剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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恩恵と歴史

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「まず魔法とは何か知っているかい?」

  本の束を図書室の机に並べ、その中から一冊の本を取り出しながら質問をしてくるピアソンさん。そんな彼の質問に僕は首を傾げる。

「魔法ですか? なんかこう、すっごいパワー的な......」

「あ、浅すぎる......!! それでよく封魔術なんて大仰な物を使えたね!?」

「そんなにおかしいですかね?」

 普段は物静かなピアソンさんだが、今日はやけにテンションが高い気がするのは何故だろう。それに先生から教わった時は、魔法がどういうものとか説明されなかったしなぁ......

「まずは魔法とは何か。そこから学ぼうか」

「それを抜きにしてちゃちゃっと、強い魔法とか覚えれませんかね。えーっと魔力破弾《マナバースト》でしたっけ? アレが使えると便利そうですよね」

「......魔力破弾《マナバースト》はね、ある程度の魔力出力がないと使えないよ。それにいきなり身の丈以上の技を習得したら、きっと過ちを冒す事になる。だからちゃんと、基礎からしっかり覚えていかないと」

 まあ、ピアソンさんの言うことは正しいと思う。僕だって時間があればそうしたいけど、僕に残された時間は今日を抜くと、たったの3日しかない。

「出来る事なら実用的で覚えるのも簡単。そんな魔法が望ましいんだけどなぁ...」

「君は魔法をなんだと思っているんだ。簡単な魔法なんてたかが知れているよ。戦いで使おうなんて夢のまた夢だね」

「なら仕方ないかー。それじゃあ最初からお願いするねピアソンさん!!」

「あ、うん。えーとまず魔法とは何かだけど......これは簡単で“智神マキナ”から与えられる恩恵なんだ」

「恩恵? 僕が進行しているのは三大神ではなくて、女神様なんだけど......」

 僕が信仰している女神様は主に、王国全土と帝国の北部で信仰されている神様だ。

 というか元々王国が出来る前のこの土地で信仰されている土着神が女神様で、王国建国と共に法国から流入してきたのが三大神信仰だ。

 三大神信仰が王国に広がる前は魔法自体なかったらしいけど、正直それは何百年も前の話らしいからなんとも言えない。

「うん、もちろんロイの信仰している神様は知っているよ。でも智神マキナは寛大な神様でね。他の神を信仰していようと、求める者にはその恩恵を与えてくださるんだ」

「はえー女神様とは大違いだ」

「いやそれ、君が言ったらまずいんじゃないかい?」

 なんかピアソンさんが怪訝な顔つきになる。あっもしかして僕が、本当に女神様を信仰しているか疑ってる?

「そうかな? 実際女神様は与えてくれる恩恵ってスキルって言うんだけど、ほとんどの信者は持っていないしなぁ。どちらかというと神様というよりは、皆んな縁起物みたいな感覚で信仰しているよ?」

 僕は昔参加した貧民街の教会で、おばちゃん達と話し合っていた内容を思い出す。あの時はよく飴玉を貰ったり、色々女神様のお伽話を聞いたなぁ。

「......多分それは君の周りだけだと思うよ。僕が知ってる女神信仰は、三大神信仰よりも厳格な印象あるし」

「もしかして貧民街だったからなのかな?」

「どうだろうね。まあとにかく、魔法は智神マキナ様からの恩恵だというのがわかればそれでいいよ」

「はーい」

「それで次は魔法がどうして発動するかだね。これはちょっと複雑で、まず魔法を操るためには何が必要かわかるかい?」

 これは流石の僕でもわかる。

「魔力でしょ?」

「そう魔力だ。もっと詳しく説明すると......竜脈などの自然から排出される“魔素《まそ》“を取り込み、それを自分の体に合う様に変換したものが”魔力“になるね」

「えーっと、つまりは魔力自体は自分の体で作り出す物だけど、その大元となる材料は自然由来の物ってことかな?」

「そういうこと。魔素のままでは魔法は使えない。自分の体に合ったエネルギーに変換できてやっと、僕らは魔法として行使できる様になるんだ」

 なるほど。ん? ちょっと待てよ?

「それだと智神マキナは関係ないんじゃないの? だって魔力を作るのはあくまでも、魔法を使う本人なんだよね?」

「いいところに気がついたね。じゃあロイ。君が使える強化魔法は、どうやって発動している?」

「えーっと。なんかこう、ブワーって」

「ああ、そうじゃなくて。魔法を行使する際に、何を意識しているのか聞きたいんだ」

「うーん?」

 魔力を発動するために何を意識しているか? あっ、もしかしてアレのことかな?

