そんなの女の子の言うことじゃないですよ ― ギャル系女子と出くわした無気力系男子 ―

たゆたん

文字の大きさ
上 下
12 / 27

第6話(後篇):バレバレ

しおりを挟む
■第6話(後篇):バレバレ






――週明け










学校帰りに幸尋ゆきひろは買い物をしなければならなかった。
いつもはスーパーに寄るのだが、今日はスーパーに寄りたくなかった。



あの一件があってまだ日が浅い。
しばらくは心を休めないと立ち直れなくなりそうだった。






今日はちょっと気分を変えたくなって、
駅前の南と東に伸びる商店街で買い物をすることにした。






(・・・ここは空気がやさしいなぁ・・・)





この間まで抱いていた感想は今ではすっかり変わっていた。







「おーい!ユッキ~!」





ゾワッとした。
そんな呼び方をするのはあの女しかいない。



電車から降りてきたのだろう。
彼を見つけると、駆け寄ってきた。






「アカネ・・・今日は早いな」



「こんなとこで何してんだよ」




今日は東側の商店街の入り口まで来ていた。
普段の幸尋の行動範囲ではなかった。


南側の商店街より道路を挟んで南にある、
スーパーまでだった。




何も知らずにニコニコ笑っている彼女。



アカネの顔を見て、急にイラッとした。


昨日のバイト先での完全包囲は、彼女が居候いそうろうしていなければ、
起こり得なかった事件だった。


あのときの苦労が思い出される。




瀧江たきえ店長からの「もうヤッたの?」というのは、
生々しい質問、いや尋問じんもんに他ならなかった。

全く身に覚えのない幸尋と、何か隠していると疑う瀧江店長。






今はその辛かった苦労を振り切って、
アカネの質問に応えなければならなかった。






「えぇ?いや・・・それは・・・あれだよ・・・
美味しいコロッケがあるって教えてもらったから」




「マジマジ!?あたしも食べたい」



「食べるって言ってないんだけど!」



アカネは幸尋のすぐそばにぴたりと寄ってきた。











一瞬、ヒヤリとした。





本当は委員長のことが気になって、東側の商店街まで来たのかもしれない。


気分を変えたいと思っていたはずだったが、もうひとつ違うことを無意識の
うちに思っていたのかもしれない。




そんなことはアカネには言えなかった。
ふと思い出したコロッケのことを持ち出した。





委員長と一緒に帰ったときの匂いが印象的だったのかもしれない。



コロッケが美味しい店は商店街の入口から近いところにあった。




週末のバイトで揚げ物をよく扱っているし、
何度も残り物を持って帰って食べている。


それは充分美味しかったが、レンジで温めたものだった。
「揚げたて」のものに興味を引かれた。




店の前までくると、さすがにいい匂いがただよってきた。



小さな店だったが、ショーケースには豚・鶏・牛の
さまざまなラインナップがあった。


店の正面の左半分は揚げ物コーナーになっていて、
唐揚げ・コロッケ・焼き豚・ローストビーフなどが
ところ狭しと並んでいる。


初めて来たので、緊張していたが、
すでにお客さんが何人も並んでいたので、気が楽になった。


次々とお客さんがさばけていく。
手際のいい接客に、お客さんも常連が多いようだった。





「すみません、コロッケ4個下さい」



「もう1個追加で!すぐ食べたい!」




すかさずアカネが重ねてきた。
その声がどこまでもストレートで純粋である。




「あいよ」



優しい声が返ってくる。



カウンターから顔だけ覗かせている店のおばちゃんは
心得たもので、あっという間に包み紙にコロッケをめる。








「あい、300円ね」


幸尋もおばちゃんを待たせないように、
スムーズにぴったりの金額を差し出した。






「あい、ありがとね~」


「ありがとうございます」




幸尋は軽く会釈えしゃくしてコロッケを受け取った。


店の奥で揚げ物を揚げているのだろう。
プチプチパチパチというかすかな音を背にふたりは店を後にした。




彼がげた袋をさっそくアカネは物色ぶっしょくした。






「おっ!アツアツだねぇ」



「おっちゃんか!お前・・・」




「まったく」という面持ちでアカネを見る。
最早もはや、コロッケしか目に入っていないようだった。


さっそく、1個取り出して食べようとした。







「美味しいだろ?」





「っておい!まだ食ってねぇよ」






その返しに幸尋はニヤニヤが止まらなかった。








・・・カリッ・・・




「んほ・・・ふはっ・・・」




いい匂いがアカネから流れてきて、その様子を見てしまう。


1個60円といっても大きくて、手の平サイズぐらいだった。
「揚げたてのものを食べたい」幸尋の衝動がき立てられた。






「う~ん・・・うんうん」





「何かしゃべれよ。意味のある言葉で・・・
それ、朝ごはん用なんだよ?」





「もったいねぇよ?今ならサクサクほかほかだぜ?」





尚も幸尋のほうは向かず、夢中で食べている。
もう無理やりうばってやりたくなってしまう。






「んっ!食えよ・・・ひとくちだけ」



「えっ」




そんなこと言われるとは思ってなかった。
食べたい衝動にはもうあらがえなかった。


それでも差し出されたコロッケにクチを寄せた。
コロッケはすでに半分無くなっている。





・・・サクッ



カリッと揚がったコロッケは厚めの衣だった。
荒い衣がクチのなかで割れていく。


ほっこりしたじゃがいもの分厚い層がほどけていく。


ごろごろしたミンチが分かる。
肉のスープがじわっとみ出る。


味噌みそとスパイスの香りがふわりとしてくる。
どちらもさりげないバランスである。




「んっん~」




美味しい感嘆かんたんの声がふたりそろってしまった。


カリカリのほくほく。ふわりといい匂い。じんわりくる旨味。
精霊が宿っているかのように、幸せでいっぱいになる。







「だろ~?」





「んん~」







美味しそうに食べるアカネの顔を見ていると、
幸尋は毒気を抜かれてしまった。












(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

一宿一飯の恩義

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 妹のアイミが、一人暮らしの兄の家に泊まりに来た。コンサートで近くを訪れたため、ホテル代わりに利用しようということだった。 兄は条件を付けて、アイミを泊めることにした。 その夜、条件であることを理由に、兄はアイミを抱く。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...