Rainy Cat

mito

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Past#1 不意打-thunderbolt-

Past#1 不意打-thunderbolt- side.?

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彼は俺が気づいてないと思ってたんだろうか。
一度この部屋の前で立ち止まって、それから何が"息子"に起きているか気づいて。

襟の間に手を入れて、黒光りするソレの安全装置を下ろした音。


別にソレを持っていること自体は、この地区で暮らし、生計を立てる以上不思議ではない。


普通じゃねぇのは、ソレを手にしバーを下ろすまでの、躊躇いのなさ。


あぁ、だから分かりやすい人間ってのはたまらない。


「冗談。なんもしねぇよ"恩人"には」

「……」

「あぁ、悪い。手ぇ出した後だったか」

「……」

「……アンタさ、意外と、表情豊かだよなぁ。あんま、笑わさないで欲しいんだけど。マジで痛い」

「……本当に。そのままくたばればいいのに」

「言ってん、だろ。殺せばいい、て」


はぁぁぁぁ、と腕を組んで、彼は重く長く息をつく。どうしようもないと、ため息が語る。


「貴方も大概しつこいですね。話を聞いてますか。
貴方がどう思っていようと、可愛い可愛い息子が五日間ろくに眠りもせず看病したものを私が殺す、なんてそんな息子の努力を無下にするようなことは私にはできませんって。

大体そうじゃなきゃ、とうにヤってますよ……息子に触れた時点で」


医師から許可が下りたらとりあえず私が殴ります、と笑顔で宣言する彼は、とてもアイツを大切にしてるんだろうと思う。

アイツは、とても大切にされてんだろう。


……だから体が疼いて仕方ねぇんだ。





起き上がろうとした途端、予想外の激痛に襲われ、不覚にも余裕を失った、あの時。
面白いほどに蒼白し慌てふためいたこの男の『息子』を見ながら、近づいてくるこの男の気配には気づいていた。

……いや。"気づかせる"ことを意図した荒々しい、わざとらしいそれに、気づいていなかったのは、目の前にいたアイツだけ。


愛される人間と言うのは、総じて人の気配に疎いものだ。
気配を気にしなくてよい環境に生まれ、人が周りにいることに慣れているため、必然的にそう育つ。


拾い癖の酷いアイツは、きっとそうやって育ったんだろう。

きっと、俺のような人間なんて、回りに存在しなかったのだろう。


優しい世界の住人。
妬ましいとか壊してやりたいとかは、ない。
昔は思っていたかもしれねぇけど、思春期のガキじゃあるまいし、今は単純にいいなと思う。

そういう人間を見ることが、むしろ俺は凄く好きなんだけど。


……《裏》の人間の例に漏れず、俺はかなり屈折してるから。


体が疼く。

果てない羨望を抱くと同時に




殺されたくなる。
そういう奴の手で。






もはやそれは衝動。
いつもなら理性的な俺がそんな死にたがりの俺を抑制するのだが、あの時はとにかく余裕がなかった。


そんな現実は甘くない、片隅でそう思いつつ。

でもあの時頭を占めていたのは、殴られて折れてる肋骨が心臓にでも突き刺されれば万々歳とそればかり。



重症だな、ここまでくると。

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