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第38話 ……お前、本当にベイカーか?

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 203高地の麓

 王都に戻って準備に10日を費やし、さらに203高地の麓までの道のりに7日かけ、俺たちは再びこの場に立っていた。
 今回は本格的攻略の為にと、俺、エイブル、ベイカー以外にも大霊廟内で働くエイブルメイド隊も全員が参加したため、総勢50人の大所帯となってしまった。
現地に着くなり主だったメンバーはそれぞれの担当の業務の準備に就き、それ以外のメイド達がナカノの前に整列し、指示を待つ。

「各班員は班長の指示に従って動きなさい。報連相はこまめに班長にする事。1500より作戦準備のためキューベル脇の本部テント前に集合。作戦時編成にて整列」
「はい!」

 ナカノの指示にメイド隊が一斉に動く。

 メイド隊員によって次々と設営されるテント。馬車からは装備の入った箱が次々とを降ろされ、用途別に振り分けられていく。

「さすがにこれだけの人数が動くと大変だなあ……と言いたいところだけど」

 皆を車輌で移動できればここまでの日数はかからなかったのだがキューベル1台では無理がある。そのため馬車を仕立ててもらったわけだが気になるのは本隊以外の空荷の荷馬車が10台と、本隊最後尾の荷馬車っぽいモノだ。

 俺の出番は無いようなので、馬車列の最後尾で作業を指揮するノボリトのところに向かった。

「あ! 義雄様~!!」

 俺に気づいたノボリトがブンブンと手を振る。

「ノボリト、ほんとにこれを使うのか?」
「はい。これを使います」


 荷馬車?の幌が取り払われるとそこには木枠で巧妙に荷車に偽装されたアーティファクトがあった。道中、人目を誤魔化すために荷馬車に化けさせていたのだ。運び込ませたのはブルドーザー。ここまで4頭立ての馬に引かせて運んできたわけだが、にしても……

「これって、戦車じゃないよな? 戦車と似てるけどこれに攻撃力なんかないぞ。しかもどうやって運んでいるんだ? 戦車に比べれば軽いだろうけど馬4頭で運べるような重さじゃないぞ。一体どうやったんだ? それに燃料だって余裕があるわけじゃないし、どうせ持ってくるなら戦車の方がよかったんじゃないか? 無理すれば一戦くらいなら出来るぞ」

 俺の疑問を一気にノボリトにぶつける。いやもう聞きたい事だらけだよ。

「いえいえ、燃料は不要です。それにこちらの方が効率的なのです」

 効率的……ねえ? ん? 今、サラッととんでもない事いわなかったか?

「ノボリト~ 準備できたよ~!」
「はーい」
「俺も見てていいか?」
「はい!」

 ブルドーザーのそばにいた隊員の呼び声に応えてノボリトが駆け出すのに俺もついていった。

「牽引策、外しまーす」
「はーい、オッケー外れたよー」

 ブルドーザーと引き馬の連結が外される。続けてテキパキと外される木枠。んん? これもしかして……

「浮かしてるのか?」
「はい。胴体下に浮揚の魔法陣を刻んだ板を通して、その上にブルドーザーを載せました。魔力の供給を止めると渡し板の浮揚効果が消えて、ブルドーザーは地面に降ります」
「だったらブルドーザーに浮遊の魔法陣刻めば良いんじゃないか?」
「そこは魔法陣の干渉とか、技術的な問題で……でも渡し板は浮遊と強化が同時に発動しますから頑丈です!」

 なるほど、普通にブルドーザーなんか板の上に乗せたら折れるよな。ノボリトやるなあ。

「行くよ~」

 掛け声に合わせて魔力供給が切れたのだろう。ブルドーザーを載せていた渡し板が浮力を失いゆっくりと地面に降り、ズンと小さく地面を震わせブルドーザー本体が接地した。

「じゃあ動かしますね」

 運転席に乗り込むノボリト。

「待て待て! どうやって動かすんだ? 燃料ないんだぞ!」
「大丈夫です! 燃料はいりませんよ」
「はあ?」
「ドライブシャフトに回転運動の魔方陣を刻み込みました。魔力を送り込んで、あとはギアをニュートラルから1速に……きゃ!」

