72 / 74
三大神と聖人
しおりを挟む
「三大神が元々はヒトだったのは本当なんですか?」
困惑する僕の質問に対してピアソンさんは、ただ静かにうなずく。そして積み重なった本の中から新たに一冊の本を手に取る。そしてぱらぱらとページを捲り始めた。その本の表紙には”信仰と三大神について”と書かれていた。著者はアラン・ジーキルと書かれていた。
「これは三大神信仰に関する研究をしていた”魔法師アラン・ジーキル”の著書だ。彼は20年以上も前に亡くなっているけど、この著書は現代でも魔法使いの教本としてよく利用されている」
「魔法師ってことはすごい方なんですか?」
魔法師って報告が発行している国家資格だけど、めちゃくちゃ取るのが難しいって事で有名だ。それこそ彼、彼女らは魔法全般のエキスパートと先生は言ってたっけ?
「すごいってのが何をさしてるかによるけど、全魔法使いの憧れの的だったことは確かだね。というか教本とされるほどこの著書は優れているから、当たり前といえば当たり前なんだけどね」
そこまで話すとめくるのをやめ、「ここだ」といってそのページを見せてきた。そこには魔法の開祖と源流という題がでかでかと書かれている。そんなページに書かれた文字に指を添わせながら、とある一文でその手を止めた。
「人魔大戦において”原初の魔法使いマキナ(以下マキナ)”は魔素をヒトに適した魔力へと変換する秘術......【魔法】を編み出した。それまで魔素は魔族のみが扱うことのできたエネルギーであり、それと同時に魔族の強靭な肉体を維持するために必要な構成物質でもあった。当時はこの魔素に関しての研究が積極的に進んでいなかったことや、王国が建国された土地に古くから存在する土着信仰の影響で、”呪い”と称し忌避の対象とされてきた。しかしマキナはこの魔素について詳しく研究した結果、それはある種の自然現象の一つである事を突き止めたとされている」
「お、おお?」
「あはは、簡単に言うと、1、魔法はマキナによって作られた技術だということ。2、魔素はそれまでは魔族しか使えないエネルギーであった。3、研究によって魔素は呪いではなくある種の自然現象だと判明した。これがこのページに書かれた内容の要約だね」
「な、なるほど......?」
煮え切らない僕の反応に対して、ピアソンさんは少し悩むそぶりを見せた。
「ここに書かれているのは三大神として崇められるよりも、そして聖人と成るよりも前。つまりヒトとして生きていたころのマキナに関する文献を元に書かれたモノだと言われています」
ヒトとして生きていたころのマキナか。うーん、いまいち何を言いたいのかがよくわからないぞ!! どうしよう。魔法を学びに来たはいいけど、ここまでやっていて全然ついていける気がしない。
「えーっと、つまりどういうことですか......?」
「難しく考える必要はないよ。要は今まで人間には扱うことのできないと言われてきた未知の力。それを彼女の地道な研究と、人々の間に流れる見聞によって可能にしたということだ。これは”不可能を可能にする感覚”に通じる事だと私達《魔法使い》は理解している」
「あっそういうことですか。つまり今の魔法という技術は、この理論をもとに運用されているってことなんですね?」
「そういうことだね。もっと言うと恩恵は人々に見聞を広めるのと同じように、それがそういうモノだと信仰、それと呪文で我々の願いを神へ送っているんだ。さっきはヒトを超越していた存在に......と言ったけど、これも見聞を広め一種の神の力だと皆に知らしめることで、”不可能な筈の魔法”を”可能な魔法”として成立させている。これも情報の紐づけだ」
「じゃあ、神様がどうのこうのって言うのは、すべて出鱈目なんですか?」
今の話を聞いている限りだと、神様ですらないヒトを神様と騙している風にしか聞こえないんだけど......
