そんなの女の子の言うことじゃないですよ ― ギャル系女子と出くわした無気力系男子 ―

たゆたん

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第4話(前篇):知らない顔

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■第4話(前篇):知らない顔







(・・・あ・・・食べてくれたんだ・・・)



朝、幸尋ゆきひろが起きてくると、シンクに空の食器が置かれていた。
それは昨夜のロールキャベツが入っていたものだった。



(・・・風邪、良くなったかな・・・)



ちょっと安心したが、それもつかの間だった。

昨日のバスルームのことを思い出した。
次々とぎる光景に冷や汗が出た。



(アカネが元気になったらあやまろう・・・)



彼女はどういう反応を示すだろうか。
許してもらえる自信はぜんぜんなかった。




・・・学校に行く時間になった。



「アカネの巣」の引き戸をノックした。
学校に行くむねを伝えてから、彼女の様子をたずねた。





「・・・うん、ちょっと良くなったかも
・・・でも今日1日は寝たい・・・」




「・・・!!」




んだ声に、目を見開いた。
胸がハラハラと騒いだ。





「学校行ってくる。菓子パンやお菓子あるから・・・」



「うん・・・」



やっぱり澄んだ声だった。


彼女の顔を見たい衝動に駆られた。
さっきノックした手が今は震えていた。



その衝動を振り切って、家を出た。






――つつみを歩く




今朝も同じように川岸に沿って歩いていく。
水面はきらきらと穏やかだった。


ところどころに鳥たちが休んでいる。





(・・・怒ってないみたいだったな・・・)



大きな溜息ためいきをついた。
一番気になっていたことがかたづいた。


今はそれ以上に気になっていることがあった。
彼女の澄んだ声がまだ耳に残っていた。




(あれがのアカネなんだろうか・・・)




胸がハラハラして仕方なかった。









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




――数日後




アカネの風邪も治って、ふたりは日常に戻った。
ふたりで夕ごはんを食べていると、彼女の高校の話になった。



「いつも3人でツルんでて~基本、授業には出ないね」



「はぁ!?」




幸尋の想像を超える高校生活だった。

朝のホームルームだけは顔を出して、
あとは学食でダベっているらしい。



「勉強とかは・・・」



「してるって!プリントやってりゃ、じゅーぶんだって!」



謎の方法を教えてくれたが、
幸尋の高校とは全く違っていた。

アカネも同じ2年生と聞いている。
ちゃんと進級はできているのだから、
ますます分からない高校だった。


高校のシステムを理解するのはあきらめた。




彼女にはいつも一緒にいるふたりの友達がいるらしい。
それがちょっと気になっていてみた。




「ヒロとユミだよ」


3人で撮った写真を見せてもらった。
ケータイに何枚も入っていた。




(う・・・みんなギャルだ・・・)


どちらがヒロとユミかを教えてもらったが、
覚えておける自信がなかった。

どちらもカレシ持ちだという。



(どいつもこいつもカレシ、カノジョか・・・)


アカネの話を聞いていると恋人をつくるのが
当たり前のことのように思える。



「・・・・・・・・・」




「ど、ど、どうしたの?」



ケータイを見るアカネが黙り込んだ。
何かマズイことをしたのかと、幸尋はあせった。




「あ、いや、何でもねぇって」



心なしか、彼女の目が淋しそうだった。
それも一瞬だった。すぐにいつもの彼女に戻った。






・・・アカネからめずらしい話が聞けた。


彼女が通っている高校は、電車で2駅先の高校のようだが、
地理に詳しくない彼にはよく分からなかった。




(いったいどんな高校なんだろう・・・)



話を聞いてから、とても気になってきた。

彼には「必要が無ければ動かない」という行動原理がある。
それが今回は原理から外れる衝動が働いた。







土曜日の朝早く、出掛けることにした。


いつもの如く彼女は金曜日の夕食を食べてから、
居座いすわってダベり、寝落ちした。


土曜日はだいたい昼までか昼過ぎまで寝ている。



彼はこっそり身支度みじたくをして、
テーブルに書き置きを残して出掛けた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




