そんなの女の子の言うことじゃないですよ ― ギャル系女子と出くわした無気力系男子 ―

たゆたん

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第4話(後篇):知らない顔

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■第4話(後篇):知らない顔






「ユッキーはマジメそーだから、びっくりっしょ?ウチらの学校」



「ははは・・・意外に穏やかだなぁ・・・」



「まーウチら派手だからねー」



幸尋ゆきひろは知らない人とはほとんど話さないタイプだったが、
アカネの写真を見ていたおかげで、話ができそうだった。


話はすぐにアカネのことになった。





「アカネがカレシつくるなんて、マジびっくりだわ」



「だよねー」



「あの子さー親が離婚して、パパについて行ったらしーけど、
そのパパも消えたって言ってたよね・・・」


「えっ!」



思いがけない話に驚愕きょうがくした。
さらりとアカネの家庭事情が出てきた。




「・・・そ、そうだったの!?」


思わず身を乗り出した。
食い入るようにふたりの顔を見た。



「あー訊いてない?なかなか言えないよな~」


「んまぁ、ウチらの学校、家庭環境悪い奴ワンサカいるじゃん?」



一瞬、ふたりの顔から表情が消える。
ぐいっとジュースを飲む。




「確かこっから2駅先でしょ?住んでるのって」


「そーそーこっちに何か用事?まさか転入とか?」



幸尋が間瀬まぜに来ているの理由が気になったらしい。
「じわっ」と変な汗が出た。



「・・・そ、それは・・・ちょっと気になって・・・
アカネの学校が・・・はは・・・」



適当なウソが出てこなかった。
こんなときに機転が利かないのがうらめしかった。

ここに来た理由を言葉にすると、すごく恥ずかしかった。




「あははは!あたしがユッキーのカノジョなら同じことする~」



「ウチらとユッキーとじゃ種族が違うって感じだもんね」



そう言われて、幸尋は同じ高校に通っていたら、
友達になっていたのかを考えてしまった。

アカネが絡んできたからこそ、ふたりに出逢いが生まれた。

何のきっかけで関係が生まれるか分からない。




「あ・・・あのーそのアダ名、定着してるの?」



「ユッキー」という呼ばれ方がちょっぴり恥ずかしい。
知らないところで呼ばれているのが、さらに恥ずかしい。



「あははっ!してるしてる!あの子しょっちゅうゆってるし!」


「そーそーユッキーユッキーゆってたぁ」


彼が知らない、高校でのアカネ。
あわあわして顔が赤くなってくる。

生き生きとした彼女が脳裏のうりに浮かぶ。



ヒロとユミはアカネと友達になって、
すぐにカレシができたという。


ふたりとも間瀬が地元ではなく、
暮羽くれはとは逆の方向から電車通学しているという。


彼女たちのカレシは地元の高校に通う幼馴染らしい。



「あたしら高校からの付き合いだけど、
これまでいいこと無かったみたいだからさ、
あの子大切にしてあげなよ?」



「うんうん、無理してるっぽいからさー」



女の子同士だからなのだろうか。
ふたりはアカネのことをよく見ていた。

幸尋はふたりのような観察眼が無かった。
そのことに何だかあせってしまった。

アカネと知り合ってからまだ日が浅い。
ヒロとユミのほうがアカネとの付き合いは長い。




(・・・・・・・・・)



キャッキャ言うふたりの話を聞きながら、
彼の心には暗いものが満ちてきた。




彼女の家庭事情を知ったときから、
それは心にき上がってきた。





彼が独り暮らしを始めたのは、遠方の高校に入学したためだった。
今、住んでいるところは祖父母の家の近くだった。


実家で息苦しい思いをしていることに、
早くから祖父母は気付いていた。


独り暮らしをして高校に通うのを、
祖父母が勧めてくれた。


それは心身ともに解放されるに等しいことだった。



両親は健在なのだが、仲は冷え切っていた。
ギスギスした家で暮らすのは、息を潜めて生きているようだった。

子供が両親の顔色を見て生活するのは、精神的なひずみを生む。



不仲のとばっちりで雷が落ちないように、
感情に任せた小言の嵐に巻き込まれないように、

彼はいろんなことに気をつける少年になっていった。


顔に表情を出さないように、
本当の自分を外向きの自分の奥深くに押し込めた。




それでも、本当の自分は光を欲していた。





いつか晴れやかな日々が来ることを・・・。







目の前で彼女たちの話を聞きながら、
脳裏に両親のことが浮かんでは消える。





外面と内面に彼はふたりいる。

楽しく彼女たちと話す一方で、暗く沈む自分がいる。






「アカネのプライベートはどうなのさ?
あの子入り浸ってるって言ってたけどマジ?」



「それな~あたしそれ一番訊いときたいわ」


その問い掛けに、彼は気持ちを切り替えた。




「ボクが学校から帰ってきたら、家の前で待ってるよ。
ごはん一緒に食べて、その後もずっといるなぁ・・・」



「んはーマジ羨まし」


「マジだったんだ!」


「今日はまだ寝てると思う」


「アイツいーなー」


「今日は授業あるの?」



「いや~出席日数足りなくてさー、
今日は埋め合わせに学校の掃除したの」


やはり不思議なシステムだった。






「あたしら基本フリーじゃん?アカネもそーだからさー
ユッキーも付き合うの嫌になってんじゃない?」






なぜかその問い掛けに、彼は違和感を覚えた。
それもほんのかすかなものだった。





「・・・ん~あんまり嫌じゃないけど・・・
それなりに何とかなってるし・・・」




アカネに同じ問い掛けをされたら、
ひねくれてそんなこと言わなかったと思う。

それがふたりには思っていることを言った。





「はぁーマジでカレシだわ」



「そーゆーとは思わなかったー」



彼の言葉を聞いて、わずかな間があった。
ふたりは互いに見合って意外というような顔をした。







・・・その後、校舎を見せて回ってくれた。





「ちょ!こんなにひっついたらマズイよ!」


ヒロもユミも幸尋の腕にまとわりつきながら歩いた。
ぐいぃっとふたりの胸が密着する。



「い~じゃん」


「サービスだよぉ」


こんなことなら、この高校に通ってもいいかもしれない。




(・・・や、柔らかいっ!)