「痛いところを突くね。でもそういうことになるかな。ただ”智神マキナというヒト”が生前行った偉業は本当だし、事実として奇跡ともいえる力の行使を可能にしているのだから神様といっても差支えはないと思う。それに法国の言い分では、三大神信仰の始まりは人類を救った3人の聖人をたたえるものだったらしい。それが時間とともに神として崇める者達が表れ始め、今では最も幅を利かせている派閥となった。これが現在の三大神信仰の現状だね」
ピアソンさんは肩をひそめながら、アラン・ジーキルの教本を閉じた。そして最初に開いていた本に視線を戻すと、新たにページをめくると話の続きを始めた。
「さて、話しが脱線してしまったから少し戻そうか。そういったこともあって魔法は情報を智神マキナに捧げ、浮遊などの不可能な魔法を行使する。そのためにはまず智真マキナという存在を受け入れなければいけない。智神マキナを受け入れなければ、自分の理解できる感覚以外のものは行使できない。ロイが強化魔法をうまく扱えていないのはそのためだね」
「もしかしてこれって、さっき教えてもらった......情報の紐付けのために必要な、見聞を広めるという行為なんですか?」
「その通り!! そして、それが信仰の正体でもあるんだ」
ピアソンさんは満面の笑みで「やっとわかってくれたか!!」という表情で僕の前に体を乗り出してきた。あまりのテンションの変化に少しどぎまぎしてしまう。そんな僕の異変息が付いたのかピアソンさんは、コホンッと一息つき椅子に座りなおした。
「あれ、でも三大神って言うくらいだから他にも聖人が二人いるんですよね? 今の話ではマキナしか出てきてないんですが......」
「ああ、戦神ヘルメと奇跡神アスルテだね。この二柱にも、もちろん偉業や逸話はありますよ。ただ魔法はあくまで智神マキナの偉業なので、ほかの二柱には直接的な関係はないね。さっきも言ったけど三大神信仰は、人魔大戦で偉業を残したヒトを称える宗教ですから」
そこまで言うとピアソンさんは何か思い出したらしく、少し考え事をしたのちに口を開いた。
「三大神信仰をよく知らないってことは、ディアナ騎士団長がどうして王都で騎士団長になったのかも知らないのかな?」
「なぜここでディアナさんの名前が出るんですか?」
僕は困惑する表情を浮かべるとピアソンさんへ質問を返す。
「それはディアナ騎士団長は戦神ヘルメの末裔だからだよ」
「......は?」
「あはは、まあ混乱するよね? 魔法の基礎は教えたし、正直あとは実践あるのみだから、次はその話をしようか?」
ちょっとまって? ディアナさんが三大神の人柱の末裔? 辺境の領主に養子入りして、王都では王国騎士団長になって、さらに三大神の末裔って......ディアナさんは本当に何者なんだ......?
困惑する僕の質問に対してピアソンさんは、ただ静かにうなずく。そして積み重なった本の中から新たに一冊の本を手に取る。そしてぱらぱらとページを捲り始めた。その本の表紙には”信仰と三大神について”と書かれていた。著者はアラン・ジーキルと書かれていた。
「これは三大神信仰に関する研究をしていた”魔法師アラン・ジーキル”の著書だ。彼は20年以上も前に亡くなっているけど、この著書は現代でも魔法使いの教本としてよく利用されている」
「魔法師ってことはすごい方なんですか?」
魔法師って報告が発行している国家資格だけど、めちゃくちゃ取るのが難しいって事で有名だ。それこそ彼、彼女らは魔法全般のエキスパートと先生は言ってたっけ?
「すごいってのが何をさしてるかによるけど、全魔法使いの憧れの的だったことは確かだね。というか教本とされるほどこの著書は優れているから、当たり前といえば当たり前なんだけどね」
そこまで話すとめくるのをやめ、「ここだ」といってそのページを見せてきた。そこには魔法の開祖と源流という題がでかでかと書かれている。そんなページに書かれた文字に指を添わせながら、とある一文でその手を止めた。
「人魔大戦において”原初の魔法使いマキナ(以下マキナ)”は魔素をヒトに適した魔力へと変換する秘術......【魔法】を編み出した。それまで魔素は魔族のみが扱うことのできたエネルギーであり、それと同時に魔族の強靭な肉体を維持するために必要な構成物質でもあった。当時はこの魔素に関しての研究が積極的に進んでいなかったことや、王国が建国された土地に古くから存在する土着信仰の影響で、”呪い”と称し忌避の対象とされてきた。しかしマキナはこの魔素について詳しく研究した結果、それはある種の自然現象の一つである事を突き止めたとされている」
「お、おお?」
