そんなの女の子の言うことじゃないですよ ― ギャル系女子と出くわした無気力系男子 ―

たゆたん

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第9話(後篇):そんなの聞いてない

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■第9話(後篇):そんなの聞いてない





――週明けの学校










今週は火曜日が祝日で休みになっていた。

幸尋ゆきひろはこんなときは月曜日も休みにするべきだと思っている。
1日だけ学校に行くのは何とも面倒でならなかった。




「モチがもらえるんだけど、来ない?」


「え、行く行く!モチ欲しいっ」


座席に座るなり、委員長から誘われた。
幸尋は反射的に応じてしまった。


どうやら神社で火曜日に催し事があるらしい。
何でも古くからの伝統行事で、この日は暮羽くれは町だけお休みになる。



「タダではあげないわよ。男手がいるの。とにかく来なさいよ。」


閉口した。
委員長の話は手が込んでいる。

最初に興味のあるもので釣る。
喰いついた後で、条件を色々出す。



「行けばいいんだろ・・・」


ひじを突いて、窓の外に目を向ける。
反射的に喰いついた自分がうらめしい。



今日は月曜日だからバイトも無かった。
祝日の火曜日もバイトは入っていない。


今日は学校帰りに委員長について行けばいい。




「アカネちゃんも来るって」


「いっ!」




一瞬、巫女姿のアカネが脳裏をよぎる。


手筈てはずのいいことだった。
事前にアカネの承諾しょうだくを得ておいてから、話を振ってくるのがあくどい。


幸尋はこの間のことを思い出して、
ヘナヘナになりそうだった。



(・・・こんなイベントが今日あるって分かってたら、
わざわざ不審者まがいなことをしなきゃよかった・・・)



「紛い」ではなく、不審者というほうが適切だろう。

あの日、神社でふたりを見た後、何だか呆然ぼうぜんとしてしまい、
バイト先に戻ったのは、休憩時間が終わる直前だった。


パートさんの目がやけによそよそしかった。
あの行動の一部始終を見られていた気がしてならなかった。



そのことを思い出すだけで、
ヒヤヒヤしてしまう。









(あぁ・・・巡り合わせ悪いよな・・・)



