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006 祖父の髪を切ることにした
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私には89歳の祖父がいる。
この祖父は私の母の父親で、もう歩くこともやっとな体であり、外出には介助が必要である。祖父はとてもわがままで、今までも好き勝手生きてきたような人である。
通院や買い出しの他に、定期的に床屋にも連れてっている。
いつも行く床屋は、スーパーに併設されている千円カットのお店だ。
祖父を車に乗せてスーパーに着くと、スーパーで貸出されている車椅子を借りて、それに祖父を乗せてお店まで連れていく。
去年の12月31日にそのお店に連れていったが、お休みだった。
その頃には祖父の髪は、とても伸びていて「耳に入ってしまって鬱陶しくて敵わない」としきりに言っていた。
その時はまた来年カットしに行こうと言っていたが、年を越してすぐに能登半島地震があった。
祖父の家あたりも震度5くらい揺れて、食器棚の中のコップが割れたり、屋根の瓦がズレたり、ひどい事になっていた。
その時の話はまた今度したいと思う。
そんなこんなで、床屋も正月休みが終わっても、断水の影響でしばらく営業してないようだった。
断水も終わって、そろそろ大丈夫かな?営業してるかな?という今日、今度こそ床屋に連れていくために祖父の家に向かった。
だが、向かってる途中で、祖父が毎日食べている『みそかつおにんにく』という味噌と鰹節につけてあるニンニクを買いにスーパーに寄っていたら、外は雪がボトボト降ってきて吹雪いてきてしまっていた。
この寒さと雪、足元の悪さでは祖父を連れて行くのはとても大変だ。祖父は高齢で、体温調節も上手く出来なくなっているようで寒さに耐えられないかもしれない。
だが祖父は、髪に我慢できなくなると足をヨタヨタさせながら自力で歩き、電車に乗り、1人で床屋に行ってしまうことがあるのだ。
認知症も酷くなっている祖父を1人で外出させると、必ずどこかで周りの人が心配して警察を呼んでしまい、大事になるのだった。
私はそんな祖父がとても心配だった。
猛吹雪の車の中で、母と話し合って100円ショップで散髪バサミと散髪用ケープを買っていくことにした。バリカンを買うという意見もあったが、取り急ぎ100円ショップで買えるものだけ買ってみることにした。
100円ショップでは、散髪用のハサミとスキバサミ、あと子供用だがケープを手に入れることが出来た。
祖父の家に着き、祖父に散髪道具を見せると「その方が楽でいい」と言ってくれた。
私がケープを袋から取り出して広げてみていたら、祖父はいつも家の中でも来ているお気に入りのダウンジャケットを脱いで、自分からケープを被ってくれた。子供用のケープだが、年老いてかなり痩せてしまった祖父には、サイズは丁度よかった。
最初は母が「耳の周りだけ」と言って、切ってみていたが、耳の周りだけやるとその部分だけスッキリしてしまい何だかおかしくて、結局耳の前や後ろの裾の方もなんとなく整えながら切った。
若い頃、家で父や兄の髪を切っていたこともある母は、結構うまかった。
後ろ頭の方は、母の腰が痛くなってしまって切れなかったが、私も少し手伝いながら、なんとなくかたちになったのだった。
顔や首周りについた髪の毛を、掃除機やコロコロクリーナーでとってやると、
「おお、すっきりした。ありがと、ありがと」
といいながら、祖父は喜んでいた。
さらに、
「床屋に行くより、いいのになったじゃ」
と言っていて、母も私も祖母も笑っていた。
実は100円ショップで買ったスキバサミでは祖父の薄い髪は上手く切れず使い物にならなかった。
なので、普通のハサミタイプの散髪バサミのみで切ったのである。
祖母も「男前になったよ。はぁーよかった。これからは○○(母の名前)に切ってもらわんち」とほっとしていた。
私と母は、祖父母の家を後にした。
私は帰りの車の中で「後ろが切れなかったから、今度はバリカンを買っていこう」と提案してみた。
「いや......じいちゃんの頭は薄いからハサミだけで後頭部もいけるよ」
と母は言った。
確かに。と思った。
今後祖父を無理に床屋に連れていかなくても済むかもしれないと思い、ホッとした。
今年90歳になる祖父は、私が買ってきた『みそかつおにんにく』を見て嬉しそうにしていた。
ニンニクを沢山食べて、まだまだ長生きしそうな祖父。
面倒を見るのはとても大変だし、なるべく楽に介助していきたい。