 ガコガコと揺れてギアが入らない、おそらくシャフトの回転数が高いのだ。
 発想はいいんだけど免許もない素人にはこれの操縦は難しいぞ。初めてな事であり、改造自体も成功とは言い難いな。
 改善点にしても構造をある程度理解していなければ見極めるのは困難だろう。
 操縦にしても、この世界に免許とか無いし……待てよ。そういやあ一人心当たりがあるな。

「ベイカー!! こっちに来てくれ!!」



 ブルドーザーは軽快に走り回っていた。もしかしたらと思ったら大正解だった。

「むう、なんか悔しいです」
「気にするなよ。人間なにがしか取り柄があるんだ。たまたまベイカーにそれがあっただけだよ」

 一通り走らせたベイカーが俺たちの前に戻りブルドーザーを止める。今回は十分に釘を刺しておいたから暴走は無しだ。

「どうだベイカー?」
「回転数に難ありです。もう少し回転数をコントロール出来ないとギアチェンジが難しいのと、最悪、ギアボックスが破損する可能性があります。走行時は回転数が高すぎてトルク調整ができないのがネックですかね。パワーを活かしきれないつーか、このままだとクラッチ板がすぐダメになりますよ」
「……お前、本当にベイカーか?」
「し、失礼な」

 このままベイカーに操縦させるのもいいけどノボリトはどうだろう?

「どうするノボリト?」
「1日下さい。カタチにして見せます!ベイカーさま、付き合ってもらえますか?」
「お、おう。テストドライバーは任せろ!」

 ああ、昔こんな技術開発ドラマあったなあ……

 開発者魂に火のついたノボリト達の元を離れ、俺は設営隊のほうに歩いていった。

「義雄様が来ました」とヴィラール。
「ニオイに釣られました」とペロサ。
「ちげーよ。いい匂いはするけどね。……また見たこともないものがあるし。キッチン? ここで?」

 見れば野営地のど真ん中にオープンスタジオなんかにあるようなキッチンが据え付けられ、エプロンをつけた双子が手際よく調理をしている。看板に【カレーの勇者さまっ・203高地店】とか書いている。

「持ってきたのかよ」
「食事は大事」とヴィラール。
「おしながき」とペロサ。

 メニューまであるんかい! 野営じゃねー。

 双子の店を離れるとナカノとメイド隊員が装備の確認をしていた。彼女たちの肩に吊り下げられたのはMP40マシーネンピストーレと言われる短機関銃だ。もちろんノボリトにより魔改造済み。拳銃弾を使用している銃ということでこれを選んだのか。いや、まて。

「メイド服と機関銃……なあ、ちょっと聞くけど大霊廟でなにか見た?」
「え~、言ってる意味がわかりません。今から射撃訓練をしますがご覧になりますか?」
「うん。見ていこうか」
「では、総員整列! 構え!!」

 ナカノの指揮でメイド隊員が横一列に整列しMP40をかまえる。

「斉射20秒、撃ッ!!」

 一斉に火を噴くMP40! と言いたいところだが今回の弾丸が対ゴーレム仕様の風魔法弾のためか、音もさほど大きくなく、マズルフラッシュが一切ない。なんとも肩透かしだが、50m先の着弾点の様子を見るとkar98k改ほどではないがかなりの威力があるようだ。

「夜間戦闘とか強襲みたいな特殊作戦に使えそうだなあ……」

「カ イ カ ン ♡」

「!?」

 聞こえるか聞こえないかの大きさで、誰が言ったかわからない。でも、絶対わかって言ったよな!