急に疲労感を覚えた。
ベタリと机に顔を沈めた。










――学校帰り






学校ではそれほど委員長と接点がないはずだった。

せいぜいクラス委員の仕事を手伝わされるときに、
少し話をするぐらいだった。


委員長はクラスで色んな者と仲がいい。

一方の幸尋は、彼女の話し相手を見ていると、
話したことすらない者がほとんどだった。


コミュニケーションの貧富差は歴然れきぜんとしていた。

幸尋は委員長のことがうらやましくなったが、
それはほんの一瞬だった。





「なぁ、神社でどんなことしてんだよ」



「基本は掃除ね。後はお守り作ったり、
はらいのお手伝いなんかもあるよ。」



「お守りってバイトが作ってんの?」

これまでお守りについて考えたことなどなかった。
委員長の言葉を聞いて、意外さとガッカリ感が混じる。


「わたしたちはラッピングだけどね。
お守りにはとても有難いものが入っているのよ。
肝心なものは宮司ぐうじさんが作ってるから安心して。」


お守りはやはり謎が残された。
有難いものはあまり追究しないほうがいいのかもしれない。


それにしても、委員長はともかくとして、
アカネがお守りを作っている姿はイメージできない。

やっていたとしても、お守りの効能がだいぶ減るのではないか。





「神社がモチを配るなんて聞いたことないなぁ」



「それはあれよ。神社っていいなと思ってもらわないとね。
現代の人々がすこやかに生きていけるよう神社も工夫してるのよ。」



委員長が話すと、単なるバイトの身ではあるが、
有難く聞こえてくるから不思議である。




要するに、火曜日が神社でいう行事の日で、
参拝者に霊験れいけんあらたかなもちを授けるのだという。


「授ける」と言葉はボヤかされているが、
販売されるもので、「授かる」にはお金がいる。


神社用語は難しい。
直接的な言葉は好まれないようだ。




今日、手伝いに行くのは、その行事の日に使う
諸々の用具を指定の場所に飾るためだった。


貰えるモチというのは、不揃ふぞろいのサイズのものらしい。

単に切りモチや丸モチというのではなく、
小豆餡あずきあんやフルーツ餡が入ったものだという。


神社で手作りしているもので、大量に作ると
どうしても不揃いのものが多少出るらしい。

このさいタダで貰えるのなら、何でもいい。





「うぃ~す」


「お待たせ~」



アカネは鳥居にもたれて、ふたりを待っていた。
彼女のよく分からない挨拶あいさつに、委員長が駆け寄っていく。


幸尋はこんなときどうしたらいいか分からない。



アカネと委員長のほうが仲が良い。
もうずっと前から知っているような間柄に思える。




「何だよ、ユッキー?ぼ~っとして」



「べ、別に・・・」




アカネは全く毒気のない顔で訊いてきた。
幸尋は何となく見透かされたようで恥ずかしかった。




3人で参道を登っていく。



アカネと委員長があれこれ話して歩くのを
幸尋は少し後ろからついていく。


ふたりはどちらも制服姿なのだが、
この前見た巫女姿がそれにダブって見える。




「おい、おふたりさん、巫女の格好はしないのかよ?」



「残念でした。今日は準備だから着ませ~ん」



「てめぇには見せねぇからな!」




だいぶガッカリした。
密かに期待していたのに、おおいにヤル気を削がれた。




(・・・ふっ・・・アカネ・・・
ボクはもう見ているんだよ・・・)




幸尋は平気な顔をしながら、内心ほくそえんだ。






(やっぱり見に行っといてよかったw)








――10分後






「じゃ、始めようかね・・・」

宮司さんの言葉で方々に人が散っていく。


3人は社務所でジャージに着替えた。
宮司の奥さんに言われて、幸尋は男チームに入れられた。

彼は借りてきた猫のようになった。




のぼりをあちこちに立てたり、大きな提灯ちょうちんかかげたり、
幕をあちこちに張ったり、照明のためのライトを出したり、
けっこう力のいる仕事ばかりさせられた。


委員長とアカネは、花を飾ったり、
「魔除け餅」の袋詰めをした。



(クソッ・・・あんなモチに魔除けの効果があんのかよっ)


横目で見ながら、幸尋はモチに八つ当たりした。
力仕事が思った以上に大変だった。


宮司さんは飄々ひょうひょうとした仙人のようなおじいさんだった。
まゆひげが真っ白で、いかにも有難そうな雰囲気をかもし出していた。


この神社では家族が働いているようで、
宮司さんの奥さん、息子夫婦などがいた。


他にも、地域の「総代そうだいさん」という神社の手伝いがいた。
そのなかに混じって、幸尋、アカネ、委員長が手伝った。


誰もがずいぶん年上で、物腰が柔らかだった。


改めて、拝殿はいでんや本殿の中に入ってみると、
造りがけっこう大きかった。


そのぶん、行事に必要な用具も多く、サイズも大きい。
倉庫から出しては指定される場所に運ぶのを何度も繰り返した。


普段、力仕事なんてしない幸尋は身体中がミシミシ鳴った。



(くっ、クソッ・・・モチを貰うだけじゃ割に合わねぇっ)


