奇跡の星

かず

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第一部 ライアス編

エルド王国(後編)

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夜が明けた。とても日差しが心地よい。エルド王国の首都は強固な石造りの城だ。豪華絢爛というよりも、いにしえより魔族と戦ってきた為、所々修復された新しい石があるが見栄えよりも数々の歴戦に耐え抜いた堅牢な城だ。

ライアスとマリアは城の中に通される。甲冑を身に付けた騎士団に多くの国の重鎮達がいる。そしてその奥の玉座に座っているのは…国王様だ。その隣にはユミ姫も立っていた。

「よくぞ参った!私がこの国の王、エルド18世だ。」ひげをたくわえ70にもなる国王だが、その威厳がある声は、年齢よりも若く感じた。

「この度の戦いはユミ将軍より聞いておる。よく魔族を撃退してくれた。エルローズの村が落とされていたら、この国全土の民の血が流される所だった。本当にありがとう。」そういうと国王は立ち上がり二人に頭を下げた。

「そんな、国王様…頭をお上げください。」マリアが慌てて国王に伝える。

「私達は村から魔族を追い払う為に戦っただけですから…。」ライアスも続けて答える。

「ユミの言う通りの立派な若者達だのう。」

「はい、二人とも聡明で実力も申し分ありません。特にライアス殿は老師から三大奥義を教わっております。」

「な、なんと!あの聖林寺の最高師範である涎老師からか!?」

「はい、まだまだ未熟ですが老師から教わりました。国王様、私は魔王を倒す旅に出たいと存じます。」ライアスの瞳は強い決心で国王を見上げた。

その決意に周囲から動揺と驚きの声が聞こえた。無理もない。魔族に戦いを挑むのだ、しかも若い二人が…。

「ライアスよ、よくぞ申した。そなた達の様な若者が現れるとはな。じゃがな、魔族は知っての通り強い。覚悟の上なのか?」

「はい!」ライアスとマリアの声が揃った。

「うむ。さすれば今の状況をそなたらに教えた方が良いかもしれぬ。大臣!」

「はい。」

「この二人に今の世界の様子を説明してやってくれ。」

「はい、陛下。魔族は現在、各国に進軍をしています。そして…」

大臣によると、魔族は25の将軍の元に各兵力を分けて同時に戦いを仕掛けているようだ。

抗う術のない国は魔族に滅ぼされ、民は魔族の奴隷として使われるか、食料とされるか…悲惨ともいえる状況だ。

エルド王国は北西に位置しており、大陸にある国々の中でも歴史ある国で屈強な騎士団を抱えている。また建築技術も発展しており王都は防衛戦としても簡単陥落するような城ではない。

大陸の中央に位置しているのはマルクト王国である。騎士のエルドに対して魔法のマルクトと言われる魔法王国だ。こちらも魔族の撃退に成功しているらしい。エルド王国とも親交があり歴史も古い。魔族との大戦の際にも連合軍として幾度となく協力して戦っている。

大陸の東にあるのが商業都市のゴンバール都市だ。ここは商人の街であり国王はいない。独自に傭兵を雇い武装している。彼らも豊富な利益を用いて兵器を開発して魔族に対抗している。ただし、厄介なのは商人であり国との貿易はあっても協力して戦おうとはしない事だ。自治都市であり利益を優先に考えるのである。

大陸の遥か南に人が踏み入れる事の出来ない森と湖の国がある。そこには太古の昔より住んでいるとされる精霊の国がある。精霊達は自然を操る事が出来るとされ古の時代より人間と手を組み魔族と争っていたが、今は人間との交流はなく魔族に滅ぼされたのではないかとの情報だ。

そして大陸の遥か北の山々の頂上にはライアスの師匠である涎老師がいる聖林寺がある。かつて魔族と戦い、これを打ち倒したとされる奇跡の勇者が創設したとも伝えられているが、いつからあるのか不明である。ここでは寺と言っても全員が武僧であり、奇跡の勇者が魔王を倒したとされる技を代々伝えているとされている。

大臣は世界地図を使って主だった国々を説明してくれた。この他にも地図には載っていない小さな国や村等があるだろう。

だが今はその人々が無事に暮らしているのかは分からないままだ。

最後に大臣が世界地図の一番東にある場所を指した。そこには先程とは違い細かくはかかれあてはいないが、ライアスとマリアはすぐに理解した。

「かの地こそ邪悪な魔王が支配する魔族の国じゃ。」国王が大臣の横から入って二人に語りかける。

「歴史ではのう、およそ二百年前に大戦が起こったとされている。人類の方から連合軍を編成し、かの地に各国の多くの若者達が挑んだが誰一人帰って来なかった……。」
   
「国王陛下、大臣様、説明して頂きありがとうございます!僕は、まず老師に会って心威把を会得したいと思います。」

「そうか…では聖林寺に向かうのか。あい分かった、旅に向けての路銀と武器と防具を準備いたそう。」

「ありがとうございます!」ライアスとマリアは同時に国王に感謝の意を伝えた。

「ライアス殿、マリア殿!魔王を倒し無事に戻って来てくれ!待っている。」瞳にうっすら涙を浮かべてユミ将軍が二人に伝えた。

「ユミ将軍!僕達の村を…この国を守ってください!!」

「ユミ姫様!平和になったら是非エルローズ村にお越しください。よろしければ城下町を一緒に歩きましょう!」

三人は誓い合った。先日の戦いが初対面なのに、まるで幼き頃からの旧知の仲のように誰もが感じた。

国王は父として感じていた、本当はユミもこの二人と一緒に戦いたいのであろう。共に旅をして魔王を倒したいのだと…しかし、それは叶わないという事はユミも分かっているのだ。だから何も言わずにいるのだと。

「ライアス、マリアよ。二人とも、ようく聞くのじゃ。これから厳しく辛い旅が待っておる。じゃが、そなた達が長き旅の末、魔王の治める国に向かう際には必ず、ユミ将軍率いる我が精鋭騎士団を派遣させよう!」

「お、お父様…あっ、いや、陛下!必ず援軍として駆け付けて存分に魔王の国で奴らを蹴散らしてみせます!」

「国王陛下…!あ、ありがとうございます!必ず!」

ライアスもマリアもユミも驚きと動揺を隠せなかった。だが同時に三人の若者の目は輝いていた。必ずこの世界を魔王から救ってみせると!
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