上 下
84 / 124

84話 ある意味で俺が一番大変じゃね?

しおりを挟む

「フハハハハッ!! 軟弱!軟弱~!」
「貴様らの牙など、当たらなければどうという事はない!」

 大森林地帯に響き渡る叫び声。声の主はひよこ親衛隊の野郎どもです。凶暴な魔獣に臆する事なく……いや、違う。レボアを見れば襲いかかり、ヤキトリ(旧名G)の群れを見れば、これまた襲いかかりと、まさにバトルジャンキー、すでに30分以上この状態が続いております。

 くっ、どーしてこーなった……

 で、さすがにあのバトルジャンキーどもの中には入れない俺は適宜魔獣を狙撃しつつ、まだ魔法の扱いというか使い所に慣れていないメイド隊に矢継ぎ早にひよこ魔法の指示を飛ばし続ける羽目に陥っている。

「効かぬう! 効かぬのだあ!」

 ヤキトリの強烈な一撃を受け、後衛まで弾き飛ばされた親衛隊員がすかさず身を起こし、剣を振り上げるや、ヤキトリへと駆け出す。

「いやいや! 頭から血が吹いてるから!! ナカノ! あいつに『テアテ』をかけろ!」
「はい!」
「そこの、足が変な方を向いてる奴! ノボリト!『オテアテ』だ!」
「はヒャい!!」
「あそこで血だるまでピクピクしてる奴! サイガぁ!!」
「おてあげ?」
「アホかあぁっ!! ひよこ!! あそこの血だるまの馬鹿に『いたいのいたいの』たのむ!!」
「はーい♪」

 てなわけでヒャッハー!! な感じになった馬鹿共のおかげで、極限の戦場におけるひよこ魔法の運用の仕方を図らずも実戦でメイド達に叩き込む事になった。なんせ、いかなエイブルメイド隊とはいえ、魔法初心者では予想を超えて発生する馬鹿……いや負傷者に対応しきれないのだ。
 俺だって魔法は使えないんだが、ブレイブクエストをはじめとしたファンタジーRPGで培った経験がある分、プレイヤー目線で比較的冷静に対処出来る事もあって今の立ち位置におさまったわけだよ。だが、このままでは良くない。

「ルイス!」
「はい!」

 メイド達の中で唯一、俺が指示を出さずとも的確に負傷者の治療を進めているのはルイスだけだ。医官としてのこれまでの実力と実績がこの状況下において彼女の成長を促していると見るべきだろう。

「現状の把握に専念してくれ。 負傷者サンプルは幾らでもいる。負傷の程度とそれに適したひよこ魔法の使い所の見極めに集中してくれ。戦場を視ろ! 必要なら他の者に指示を出せ。この機会にお前の医療技術と治癒魔法を組み合わせた総合的な医療大系というものを掴め!」
「はいっ!!」

 医療担当のルイスなら戦闘外傷や緊急医療の重要性を誰よりも理解しているので俺の意図する事も十分に汲んでくれだろう。

「グハッ! やられたあああぁ! だが効かぬぅ!」
「血まみれで言うな! グリ! 『オテアテ』!」

 思うんですけど、ある意味で俺が一番大変じゃね?



 遡ること2時間。

 メイド隊の皆が落ち着いたのをみはからって、ルイスにメイド隊の皆の簡単な診察を頼んだ。

「ルイス、みんなの状態はどうなっている?」
「はい。メイド隊全員がひよこ魔法『ガンバー』を獲得、ステータス上に使用魔法として刻まれています」
「それは、普通に使用可能な魔法を得たと考えて良いのかな?」

 大慰霊祭で使った魔法『まんまんちゃー』がメイド隊が初めて使った魔法だが、これは《使える》魔法とは言い難い。あくまでも新称号《巫女》の固有の力、『神降ろし』でひよこの力を借りたものだ。そもそも『まんまんちゃー』はあくまでも、ひよことの関係性を確立して、ここに至るための布石に過ぎなかった。まあ、あん時はひよこの神としての覚醒を促すのと、その確認が第一目標だったよな。多分。