それを口に出せるような雰囲気ではなかった。


たまに、アカネと委員長が作業しているところを通ることがある。
キャッキャッ言いながら、楽しそうにしているのがうらめしかった。





「お疲れさまでしたー」


社務所を出るとき、3人は揃って挨拶をした。




「今日は有難うね。これどうぞ。」


宮司の奥さんから、「魔除け餅」を2箱もらった。
本来は1箱500円で買うのだという。今回はタダである。


折詰おりづめになっていて、一口サイズの餅が10個入りである。
小豆、抹茶、チョコ、いちご、りんご餡が2種ずつ。
包み紙が和紙になっていて飾りつきである。


モチを食べるだけで無病息災むびょうそくさいのご利益りやくがあるらしい。


それに、包み紙を折ると飾りになる。
これを1年家に置いておくと、福を招くという。


飾りは来年、神社に持ってきてうやうやしく焼いてもらう。
そして、また「魔除け餅」を買うという無限ループである。



「有難うございます」



こんなときのアカネはすごく素直に振る舞う。
彼女に対する宮司の奥さんの心証しんしょうがいい。




(この奥さんをだますとは・・・なんて悪辣あくらつな・・・)


幸尋はアカネの脇で戦慄せんりつした。



「遥さんとアカネさんは明日はよろしくね。
それと君、また来てね。」



むんずと幸尋は肩をつかまれた。
いやに力強い。

悪態の数々を見抜かれていたのかもしれない。




「ははは・・・」





「暗くなっているから、気をつけてね」


宮司の奥さんは笑顔で見送ってくれた。










参道には街灯が点々とともっていた。
その先に見える商店街が明るい。



参道を下りながら、幸尋とアカネは同じ方向を見ていた。




「ヤバいな・・・」



「あぁ・・・ヤバいな」



アカネと幸尋がそれぞれつぶやいた。

ふたりとも気になっていたのは、
スーパーと古びた団地の間だった。


「あの一帯」だけ街灯が無い。
ぽっかりと暗闇くらやみになっている。



「何がヤバいの?」



「はは・・・いや、帰り道がね、ちょっとね・・・」



「暗いの苦手だったの?」


委員長はふたりのトーンとは打って変わって平静である。



「そ、そんなことあるワケないだろ。なぁ、アカネ?」



「あぁ、あたしたちもう高2だぜ?」



ふたりは見合って白々しく笑った。
委員長はふたりの顔をじっと見つめた。


自然にふたりの足は速くなっていた。
それに委員長がついて下りていく。



「まぁ、あれだ。今日は慣れない手伝いで疲れたんだよ。」



「あぁ、疲れた疲れた」



「そうかなぁ・・・」



幸尋はアカネにも委員長にもピクリと反応した。


(アカネは疲れてねぇだろっ!委員長は何かトーンおかしいっ!)



参道を鳥居のところまで下りてきた。

ここまで来ると、右に商店街、左は車道を挟んでスーパーがある。
暮羽町ではそれなりににぎやかなところである。



「じゃ、じゃあな、委員長」


「明日はがんばろうぜ」


鳥居の下でふたりはたたみ掛けるように、
委員長に別れを告げた。


ちょうど交差点の信号が青だったので、
ふたりは駆け足で横断歩道を渡った。




「あ、あれだな・・・今日は疲れたな・・・」



「そうだな・・・肩凝ったぜ」


ふたりは横断歩道を渡りきっても、
競歩するように早足で歩き始めた。





「どうしたんだよ、ユッキー?」


「ん?疲れたから早く帰りたいだけだし。
アカネこそ何だよ、ちょっと早くないかい?」



「いや、あたしも早く帰りたいんだ。疲れてるからな。」



ふたりの足はどんどん早くなる。
スーパーの明るい照明の先は、街灯がぽつりぽつりとあるだけである。



「いけませんよ?アカネさん、そんなに急いでは危ないですよ?」



「な、何言ってんだよ。別に急いでねぇし・・・」



ふたりは脇目も振らず、早歩きした。

幸尋はバイトのときは自転車で通っている。
バイト上がりは夜なので、「あの一帯」の横を通るときは
スピードを上げて一気に通り抜けていた。

それが歩いていると、なかなか進まない。



「アカネさん?何ですか?こっちばかり見て。
またには右も見ないと危ないですよ?」



「ば、バカっ!右なんて見れるワケねぇだろっ!」




ようやく古びた団地が見えてきた。
そのとたん、ふたりはダッシュした・・・。















(つづく)
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