5 / 8
第5話 置いていかないで
しおりを挟む
だいぶ歩いてきただろうか。
幸い、まだ夕日は落ちていない。
だが、周りは木々や茂みが増えてきており、いつの間にか草原というより林か森という表現に近いような環境になってきた。
「このまま、何処にもたどり着かなかったら野宿になりますね」
京極さんについ弱音を言ってしまった。
「俺は平気だが、お前は大丈夫か?野宿になるのも、このまま歩き続けるのもきついだろ」
その通りなので、何も言えず、私は黙ってしまう。
京極さんは何か考え込んだあと、私を近くの木の根もとまで連れていった。
「お前はここで休んでろ。俺がこの辺りだけ見回ってくる」
「え?」
京極さんは木の根もとに私を座らせると、しゃがんで鞄の中をごそごそとし、中に入っていたおそらく健康補助食品であるスティック状のクッキーとペットボトルの水を手渡した。
「これでも食ってろよ」
京極さんは鞄を私の隣に置くと、立ち上がって歩き出す。
京極さんが行ってしまう。
「待ってください。京極さんも休んで食べましょうよ。」
「……」
「置いていかないでください……」
「……」
京極さんは私をじっと見つめたあと、戻ってきた。
良かった。京極さんが行ってしまわなくて。
「京極さん?」
私の隣に座るのかと思いきや、しゃがんでまた鞄をごそごそし始めた。
「これを持ってろ」
手渡されたのは、ヘアスプレーだった。
「え?」
もしかして私、寝癖ついてた?そのためのもの?と思い、髪を確認する。
髪を撫でつけながら、そんなにみっともなかったかなと考えていると、
「万が一、敵が来たらこれを使って逃げろ。目潰しに使える」
と京極さんが言った。
「え……ぇえ?!」
そういう用途ですか!?
「それとも、こっちのほうがいいか?」
京極さんの手には、黒くて四角いものがある。どこかでみたことがある。
「えっと、それは髭剃りですか?」
「違う。……スタンガンだ」
……スタンガン?あの電気がバチバチってなるやつ?
「ええええ!!そんなものまで入ってたんですか?!」
「いや、これは俺のだ。いつも持ち歩いているものだが、ポケットに入ったままだった」
「いっ、いつもですか?!」
「ああ。こっちは扱いがちょっとコツがいる。威力はあるが、もし敵に奪われてしまうとやっかいだ。お前に持たせるのは……」
「こっちのスプレーでいいです……」
京極さんはどうしても、一人で行ってしまうらしい。
「ヤンキーを辞めたのにそんなもの持ってるなんて、元ヤンも大変そうですね」
私がしょんぼりすると、京極さんは私の手を握り、優しく語りかけてくる。
「必ず戻ってくるから心配するな。今までだいぶ歩いたが何もなかった。恐らく今日はここで野宿になるだろう。野外で眠るのも体力をつかう。寒かったら、鞄から何か出して着込んでろよ」
「はい……」
「野宿するにも、この辺が安全か確かめる必要があるだろ。確かめたら、すぐ戻る」
「どうせ、この辺も何もありませんよ……」
「念には念をだ」
京極さんは鞄から自分の黒いジャケットを出し、それを着る。
「いい子で待ってろよ」
京極さんは私の頭をくしゃくしゃに撫でて、歩いていった。
私は京極さんの背中を見えなくなるまで、じっと見送った。
幸い、まだ夕日は落ちていない。
だが、周りは木々や茂みが増えてきており、いつの間にか草原というより林か森という表現に近いような環境になってきた。
「このまま、何処にもたどり着かなかったら野宿になりますね」
京極さんについ弱音を言ってしまった。
「俺は平気だが、お前は大丈夫か?野宿になるのも、このまま歩き続けるのもきついだろ」
その通りなので、何も言えず、私は黙ってしまう。
京極さんは何か考え込んだあと、私を近くの木の根もとまで連れていった。
「お前はここで休んでろ。俺がこの辺りだけ見回ってくる」
「え?」
京極さんは木の根もとに私を座らせると、しゃがんで鞄の中をごそごそとし、中に入っていたおそらく健康補助食品であるスティック状のクッキーとペットボトルの水を手渡した。
「これでも食ってろよ」
京極さんは鞄を私の隣に置くと、立ち上がって歩き出す。
京極さんが行ってしまう。
「待ってください。京極さんも休んで食べましょうよ。」
「……」
「置いていかないでください……」
「……」
京極さんは私をじっと見つめたあと、戻ってきた。
良かった。京極さんが行ってしまわなくて。
「京極さん?」
私の隣に座るのかと思いきや、しゃがんでまた鞄をごそごそし始めた。
「これを持ってろ」
手渡されたのは、ヘアスプレーだった。
「え?」
もしかして私、寝癖ついてた?そのためのもの?と思い、髪を確認する。
髪を撫でつけながら、そんなにみっともなかったかなと考えていると、
「万が一、敵が来たらこれを使って逃げろ。目潰しに使える」
と京極さんが言った。
「え……ぇえ?!」
そういう用途ですか!?
「それとも、こっちのほうがいいか?」
京極さんの手には、黒くて四角いものがある。どこかでみたことがある。
「えっと、それは髭剃りですか?」
「違う。……スタンガンだ」
……スタンガン?あの電気がバチバチってなるやつ?
「ええええ!!そんなものまで入ってたんですか?!」
「いや、これは俺のだ。いつも持ち歩いているものだが、ポケットに入ったままだった」
「いっ、いつもですか?!」
「ああ。こっちは扱いがちょっとコツがいる。威力はあるが、もし敵に奪われてしまうとやっかいだ。お前に持たせるのは……」
「こっちのスプレーでいいです……」
京極さんはどうしても、一人で行ってしまうらしい。
「ヤンキーを辞めたのにそんなもの持ってるなんて、元ヤンも大変そうですね」
私がしょんぼりすると、京極さんは私の手を握り、優しく語りかけてくる。
「必ず戻ってくるから心配するな。今までだいぶ歩いたが何もなかった。恐らく今日はここで野宿になるだろう。野外で眠るのも体力をつかう。寒かったら、鞄から何か出して着込んでろよ」
「はい……」
「野宿するにも、この辺が安全か確かめる必要があるだろ。確かめたら、すぐ戻る」
「どうせ、この辺も何もありませんよ……」
「念には念をだ」
京極さんは鞄から自分の黒いジャケットを出し、それを着る。
「いい子で待ってろよ」
京極さんは私の頭をくしゃくしゃに撫でて、歩いていった。
私は京極さんの背中を見えなくなるまで、じっと見送った。
10
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる