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1、岩田サンタ
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【サンタ職ルール 四カ条】
其の一、サンタの帽子をかぶった時点でその地区のサンタに任命されたものとする。
其の二、サンタ職を辞する時は後任のサンタを探さねばならない。
其の三、サンタ職在任中にサンタ本人が病気または死亡した場合、前任者がこれを引き継ぐものとする。
其の四、サンタ本人がサンタ以外に殺害された場合、これを殺害した者は永久サンタに任命するものとする。
1、岩田サンタ
古ぼけたビルの一室。薄暗い部屋でモニターを見つめ、ATC-NSにハッキングし侵入を図る岩田サンタ。
女は走るもまだ駅までは遠く、降り出した雨はやがて雪へと変わるだろう。街はイルミネーションで飾られ、微かに聞こえてくるのは山下何某の曲である。
現在時刻は19時24分。その列車は19時30分発である。女がどんなに頑張って走っても駅のホームまであと10分はかかるだろう。人混みをかき分け、流れる涙を拭いもせず、ガムシャラに走る女。
19時28分。列車の開き戸に立つ男は時計を気にしてソワソワと落ち着かない。見上げると、チラチラと白いものが空に舞い始めた。男は思う。東京で見る雪はこれで最後だなと。男は辺りを見回す。イルカ?いないか?男はため息をつき時計を見る。19時30分。ベルが鳴る。
古ぼけたビルの一室。焦る岩田サンタ。灰皿は紙タバコの吸殻で埋まっている。急ぐ岩田サンタ。
女は走る。時刻は19時33分。半分諦め、それでも諦めきれず、嗚咽を漏らし必死に走る。
19時36分。ホームに着いた女。
駅員が慌ただしく駆け回っている。何事か?列車はすでに・・・???あるではないか!列車はまだ出発していない!彼を探す女。女を探す彼。二人のマフラーが揺れる。
ふーっと大きく煙を吐き出す岩田サンタ。
女が彼を見つけた。走る女。彼もまた女を見つけた。なりふり構わず走る彼。
岩田サンタが小さく呟く。「メリークリスマス♪ J◯東海♪」
ATC-NSとは自動列車制御装置のことであった。
「岩田さん、グッジョブっすね。すげーす」
「・・・別に」
別地区担当の後輩サンタにおだてられるも仏頂面の岩田サンタ。彼には悩みがあった。こんなウゼー仕事は早い事終わりにしたい。それが彼の望みだ。理由は知らない。しかしそう簡単には辞められない。後任者を探さねばならないのだ。無理やりだろうがなんだろうが、このサンタ帽子を誰かに被らせなければならない。
「次の仕事だ」
複数の地区を統括するリーダーらしき男が低い声を響かせた。
「B地区だ行ってこい」
ビルを出て徒歩で現場へ向かう岩田サンタ。今日の冷え込みは厳しく、ヒートテックを物ともせず冷気が身体中を襲う。少しばかり積もり始めた雪のせいか、辺りは静まり返り、元来性悪の岩田でさえ、聖なる夜を意識せずにはいられなかった。
岩田が歩く歩道の傍、バスが通過した時、そのタイヤに弾かれた空き缶が彼の額を襲う。
ぱっくり割れた傷口から真っ赤な体液が流れ出て顔面を染める。反射的に、持っていたクリスマスプレゼントをバスに向かいぶん投げた。爆発し吹き飛ぶバス。
B地区はギャング団のアジトが多い。ぶん投げたプレゼントは手榴弾だったらしい。ギャング団へのプレゼントだったんだろう。
「さあ、困ったぞ」
プレゼントが届かないと知ったギャング団は、おそらくサンタ事務所に殴り込みに来るだろう。なんとかせねばならない。
とりあえずアジトへ向かう。額の傷は痛むが、プレゼントを失ってしまったことの方がむしろ重大であった。どうしよう?