ふたりは何とも思ってないようだった。
あれこれと指差しながら、校内を案内してくれた。




(ぁああ・・・絶対アカネには言えない・・・)




生徒は確かに派手なのが多かったが、危ないという感じはしなかった。
制服姿は当然だけど私服姿もけっこういて、彼には不思議な光景だった。
だが、そのおかげで他校生の彼がいても違和感は無かった。



幸尋は自分が通う高校が閉鎖的で暗いのに比べて、
アカネの高校は一見荒れているように見えるが、
明るくて開放的な印象を強く感じた。




(・・・高校が違うとこんなに違うのか・・・)







――お昼前



早めにごはんを食べようと言われて、再び学食に戻ってきた。
昼になると混雑するから、今のうちがいいらしい。



(ほぼ初対面で一緒にごはん!?)


幸尋はビビッた。
会ってから1時間も経っていない。



学食のカウンター付近をよく見てみると、
丼もの、定食もの、パンものに分かれている。

なかでも、定食ものとパンものはコースが設定されていて、
トレイを持ったまま、コースを歩いて料理を受け取る。



「今日はハンバーガーおすすめだよ!」


「そーそー自分でスペシャルなの作れるよ!」



「マジでっ!?」



コースの最初にあるレジで支払いを済ませる。
トレイを持ってコースに進むと、目の前にずらりと容器が並んでいて、
様々な具材が用意されていた。


ミートパティ、チキンフライ、ハム、
ツナ、たまご、トマト、レタス・・・

付け合わせにポテトフライ、オニオンフライもある。


ソースもケチャップやマヨネーズの他に、
数種類のドレッシングも用意されていた。




「ふぉおおお!?」




「何、何?急に」



「ユッキー?」



ヒロ、ユミ、幸尋の順に並んで進んでいたが、
後ろで独り興奮する彼にふたりが振り向いた。




「ユッキー楽しみ過ぎぃwww」



「あはははは!」



幸尋はミートパティを2枚、たまご、レタスをチョイスし、
そこにオニオンフライまで重ねて、フレンチソースをかけた。
よく分からない組み合わせのハンバーガーになった。


フライドポテトもこんもり盛って、ドリンクバーでコーラも入れた。



「ねっ?悪くないっしょ?」



「うんっ!すごいなここ!」



3人は窓際のテーブルに座って、それぞれハンバーガーにかぶりついた。
ヒロはチキンフライ、ユミはツナとハム、ふたりとも野菜を多めにはさんでいる。
ポテトフライは3人ともこんもり盛っていた。



「ふも・・・ほれやっはふもぉ~」



「んふ~んもんも・・・」



「おふぅ・・・もほぉ」



もごもご口いっぱいにして食べた。
何を言っているかよく分からない。


ハンバーガーをかぶり、ポテトフライをつまむ。
ポテトフライはカリカリほこほこだった。




「うちの学食、けっこう好きなんだよね~」


「学校に来てるより、食べに来てる感じだよね~」



ふたりが言うのも納得だった。

幸尋の高校にも学食はあるが、メニューがありきたりで
数回食べに行っただけで、今はもう行くことがなかった。



「学食に食べに来たい!」



「また来なよ!アカネと一緒にさ」



「そーそーいつかみんなで食べたいよね~」




ハンバーガーのランチは美味しかった。
自分で好きなように具材をチョイスできるのが何ともうれしかった。




「昼からも掃除しなきゃいけねぇんだよ~」



「ま、休んだから仕方ないけどね~」



「じゃ、ボクそろそろ帰るよ」



ランチを済ませ、アカネの高校探訪も終わりに近づいた。
おなかも満たされて、何だか満足した。




「何かあったらさ、あたしらに訊いてよ。友情には厚いんだかんな。」



「だねーだねーこれでウチら、ダチだねー」




「・・・あ、ありがと」



3人の間で電話番号を交換した。

やっぱり番号登録がよく分からず、あたふたした。
ふたりは見かねて、登録をやってくれた。




「じゃーなー!」



「また来いよ!」




幸尋はヒロとユミに元気いっぱい見送られた。
初めて来た高校なのに、校舎を出るときはちょっぴりさびしかった。








――帰り道






間瀬駅までの道を歩きながら、来てよかったと思った。
衝動的にここまでやって来たのを、途中まで後悔こうかいしていた。

ヒロとユミに会って、それも一気に吹っ飛んだ。




間瀬駅に着いて、ホームで電車を待つ間、
同じ光景をアカネも見ているのだと思った。


彼女は毎日のように、ヒロやユミと一緒に
高校に通い、楽しくやっているのだろう。




(・・・アカネ・・・)




しばらくして電車が到着し、幸尋は間瀬の街を離れた。


アカネの高校にいたのは、時間にして半日程度のことだったが、
いろんな話を聞けて、長く過ごしていたような気がしていた。




(・・・・・・・・・)



車窓に流れる風景をぼんやり眺めながら、
ヒロとユミとの話を思い出していた。


帰りの電車は何だか速く感じた。












(つづく)
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