 そして、今。唐突ではあったがメイド隊の皆が晴れて魔法を手にしたわけですよ。うん、めでたしめでたし。

「義雄様……」

 エイブルを頭にメイド隊全員が俺とひよこの元に誰いうでなく集まってきた。エイブルがひざまづき、こうべを垂れると、それにならうように他のメイド達も一斉にそれに倣った。

「義雄様、私達を永劫の苦悶から解き放って頂いた事に永遠の感謝と忠誠を」
「いやいや! そういうのはいらんから! 俺はこうなれば良いなあと思っただけで、何もしていないぞ。ひよこのおかげだよ。えらいぞ~ひよこ! ほら、エイブルかあさんとおねいちゃん達がありがとうってさ」
「えへへ~♪」

 わしわしとひよこの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めるひよこ。そんな姿にみんなの顔も穏やかになる。

「それでも……今があるのは義雄様がいたからです」
「うっ……」

 こういうのは面と向かって言われると、なんともムズムズして苦手だよ。ほらほら、みんな立って、ひよこ親衛隊ごきんじょさんの目もあるんだから。

「あのー、義雄様、そろそろ我々にもご説明頂けませんでしょうか?」
「ああ、待たせてゴメン。言葉で説明するのも必要だけど、まずはその身で確かめてもらおうか」
「?」

 先ほどまでの俺とエイブル達とのやりとりをただ、遠巻きに眺めるしかなかった親衛隊の連中。正直、理由もわからず、呆気にとられているってのが現状だろう。こういう時って、照れ隠しつーか、なんていうかサプライズ的な事をしたくなるよな。悪いクセだと分かっちゃあいるけどやらずにはおれんのよ。
 俺はニヤリと笑い、メイド隊に向かって指示を出す。

「さて、親衛隊の連中に君らが得た『新たな力』をご披露しようか? みんな、いいかな?」
「ハイッ!!」

 爽やかな笑顔とともに返ってきた返事は、彼女達の自信と誇りに満ち溢れていた。



「ガンバー!」
「こ、これは!!」

「ガンバー!」
「か、体が軽い? いや、力が満ち溢れてくるぞ!!」

「ガンバー!」
「この手応え、みなぎる力……」

 メイド達によってかけられた『ガンバー』の効果を身に受け、ひよこ親衛隊の面々は例外なく驚き、その場に立ち尽くす。そりゃそうだ、自分たちに何が起こったか、その意味がわからぬ者はここにはいない。

「義雄様、ついにやったんですね!」
「ああ、取り戻したよ、色々な」

 彼女達の誇り、名誉、尊厳ーー言葉では言い尽くせない。うん。この世界に来た甲斐があったよ。

「それじゃあ、細かいところの検証だ。メイド隊の皆は『ガンバー』の効果対象や効果時間、使用魔力量とかのチェックを頼む。ルイスはそれらを取りまとめてレポートにしてくれ」
「はい」
「ひよこ親衛隊のみんなは気づいた事とかあったらすぐに報告してくれ」
「はっ!」
「では魔獣掃討ハイキングを始めようか……ん?」

 なんかエイブルさんがモジモジしながら俺の前に進み出てきた。なに? 顔は赤いし、猫耳はせわしなくピクピクと動いている。瞳は潤み、目が合うとなぜかそらされる。???
 やがて、意を決したようにエイブルさんが俺を真っ直ぐに見つめ、口を開く。

「わ、私の初めてを義雄様に捧げます!!」

「………………………………………………………ブフォ!!!」
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

拝啓、くそったれな神様へ

Happy
ファンタジー
名前もない下位神のミスによって死んでしまった主人公。責任を取るように上位神に言われ、下位神は主人公に自分の加護を与える。最初は下位神とはいえ神様の加護をもらえてウハウハしていた主人公だが、、、 あれ、何か思ってたのと違う…俺TUEEEEじゃない… しかも加護持続しすぎじゃない??加護っていつ消えんの?おい!下位神!出てこい!!加護を取り消せ!! 俺を解放しろ!!!これは主人公が様々な異世界へ渡り、多くの物語を記憶し、記録していく異世界物語。 

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~

昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。 だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。 そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。 これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...