なるべくゆっくり歩いたつもりなのに、いつの間にか目の前にはアジトのドアがあった。まだ作戦は決まっていないが、なるようになれ!とドアを開けた。
中にいた抗争中のギャングどもは、先ほどの爆発事件で警戒していたところに、開け放たれたドアに血まみれのサンタを見て、鉄砲玉がやってきたと勘違いし、機銃を構え安全装置を外した。
それを見た岩田サンタはプレゼントの袋をアジト内にぶん投げた。ドカドカドカンと連続した爆発音が響き、その爆風で吹き飛ぶ岩田サンタ。
「なんだこれ?全部爆弾かよーー!」
わしゃ運び屋か!と自身に突っ込みたくなったが、何しろ吹き飛んでいる真っ最中である。まあ、なるようになれと諦めた時、駐車中のバンタイプの車の屋根に落ち、めり込んだ。
ーーー ーーー ーーー
次のニュースです。
昨夜20時ごろ、東京都B地区にあるギャング団アジトで爆発があり、多数のけが人が出た模様です。警察は記者会見で「爆発の原因は爆発物によるものであり、サンタが区民へのプレゼントとしてギャング団に制裁を加えたもの」と発表しました。尚、現場近くでのバス爆発はバスガス爆発の可能性が高く関連性はないものとして現在捜査中であるということです。
「聖なる夜にギャング団退治。あっぱれサンタさん!ですね!」
「そうですね。サンタポリスですね」
「・・・・・」
次のニュースです。
ーーー ーーー ーーー
騒がしい店内で掘りごたつを囲み焼酎を煽る岩田サンタ。今夜は地区のサンタ忘年会である。仕事時と打って変わって甲高い声で拳をマイクに見立てた統括リーダーが音頭をとる。
「はーいはいはい、皆さま皆さま、宴もたけなわでございますが、ここで一発私めが統括リーダーであるこの私めが、今年を総括しちゃおうかななどと、統括が総括しちゃおうかななどと、滑舌悪いながらも、ソウカツぜつ悪いながらも、総括を統括が草加出身、津育ちの総括が、」
ブーイングの嵐。
「・・・では、総括いたします。そうかっ!そうかっ!わはは♪・・・ぇーと、」
リーダーは喋り捲ってるが誰も聞いちゃいない。隣に座る前出の後輩が喋りかけてきた。
「岩田さん、お疲れ様っす。いやー自分、サンタ職今年初めてだったんすけど、なんかアレスね。すげーす。岩田さんニュースにもなったし」
行き当たりばったりが結果的にそうなっただけなのに誰も真相を知らない。一応説明はしたのだが、謙遜するなと皆が笑った。
其の一、サンタの帽子をかぶった時点でその地区のサンタに任命されたものとする。
其の二、サンタ職を辞する時は後任のサンタを探さねばならない。
其の三、サンタ職在任中にサンタ本人が病気または死亡した場合、前任者がこれを引き継ぐものとする。
其の四、サンタ本人がサンタ以外に殺害された場合、これを殺害した者は永久サンタに任命するものとする。
1、岩田サンタ
古ぼけたビルの一室。薄暗い部屋でモニターを見つめ、ATC-NSにハッキングし侵入を図る岩田サンタ。
女は走るもまだ駅までは遠く、降り出した雨はやがて雪へと変わるだろう。街はイルミネーションで飾られ、微かに聞こえてくるのは山下何某の曲である。
現在時刻は19時24分。その列車は19時30分発である。女がどんなに頑張って走っても駅のホームまであと10分はかかるだろう。人混みをかき分け、流れる涙を拭いもせず、ガムシャラに走る女。
19時28分。列車の開き戸に立つ男は時計を気にしてソワソワと落ち着かない。見上げると、チラチラと白いものが空に舞い始めた。男は思う。東京で見る雪はこれで最後だなと。男は辺りを見回す。イルカ?いないか?男はため息をつき時計を見る。19時30分。ベルが鳴る。
古ぼけたビルの一室。焦る岩田サンタ。灰皿は紙タバコの吸殻で埋まっている。急ぐ岩田サンタ。
女は走る。時刻は19時33分。半分諦め、それでも諦めきれず、嗚咽を漏らし必死に走る。
19時36分。ホームに着いた女。
駅員が慌ただしく駆け回っている。何事か?列車はすでに・・・???あるではないか!列車はまだ出発していない!彼を探す女。女を探す彼。二人のマフラーが揺れる。
ふーっと大きく煙を吐き出す岩田サンタ。
女が彼を見つけた。走る女。彼もまた女を見つけた。なりふり構わず走る彼。