その方法がひとつ見つかって、本当によかったと思った。
この祖父は私の母の父親で、もう歩くこともやっとな体であり、外出には介助が必要である。祖父はとてもわがままで、今までも好き勝手生きてきたような人である。
通院や買い出しの他に、定期的に床屋にも連れてっている。
いつも行く床屋は、スーパーに併設されている千円カットのお店だ。
祖父を車に乗せてスーパーに着くと、スーパーで貸出されている車椅子を借りて、それに祖父を乗せてお店まで連れていく。
去年の12月31日にそのお店に連れていったが、お休みだった。
その頃には祖父の髪は、とても伸びていて「耳に入ってしまって鬱陶しくて敵わない」としきりに言っていた。
その時はまた来年カットしに行こうと言っていたが、年を越してすぐに能登半島地震があった。
祖父の家あたりも震度5くらい揺れて、食器棚の中のコップが割れたり、屋根の瓦がズレたり、ひどい事になっていた。
その時の話はまた今度したいと思う。
そんなこんなで、床屋も正月休みが終わっても、断水の影響でしばらく営業してないようだった。
断水も終わって、そろそろ大丈夫かな?営業してるかな?という今日、今度こそ床屋に連れていくために祖父の家に向かった。
だが、向かってる途中で、祖父が毎日食べている『みそかつおにんにく』という味噌と鰹節につけてあるニンニクを買いにスーパーに寄っていたら、外は雪がボトボト降ってきて吹雪いてきてしまっていた。
この寒さと雪、足元の悪さでは祖父を連れて行くのはとても大変だ。祖父は高齢で、体温調節も上手く出来なくなっているようで寒さに耐えられないかもしれない。
だが祖父は、髪に我慢できなくなると足をヨタヨタさせながら自力で歩き、電車に乗り、1人で床屋に行ってしまうことがあるのだ。
認知症も酷くなっている祖父を1人で外出させると、必ずどこかで周りの人が心配して警察を呼んでしまい、大事になるのだった。
私はそんな祖父がとても心配だった。
猛吹雪の車の中で、母と話し合って100円ショップで散髪バサミと散髪用ケープを買っていくことにした。バリカンを買うという意見もあったが、取り急ぎ100円ショップで買えるものだけ買ってみることにした。
100円ショップでは、散髪用のハサミとスキバサミ、あと子供用だがケープを手に入れることが出来た。
祖父の家に着き、祖父に散髪道具を見せると「その方が楽でいい」と言ってくれた。
私がケープを袋から取り出して広げてみていたら、祖父はいつも家の中でも来ているお気に入りのダウンジャケットを脱いで、自分からケープを被ってくれた。子供用のケープだが、年老いてかなり痩せてしまった祖父には、サイズは丁度よかった。
最初は母が「耳の周りだけ」と言って、切ってみていたが、耳の周りだけやるとその部分だけスッキリしてしまい何だかおかしくて、結局耳の前や後ろの裾の方もなんとなく整えながら切った。
若い頃、家で父や兄の髪を切っていたこともある母は、結構うまかった。
後ろ頭の方は、母の腰が痛くなってしまって切れなかったが、私も少し手伝いながら、なんとなくかたちになったのだった。
顔や首周りについた髪の毛を、掃除機やコロコロクリーナーでとってやると、
「おお、すっきりした。ありがと、ありがと」
といいながら、祖父は喜んでいた。
さらに、
「床屋に行くより、いいのになったじゃ」
と言っていて、母も私も祖母も笑っていた。
実は100円ショップで買ったスキバサミでは祖父の薄い髪は上手く切れず使い物にならなかった。
なので、普通のハサミタイプの散髪バサミのみで切ったのである。
祖母も「男前になったよ。はぁーよかった。これからは○○(母の名前)に切ってもらわんち」とほっとしていた。
私と母は、祖父母の家を後にした。
私は帰りの車の中で「後ろが切れなかったから、今度はバリカンを買っていこう」と提案してみた。
「いや......じいちゃんの頭は薄いからハサミだけで後頭部もいけるよ」
と母は言った。
確かに。と思った。
今後祖父を無理に床屋に連れていかなくても済むかもしれないと思い、ホッとした。
今年90歳になる祖父は、私が買ってきた『みそかつおにんにく』を見て嬉しそうにしていた。
ニンニクを沢山食べて、まだまだ長生きしそうな祖父。
面倒を見るのはとても大変だし、なるべく楽に介助していきたい。
その方法がひとつ見つかって、本当によかったと思った。
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