暮羽くれは駅まで歩いていった。



東線に乗ると「温泉街」行きで、
南線は「平野」行きである。


東線はしょぼい。1輌しかない電車で路面電車みたいなものだった。
「温泉街」のある温泉駅以外にも、いくつか駅はあるのだが、
みんなのイメージは「温泉街」だった。


南線の「平野」行きは、だいぶ離れたところに車両基地がある駅らしい。
2駅先の間瀬駅にアカネが通う高校がある。



とりあえず切符を買って「平野」行きの各駅止まりに乗った。




電車は空いていて、動き出した車窓から暮羽町を眺めた。
過ぎ去っていく町並みが新鮮だった。




電車はしばらく海沿いの線路を走り、
いくつかトンネルを通った。


10分ほど経つと、山間の集落に駅があった。
それからさらに15分ほど、山と川しかない風景が続いた。





――間瀬まぜ




到着前から家々やビルが見えていた。
駅に降りると、暮羽町よりにぎやかなところだった。


彼女の高校は歩いて10分ぐらいのところだった。
1km弱といった距離だろう。



バスもあったがお金が勿体もったい無かったし、
いい機会だからいろいろ見ておきたかった。


幸い時間もあることだし、ゆっくり歩いて行くことにした。





駅周辺にかたまっている街は雑然としていた。
生活の街というよりも繁華街はんかがいっぽい。



それも歩いていると、数百mも行かないうちに
急に工場ばかりの殺風景さっぷうけいになってきた。



工場は塀や壁で囲まれていて、中からけたたましい音がしていた。
金属を切断したり、叩いたりする音が絶えない。


それを耳障りに思いながら道を歩いた。
道沿いに続く塀や壁には落書きが多かった。



やがて大きな車道に行き着いた。




向こう側は住宅地のようで、角にコンビニがあった。
その奥に学校らしき大きな建物が見えた。


信号が変わるのを待ちながら、しげしげとその建物を眺めた。

白を基調にしているが、ブラウンも配色されている。
窓の造形が少し丸みを帯びていたり、柱などの部材には
さりげない細工がしてあるのか、落ち着いた印象を受けた。
幸尋の通う学校より洒落しゃれたデザインだった。

これまで歩いてきた工場の風景がくすんだ色だったので、
余計にキレイに見えたのかもしれない。



信号が変わって歩きだした。

横断歩道を渡って、とりあえずコンビニで
休憩しようと思った。




(あ・・・)



女の子数名がコンビニから出てきた。
アカネと同じ制服をしていた。

見るからに派手だった。



(あんなのが大勢いるんだろうなぁ・・・)



雑誌コーナーでいくつか雑誌を立ち読みして、
500ml紙パックの青りんごジュースを買った。


コンビニの前で座り込んで、
ごくごくのどを鳴らしながら飲む。

甘酸っぱくて爽やかなりんごの香りがする。
身体に染み込んでいく心地だった。




(・・・ああ・・・なんでこんなことしてるんだろう・・・)


ジュースも飲み終わって、ゆっくり立ち上がった。

アカネがどういう学校生活を送っているかなんて、
彼女について行かないと知りようがなかった。







「あーっ!アカネのカレシだぁ!!」


「わ、ホントだ!」



前から歩いてきた女子高生ふたりに、
いきなり指を差された。




「ひっ!?」


突然のことで、ふたりが誰だか分からない。
あっという間に駆け寄ってきた。


「え、え、えっ!!」


顔を覗き込まれて、彼は戸惑った。
改めて見ると、アカネと似たような感じの女の子だった。



「コレコレ」


そう言って、ケータイを突き出された。
覗き込んでみると、見覚えのある写真が表示されていた。


「あっ!」


ヒロとユミだった。
どっちがどっちやら名前と顔が一致しなかった。




「そーだ!学食で茶でも飲もーぜ」



「いいね~しょーたいしょーたい!」



戸惑っている幸尋は、有無を言わさず手を引かれて、
学校の正門を入っていった。

正面の入口は左右に広く開いていて、
靴を入れる大きな棚がいくつも並んでいた。


それを抜けると回廊になっていて、中庭があった。
中庭といっても公園のようになっていて緑が多く、
自由に通り抜けられるようになっていた。


そこに出て、中庭を囲む校舎を見回すと、
ところどころに落書きが入っていた。



(おお?・・・ふおぉお!)


カラースプレーなのか派手な色がごちゃまぜである。
2階の外壁まで落書きが広がっていた。



「ひひっ!びっくりした?」



「すっごい派手だね!」



「これって、自由に描いていいんだよ?」



「ええっ!?」


ヒロとユミの話によると、学校から中庭限定で
自由に落書きがOKされているらしい。




(・・・おそるべし!!)



再び校舎に入って進んでいくと、別棟がまるごと学食になっていた。
広いフロアは清潔で、調理スペースが見渡せる造りになっていた。
カフェテリアと言ったほうがしっくりくる造りだった。

ここにも中庭が設けられていて、外でも食事ができるようになっていた。


今はお昼までまだ時間があり、調理スペースでは何人ものスタッフが
忙しそうにランチの準備をしている真っ最中だった。


フロアにはすでに何人もいて、ドリンクを飲んだり、
本を読んだり、談笑したりしていた。


その姿は制服と私服が混じっていて意外だった。
荒れているんじゃないかと思っていたが、彼らは穏やかなだった。




フロアの一角に並んでいる自販機でドリンクを買った。


おごれよ」と言われると思って、内心ビクビクしていたが、
ふたりはそれぞれサイフを出して買っていた。






(つづく)
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