岩田サンタが小さく呟く。「メリークリスマス♪ J◯東海♪」
ATC-NSとは自動列車制御装置のことであった。
「岩田さん、グッジョブっすね。すげーす」
「・・・別に」
別地区担当の後輩サンタにおだてられるも仏頂面の岩田サンタ。彼には悩みがあった。こんなウゼー仕事は早い事終わりにしたい。それが彼の望みだ。理由は知らない。しかしそう簡単には辞められない。後任者を探さねばならないのだ。無理やりだろうがなんだろうが、このサンタ帽子を誰かに被らせなければならない。
「次の仕事だ」
複数の地区を統括するリーダーらしき男が低い声を響かせた。
「B地区だ行ってこい」
ビルを出て徒歩で現場へ向かう岩田サンタ。今日の冷え込みは厳しく、ヒートテックを物ともせず冷気が身体中を襲う。少しばかり積もり始めた雪のせいか、辺りは静まり返り、元来性悪の岩田でさえ、聖なる夜を意識せずにはいられなかった。
岩田が歩く歩道の傍、バスが通過した時、そのタイヤに弾かれた空き缶が彼の額を襲う。
ぱっくり割れた傷口から真っ赤な体液が流れ出て顔面を染める。反射的に、持っていたクリスマスプレゼントをバスに向かいぶん投げた。爆発し吹き飛ぶバス。
B地区はギャング団のアジトが多い。ぶん投げたプレゼントは手榴弾だったらしい。ギャング団へのプレゼントだったんだろう。
「さあ、困ったぞ」
プレゼントが届かないと知ったギャング団は、おそらくサンタ事務所に殴り込みに来るだろう。なんとかせねばならない。
とりあえずアジトへ向かう。額の傷は痛むが、プレゼントを失ってしまったことの方がむしろ重大であった。どうしよう?
なるべくゆっくり歩いたつもりなのに、いつの間にか目の前にはアジトのドアがあった。まだ作戦は決まっていないが、なるようになれ!とドアを開けた。
中にいた抗争中のギャングどもは、先ほどの爆発事件で警戒していたところに、開け放たれたドアに血まみれのサンタを見て、鉄砲玉がやってきたと勘違いし、機銃を構え安全装置を外した。
それを見た岩田サンタはプレゼントの袋をアジト内にぶん投げた。ドカドカドカンと連続した爆発音が響き、その爆風で吹き飛ぶ岩田サンタ。
「なんだこれ?全部爆弾かよーー!」
わしゃ運び屋か!と自身に突っ込みたくなったが、何しろ吹き飛んでいる真っ最中である。まあ、なるようになれと諦めた時、駐車中のバンタイプの車の屋根に落ち、めり込んだ。
ーーー ーーー ーーー
次のニュースです。
昨夜20時ごろ、東京都B地区にあるギャング団アジトで爆発があり、多数のけが人が出た模様です。警察は記者会見で「爆発の原因は爆発物によるものであり、サンタが区民へのプレゼントとしてギャング団に制裁を加えたもの」と発表しました。尚、現場近くでのバス爆発はバスガス爆発の可能性が高く関連性はないものとして現在捜査中であるということです。
「聖なる夜にギャング団退治。あっぱれサンタさん!ですね!」
「そうですね。サンタポリスですね」
「・・・・・」
次のニュースです。
ーーー ーーー ーーー
騒がしい店内で掘りごたつを囲み焼酎を煽る岩田サンタ。今夜は地区のサンタ忘年会である。仕事時と打って変わって甲高い声で拳をマイクに見立てた統括リーダーが音頭をとる。
「はーいはいはい、皆さま皆さま、宴もたけなわでございますが、ここで一発私めが統括リーダーであるこの私めが、今年を総括しちゃおうかななどと、統括が総括しちゃおうかななどと、滑舌悪いながらも、ソウカツぜつ悪いながらも、総括を統括が草加出身、津育ちの総括が、」
ブーイングの嵐。
「・・・では、総括いたします。そうかっ!そうかっ!わはは♪・・・ぇーと、」
リーダーは喋り捲ってるが誰も聞いちゃいない。隣に座る前出の後輩が喋りかけてきた。
「岩田さん、お疲れ様っす。いやー自分、サンタ職今年初めてだったんすけど、なんかアレスね。すげーす。岩田さんニュースにもなったし」
行き当たりばったりが結果的にそうなっただけなのに誰も真相を知らない。一応説明はしたのだが、謙遜するなと皆が笑った。
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