シマはヤクザにとって『シノギ』という、いわいる『資源獲得活動』地域として何より重大な土地だ。
俺のような中途半端なヤクザものでも、シマの人間は頭に入ってる。
そして俺は西町の富岡など知らない。
そもそもこの、時代に取り残された西町は、全域が朝比奈の主要なシマだった。
つまり、ここは朝比奈領。
この男は朝比奈の庇護を受けているはず。
なのに武藤の俺を匿おうなんて、ただの考えなしじゃなきゃ、お人好し以外の何者でもない。
「本当に!! 武藤明(あきら)は貴方にどんな教育をしたんですかね!?」
『武藤明』が『教育』、ね。
思わず笑ってしまう。あーほんと。
笑わすんじゃねぇよ、て言ってんのに、あんまりに可笑しな単語を真面目な顔して口にするから。
『一般人』を主張するくせに、一般人が知りえるはずない、俺と明の関係性まで知ってんのな、この人。
「武藤明は死んだよ」
あぁ、やばい。笑いすぎて自分の声すら何重に反響させたように聞こえ始めた。
完全な貧血。何よりも折れた肋骨の痛みが突き抜けてやばい。天井が流れ回る感覚がして気持ち悪い。
「……今、何て言いました?」
「武藤明は、死んだ」
思いの外、声が掠れる。目を閉じた。このまま永久に開かなきゃいいと思いながら。
「アンタの疑問は解決したか?」
俺が今、命狙われる状況にある理由を、俺と明の関係を知るような人間なら、その事実だけで悟るはずだ。
武藤明――神保から覇権を奪回し、四年ここを統治した《武藤の組長》が死んだ。
それが意味する、今後この町で起こることも、すべて。
ここまで病んではなかったし、常に死にたがりだったわけじゃない。
"死にたがりの武藤の死神"
少なくとも、その名称で呼ばれなかったここ四年は、普通に生きてきた。
ヤクザ社会における普通、だけど。
「それから、言っておきますが」
「……なに」
「うちは朝比奈にも武藤にも関係はないです。強いて言うなら西町で道場を営む《富岡》と言います」
「……」
言い切る彼はすっかり荒々しさや殺伐とした雰囲気を身の内に仕舞いこみ、まるで何も知らない一般人のような、柔和な笑みを浮かべていて。
ヤクザかと聞いた時のあの表情を知らなければ、うっかり騙されていただろう。
徹底した猫かぶりには呆れるよりも脱帽する他ない。
「貴方の経緯なんて全く知りたくもありませんが、私たちは、人として当たり前に、怪我人を助けただけ。理解できましたら、もう黙って寝てなさい。貴方、ただでさえ、貧血を起こし」
「――悪い、世話になった。出てく」
「た状態……ってはぁ!? 貴方本当に人の話聞いてないですね……っ」
「聞いた、富岡だろ?」
「その後が重要なんですが!?」
いきり立つ彼は、表面をどう繕っているにしても、その根底は善人なんだろう。
ヤクザの巣窟ともいうべきこの地区で生きる限り、ヤクザとの縁は切っても切れない。
この町は東と西、2つの地区から成り立ち、そのほぼすべてがもともとは朝武会のものだった。
だが、朝武会が崩壊した今、土地はどちらかの組が所有する『シマ』となっている。
シマはヤクザにとって『シノギ』という、いわいる『資源獲得活動』地域として何より重大な土地だ。
俺のような中途半端なヤクザものでも、シマの人間は頭に入ってる。
そして俺は西町の富岡など知らない。
そもそもこの、時代に取り残された西町は、全域が朝比奈の主要なシマだった。
つまり、ここは朝比奈領。
この男は朝比奈の庇護を受けているはず。
なのに武藤の俺を匿おうなんて、ただの考えなしじゃなきゃ、お人好し以外の何者でもない。
「本当に!! 武藤明(あきら)は貴方にどんな教育をしたんですかね!?」
『武藤明』が『教育』、ね。
思わず笑ってしまう。あーほんと。
笑わすんじゃねぇよ、て言ってんのに、あんまりに可笑しな単語を真面目な顔して口にするから。
『一般人』を主張するくせに、一般人が知りえるはずない、俺と明の関係性まで知ってんのな、この人。
「武藤明は死んだよ」
あぁ、やばい。笑いすぎて自分の声すら何重に反響させたように聞こえ始めた。
完全な貧血。何よりも折れた肋骨の痛みが突き抜けてやばい。天井が流れ回る感覚がして気持ち悪い。
「……今、何て言いました?」
「武藤明は、死んだ」
思いの外、声が掠れる。目を閉じた。このまま永久に開かなきゃいいと思いながら。
「アンタの疑問は解決したか?」
俺が今、命狙われる状況にある理由を、俺と明の関係を知るような人間なら、その事実だけで悟るはずだ。
武藤明――神保から覇権を奪回し、四年ここを統治した《武藤の組長》が死んだ。
それが意味する、今後この町で起こることも、すべて。
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