 翌日

「本当に護衛はいらないのか?」

「はい。基本的にゴーレムの起動開始の30分以内の作業になります。推測が正しければゴーレムの活動を抑え込めるはずです」

 現在のメイド隊の編成は少し風変わりだった。主力はベイカー操縦によるブルドーザー。あとはショベル装備のメイドとか、ふるいを抱えたメイドとか、はたから見たらこれのどこがゴーレム攻略だよとツッコミがはいりかねない。

 念のためにと俺とメイド隊員が5人だけが武装して待機。装備はもちろん俺がkar98k、他の子はMP40。威力は折り紙つきだがゴーレムコアを打ち抜かなければ効果は無い。まあ連射できるから撃ちまくればいいか。俺のなんか当てれば色々吹っ飛ぶし。

「あの、義雄様……マジカルエイブルに御用は……」
「うん。イラネ」


 こうして作戦が始まった。

 ベイカーの操縦するブルドーザーが動き出す。土の色が変わる手前でドーザーブレードを降ろすと地表を削るように山頂に向かって進み始める。100mも進んだところで左に旋回し100m進み、さらに左に旋回し100m進むと地面にはブルドーザーの通った跡が、上から見るとコの字にくっきりと残った。

「これでいいですか~?」

 ブルドーザーの上からベイカーがノボリトに確認すると早速削られた地面を調べ始める。

「表層のマテリアル層は綺麗に削り取られてますね。それじゃあシャベル隊の皆さんはブルドーザーで囲った部分がちゃんと203高地から隔絶されてるかを確認してください。繋がっているところがあったらシャベルで削り取って下さいね」

「了解 ~!」

 2名でチームを組んだメイド隊員がブルドーザーの削った溝を進み、やがて溝で囲まれた地面が203高地と切り離されているのを確認し戻ってくる。

「大丈夫です。完全に遮断されてます!」
「では、次の作戦に入りま~す。溝で囲まれた部分に全員突入です!」

 溝で囲まれた部分にシャベルとふるいを持ったメイド隊員が次々と入り込み、シャベルですくった土をふるいにかけると、ふるいの中には丸い玉がいくつか残っていた。

「ゴーレムコアだ……」

 それからもポツポツと見つかるゴーレムコア。それらはノボリトの指示で空荷の荷馬車に次々と運び込まれる。
 まるで潮干狩りみたいにメイドさん達がキャアキャア歓声をあげながらゴーレムコアを掘り出している。皆が時を忘れて、命名【コア干狩り】に興じる中、俺だけが拭いきれない懸念をノボリトに投げかける。

「そろそろやばくないか? 30分過ぎたらゴーレムが活性化するぞ」
「30分ですか? とっくの昔に過ぎてますよ」
「な?」

 何かを確信していたのか、ノボリトがふふんとベタなドヤ顔になる。

「30分過ぎました。203高地本体から分離した場所のゴーレムは活性化していませんね。つまり、この203高地を覆うマテリアルはゴーレムになると同時に足元のマテリアルを通してゴーレムに魔力を供給しているのです」
「それって?」
「魔力供給を断たれた土地のゴーレムは活性化できないのです」
「て、事は……」
「この山は、ゴーレムコアとマテリアルを産する大鉱山と化したのです!」
「なんですと!」

 この瞬間、魔の山は宝の山へと変貌した。

「ベイカーさま~! この勢いでじゃんじゃん溝を掘ってくださいね~」
「おお、任せろ! ガンガン行くぜ!」

 これはあれだ。陣取りゲームだ。子供の頃やった事がある。線に囲まれた部分が自分の領土になるやつ。しかも凶悪なことにみんなの憧れ、全部俺のターンを地でいってるし。

「ノボリト容赦ねーな。この現実を、この巨大な罠を作ったやつが見たら泣くぞ」
「あ、義雄様、夜はがんばってくださいね~」
「え? まだなんかあるのか?」

 いや、何もしてないから体力は余ってますけど、こんなところでハーレム展開ですか?

「うふふ、ゴーレム殲滅祭りなのですよ♪」

 え、あー、ハーレムならぬゴーレム展開、そっちですか……うわぁ、なにこの子。しれっと言ってる事が怖すぎるんですが。こんな子だったっけ? 
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