「あはは、簡単に言うと、1、魔法はマキナによって作られた技術だということ。2、魔素はそれまでは魔族しか使えないエネルギーであった。3、研究によって魔素は呪いではなくある種の自然現象だと判明した。これがこのページに書かれた内容の要約だね」
「な、なるほど......?」
煮え切らない僕の反応に対して、ピアソンさんは少し悩むそぶりを見せた。
「ここに書かれているのは三大神として崇められるよりも、そして聖人と成るよりも前。つまりヒトとして生きていたころのマキナに関する文献を元に書かれたモノだと言われています」
ヒトとして生きていたころのマキナか。うーん、いまいち何を言いたいのかがよくわからないぞ!! どうしよう。魔法を学びに来たはいいけど、ここまでやっていて全然ついていける気がしない。
「えーっと、つまりどういうことですか......?」
「難しく考える必要はないよ。要は今まで人間には扱うことのできないと言われてきた未知の力。それを彼女の地道な研究と、人々の間に流れる見聞によって可能にしたということだ。これは”不可能を可能にする感覚”に通じる事だと私達《魔法使い》は理解している」
「あっそういうことですか。つまり今の魔法という技術は、この理論をもとに運用されているってことなんですね?」
「そういうことだね。もっと言うと恩恵は人々に見聞を広めるのと同じように、それがそういうモノだと信仰、それと呪文で我々の願いを神へ送っているんだ。さっきはヒトを超越していた存在に......と言ったけど、これも見聞を広め一種の神の力だと皆に知らしめることで、”不可能な筈の魔法”を”可能な魔法”として成立させている。これも情報の紐づけだ」
「じゃあ、神様がどうのこうのって言うのは、すべて出鱈目なんですか?」
今の話を聞いている限りだと、神様ですらないヒトを神様と騙している風にしか聞こえないんだけど......
「痛いところを突くね。でもそういうことになるかな。ただ”智神マキナというヒト”が生前行った偉業は本当だし、事実として奇跡ともいえる力の行使を可能にしているのだから神様といっても差支えはないと思う。それに法国の言い分では、三大神信仰の始まりは人類を救った3人の聖人をたたえるものだったらしい。それが時間とともに神として崇める者達が表れ始め、今では最も幅を利かせている派閥となった。これが現在の三大神信仰の現状だね」
ピアソンさんは肩をひそめながら、アラン・ジーキルの教本を閉じた。そして最初に開いていた本に視線を戻すと、新たにページをめくると話の続きを始めた。
「さて、話しが脱線してしまったから少し戻そうか。そういったこともあって魔法は情報を智神マキナに捧げ、浮遊などの不可能な魔法を行使する。そのためにはまず智真マキナという存在を受け入れなければいけない。智神マキナを受け入れなければ、自分の理解できる感覚以外のものは行使できない。ロイが強化魔法をうまく扱えていないのはそのためだね」
「もしかしてこれって、さっき教えてもらった......情報の紐付けのために必要な、見聞を広めるという行為なんですか?」
「その通り!! そして、それが信仰の正体でもあるんだ」
ピアソンさんは満面の笑みで「やっとわかってくれたか!!」という表情で僕の前に体を乗り出してきた。あまりのテンションの変化に少しどぎまぎしてしまう。そんな僕の異変息が付いたのかピアソンさんは、コホンッと一息つき椅子に座りなおした。
「あれ、でも三大神って言うくらいだから他にも聖人が二人いるんですよね? 今の話ではマキナしか出てきてないんですが......」
「ああ、戦神ヘルメと奇跡神アスルテだね。この二柱にも、もちろん偉業や逸話はありますよ。ただ魔法はあくまで智神マキナの偉業なので、ほかの二柱には直接的な関係はないね。さっきも言ったけど三大神信仰は、人魔大戦で偉業を残したヒトを称える宗教ですから」
そこまで言うとピアソンさんは何か思い出したらしく、少し考え事をしたのちに口を開いた。
「三大神信仰をよく知らないってことは、ディアナ騎士団長がどうして王都で騎士団長になったのかも知らないのかな?」
「なぜここでディアナさんの名前が出るんですか?」
僕は困惑する表情を浮かべるとピアソンさんへ質問を返す。
「それはディアナ騎士団長は戦神ヘルメの末裔だからだよ」
「......は?」
「あはは、まあ混乱するよね? 魔法の基礎は教えたし、正直あとは実践あるのみだから、次はその話をしようか?」
ちょっとまって? ディアナさんが三大神の人柱の末裔? 辺境の領主に養子入りして、王都では王国騎士団長になって、さらに三大神の末裔って......ディアナさんは本当に何者なんだ......?
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる