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第4話 砦の突破
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……ヴァイスは王国へと戻るために禁域の森と王国を分かつ砦へと来ていた。かつてはこの砦を王国から禁域の森へと追放されるときに通ったが、今度は逆に禁域の森から王国に『侵攻』するために通るのだ――ヴァイスはそんなことを思いながら、砦を遠くから観察する。
(……今、砦にいる兵士はおよそ数十人といったところか。それならゴブリンが数体もいれば問題なく対処できそうだ)
ヴァイスはさっそくゴブリンを調達するために数匹の【寄生体】を放つことにした。ヴァイスは他の生物に寄生する前の寄生生物を、寄生後の寄生生物と区別するために、前者を【寄生体】と名付けていた。ヴァイスは革袋から三つの瓶を取り出し、蓋を開けて寄生体をそっと地面に放つ。
寄生体はグニョグニョと変異していき、小さなトカゲのような姿になった。トカゲになった寄生体は寄生対象であるゴブリンを探して素早く森の中へと散っていった。ヴァイスは今回はトカゲタイプを選んだが、寄生体の形態は他にも多くあり、ヴァイスが少し手を加えることで他の形態に変えることは可能だった。
「……これでよし。日暮れまでには帰ってくるだろう」
ヴァイスは森の入り口で寄生体がゴブリンとなって帰ってくるのを待った。
――数時間後、森の中から三匹のゴブリンがヴァイスの元へとやってきた。どのゴブリンも目を爛々と輝かせている。既に寄生されている証拠だった。
ヴァイスはゴブリンたちに【変異】するように指示を出す。すると、ゴブリンたちはバキボキと自身の身体を変異させていき、最終的には2メートルはあろうかという巨大な身体になった。それはもはや普通のゴブリンとは言えないサイズであった。さらに変異後のゴブリンたちは、筋肉が異常に発達していて腕や足が太く、手の先にはナイフのような長く鋭い爪を有していた。
ヴァイスは以前の実験の結果から、この状態のゴブリンであればオークを楽に4、5体は殺れることを知っていた。禁域の森の凶悪なオークですら楽に殺せるのだから、砦のろくに訓練もしていない兵士などは相手にもならないだろうとヴァイスは思った。ゴブリンたちは「グルルル」と唸りながら、ヴァイスの次の命令を待っていた。
「目標は砦の兵士どもだ。……一人も生きて帰すな。夜になってから仕掛ける」
ヴァイスは変異ゴブリンたちに向かってそう言った。これは寄生生物の対人での強さを試すいいテストだ。しかし、寄生生物の存在は絶対に王国や教会に知られてはならない。そのため、ヴァイスは砦の兵士たちを全滅させることにしたのだった。
日が落ち、夜も深くなるとヴァイスは変異ゴブリンたちに向かって「よし、みんないけ」と指示を出す。変異ゴブリンたちは頷くと、砦へと向かって駆け出していった。普通のゴブリンと違って知能の高い変異ゴブリンは、闇に紛れて見回りの兵士を次々と殺していく。ある兵士は後ろからその爪によって一突きにされ、また別の兵士はその強烈な腕力で首の骨をたやすく折られる。見回りの兵士たちを処理した後は窓や扉から内部へと入り、中で休息していた兵士たちを殺し始める。
――数時間もかからないうちに、砦の兵士たちはたった三匹の変異ゴブリンによって全滅させられていた。変異ゴブリンたちは全兵士を『処理』し終えると、ヴァイスの元へと戻っていく。ヴァイスは変異ゴブリンを「よくやった」とねぎらうと、変異ゴブリンとともに砦へと入る。砦の内部はいたる所に兵士たちの血や死体が散乱し、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
(……さすがの戦闘力だ。ゴブリンのような雑魚モンスターでも寄生生物の力があればここまでやることができる。素晴らしい……)
ヴァイスはそう心の中で呟き、笑みを浮かべた。そして、ヴァイスは変異ゴブリンたちの方を向いて言った。
「お前たちは兵士の死体を全て中央ホールに集めてくれ。死体を山のように積み重ねるんだ」
ヴァイスがそう命令すると、変異ゴブリンたちは即座に作業に取り掛かった。一方、ヴァイスは砦の各部屋を巡り、今後必要となるであろう現金を回収した。十分な量の現金を集めると、ヴァイスは中央ホールへと戻った。ヴァイスの目の前には、山のように積み上げられた兵士の死体があった。ヴァイスは兵士の死体の山に向けて錬成陣を展開する。
「……錬成開始」
ヴァイスが錬成を開始すると、死体の山はまたたく間に小さくなり、最終的には手のひらに収まる程のナマコのような寄生体へと変わった。ヴァイスはその寄生体を手に取ると特殊な溶液で満たされた瓶の中へと入れた。
「【ネスト】の調達完了と……」
ヴァイスはそう呟く。【ネスト】とは寄生生物を効率よく生み出すための、いわば母体のような生体組織のことだった。ネストは一度放たれると床や壁に張り付き、急激に成長する。そして、壁一面を覆うほど大きくなると、イソギンチャクのような口をいくつも作り、触手を使って周りの生物を捕らえるようになる。
ネストに捕らえられた生物は、ネストに同化されて寄生生物へと変えられてしまう。さらに、寄生生物へと変わったものは仲間を自身と同じ寄生生物に変えるためにネストへと誘導する……。このようにして、ネストを用いることで急激に寄生生物を増やすことが可能になるのだった。ヴァイスはネストを多くの人間を寄生生物に変える必要があったときに使おうと考えていた。
「あとはお前たちだな」
ヴァイスはそう言って変異ゴブリンの方を向くと、ゴブリンたちを錬成し元の寄生体へと戻した。そしてヴァイスは寄生体を回収すると、砦を出て王国領土へとその足を一歩踏み出したのだった……。
(……今、砦にいる兵士はおよそ数十人といったところか。それならゴブリンが数体もいれば問題なく対処できそうだ)
ヴァイスはさっそくゴブリンを調達するために数匹の【寄生体】を放つことにした。ヴァイスは他の生物に寄生する前の寄生生物を、寄生後の寄生生物と区別するために、前者を【寄生体】と名付けていた。ヴァイスは革袋から三つの瓶を取り出し、蓋を開けて寄生体をそっと地面に放つ。
寄生体はグニョグニョと変異していき、小さなトカゲのような姿になった。トカゲになった寄生体は寄生対象であるゴブリンを探して素早く森の中へと散っていった。ヴァイスは今回はトカゲタイプを選んだが、寄生体の形態は他にも多くあり、ヴァイスが少し手を加えることで他の形態に変えることは可能だった。
「……これでよし。日暮れまでには帰ってくるだろう」
ヴァイスは森の入り口で寄生体がゴブリンとなって帰ってくるのを待った。
――数時間後、森の中から三匹のゴブリンがヴァイスの元へとやってきた。どのゴブリンも目を爛々と輝かせている。既に寄生されている証拠だった。
ヴァイスはゴブリンたちに【変異】するように指示を出す。すると、ゴブリンたちはバキボキと自身の身体を変異させていき、最終的には2メートルはあろうかという巨大な身体になった。それはもはや普通のゴブリンとは言えないサイズであった。さらに変異後のゴブリンたちは、筋肉が異常に発達していて腕や足が太く、手の先にはナイフのような長く鋭い爪を有していた。
ヴァイスは以前の実験の結果から、この状態のゴブリンであればオークを楽に4、5体は殺れることを知っていた。禁域の森の凶悪なオークですら楽に殺せるのだから、砦のろくに訓練もしていない兵士などは相手にもならないだろうとヴァイスは思った。ゴブリンたちは「グルルル」と唸りながら、ヴァイスの次の命令を待っていた。
「目標は砦の兵士どもだ。……一人も生きて帰すな。夜になってから仕掛ける」
ヴァイスは変異ゴブリンたちに向かってそう言った。これは寄生生物の対人での強さを試すいいテストだ。しかし、寄生生物の存在は絶対に王国や教会に知られてはならない。そのため、ヴァイスは砦の兵士たちを全滅させることにしたのだった。
日が落ち、夜も深くなるとヴァイスは変異ゴブリンたちに向かって「よし、みんないけ」と指示を出す。変異ゴブリンたちは頷くと、砦へと向かって駆け出していった。普通のゴブリンと違って知能の高い変異ゴブリンは、闇に紛れて見回りの兵士を次々と殺していく。ある兵士は後ろからその爪によって一突きにされ、また別の兵士はその強烈な腕力で首の骨をたやすく折られる。見回りの兵士たちを処理した後は窓や扉から内部へと入り、中で休息していた兵士たちを殺し始める。
――数時間もかからないうちに、砦の兵士たちはたった三匹の変異ゴブリンによって全滅させられていた。変異ゴブリンたちは全兵士を『処理』し終えると、ヴァイスの元へと戻っていく。ヴァイスは変異ゴブリンを「よくやった」とねぎらうと、変異ゴブリンとともに砦へと入る。砦の内部はいたる所に兵士たちの血や死体が散乱し、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
(……さすがの戦闘力だ。ゴブリンのような雑魚モンスターでも寄生生物の力があればここまでやることができる。素晴らしい……)
ヴァイスはそう心の中で呟き、笑みを浮かべた。そして、ヴァイスは変異ゴブリンたちの方を向いて言った。
「お前たちは兵士の死体を全て中央ホールに集めてくれ。死体を山のように積み重ねるんだ」
ヴァイスがそう命令すると、変異ゴブリンたちは即座に作業に取り掛かった。一方、ヴァイスは砦の各部屋を巡り、今後必要となるであろう現金を回収した。十分な量の現金を集めると、ヴァイスは中央ホールへと戻った。ヴァイスの目の前には、山のように積み上げられた兵士の死体があった。ヴァイスは兵士の死体の山に向けて錬成陣を展開する。
「……錬成開始」
ヴァイスが錬成を開始すると、死体の山はまたたく間に小さくなり、最終的には手のひらに収まる程のナマコのような寄生体へと変わった。ヴァイスはその寄生体を手に取ると特殊な溶液で満たされた瓶の中へと入れた。
「【ネスト】の調達完了と……」
ヴァイスはそう呟く。【ネスト】とは寄生生物を効率よく生み出すための、いわば母体のような生体組織のことだった。ネストは一度放たれると床や壁に張り付き、急激に成長する。そして、壁一面を覆うほど大きくなると、イソギンチャクのような口をいくつも作り、触手を使って周りの生物を捕らえるようになる。
ネストに捕らえられた生物は、ネストに同化されて寄生生物へと変えられてしまう。さらに、寄生生物へと変わったものは仲間を自身と同じ寄生生物に変えるためにネストへと誘導する……。このようにして、ネストを用いることで急激に寄生生物を増やすことが可能になるのだった。ヴァイスはネストを多くの人間を寄生生物に変える必要があったときに使おうと考えていた。
「あとはお前たちだな」
ヴァイスはそう言って変異ゴブリンの方を向くと、ゴブリンたちを錬成し元の寄生体へと戻した。そしてヴァイスは寄生体を回収すると、砦を出て王国領土へとその足を一歩踏み出したのだった……。
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