「なんか僕が習った時は、血液を体中に循環させるイメージって......」

「なんだちゃんとわかっているじゃないか。そうだね。多分、三大神信仰以外の信徒が、魔法を使うとそうなるかも知れないね」

「え、ピアソンさん達は違うってこと?」

「ちょっと違うね。僕たち魔法使いは魔法を使う際、マキナへ魔法のイメージを送る場合がある」

 神様へイメージを送る? それって、手紙を渡すみたいな感じなのかな? でも見たこともない、いても場所なんてわからない神様相手にどうやって手紙を渡すんだろう。

「イマイチ意味がわからないなぁ......」

「あはは、まあそうなるよね。別に難しく考えることはないよ。ただ願うんだ。こういう魔法を使いたいって」

「そんなので本当に使えるんですか?」

 僕は疑惑の目でピアソンさんに目を向けると、苦笑いを浮かべながら手元に一冊置かれた本に手を当てる。

「いいかい。よく見ておいてね」

 そういうと手の下に置かれた本が、いきなり中に浮かび始める。

「おお、浮いてる!?」

 昔どこかの本で読んだことあるけど、魔法って確か空を飛んだりは出来ないんじゃなかったっけ?

「これは本来不可能な動きだ。でもそれが実際に起こっている。それはなぜだと思う?」

「えーっと......」

 不可能なことが起こるなんてあり得ないんだ。起こり得ないからこそ不可能と言うのだから。

「ヒント。最初に私は魔法に必要なものはなんだと言ったかな?」

「紐付ける情報.....?」

 僕の答えに満足いったのか、ピアソンさんは頷きながら笑みを浮かべた。

「そうだね。もう少し言うと感覚。これが大事だと私はさっき言ったね」

 確かに感覚は大事とはいったけど、それとこれとどんな関係が?

「次の質問。不可能だと言われている魔法は、なぜ三大神の信徒以外に行使できないのか?」

「恩恵がないから?」

「その通り。だけどもう一つあるね」

 もう一つ? 他に何があるだろうか。不可能なことがを可能にする方法......いや、無理じゃないかな?

「ごめんなさい。ちょっとわからないです」

「別に大丈夫だよ。じゃあ答え。それは不可能を可能にする感覚を理解できないからだ」

 不可能を可能にする感覚? うーん、なんだかどんどん難しくなってきたぞ!!

「あはは、ちょっと厳しそうかな? まあ、これは私たちも完璧に理解しているわけではないんだけどね。不可能の感覚っているのはそもそも、人である僕らには備わっていない機能や現象を指すんだ」

「あっ......」

「わかったかい?」

「つまり僕たちヒトには、鳥や虫の様な羽は無いから、飛ぶ感覚を理解できないと?」

「ご明察。少なくとも我々はそう理解している。だからヒトの領域を超えた智神マキナへと祈り、一時的に魔法を行使する力を授かる」

 それって......かなり凄いこと言ってないかな。つまりは神様の力を、一時的にとはいえ使える様にするってことだよね?

「いきなりこんなことを言われても、すぐには信じられないよね」

 ピアソンさんは浮かばせていた本をテーブルに戻すと、その分厚い本のページをパラパラと捲っていく。もちろんと言うか、さすがと言うべきか、本を手で捲るのはなく魔法でめくっている様だ。

「さあ、ここを見てくれ」

「はい。これは人魔大戦の記録......?」

 ピアソンさんが本を僕の前に押して、開かれたページを見せてくる。そこには人界《じんかい》内で起こった魔族との戦争記録が書かれていた。

「なんで人魔大戦の記録を今見せるんですか?」

 僕はピアソンさんの意図が分からず、首を傾げながら疑問を口にする。するとピアソンさんは「ここを読んでみて」と言いながら、ある一点を指差す。

 僕は頭にはてなマーク浮かべながら、そこに書かれている文章を音読する。

「過去に起きた人魔大戦は、3人の聖なる存在によって勝利をもたらされた」

「そこに書かれている聖なる存在。所謂、聖人と呼ばれる存在です」

 聖人? 歴史はあんまり得意じゃないんだよなぁ。と言うよりも学校なんて行ったことないから、正しい国の歴史なんて知らないって方が正しいかな......

「あまり難しいことを言ってもアレだから、端的に話すと......今この大陸で信仰されている三大神信仰の主神達は、過去に実在し人魔大戦を終結させた偉人なんだ」

「偉人......ええ!? 神様じゃなくてヒトなんですか!?」

 ヒトって神様になれるの!? 驚愕で固まる僕の神様に関する常識が、今日だけで随分上書きされてしまった。

(どうしよう。魔法ってやっぱり難しそうだぁ)

 既にず頭上から煙が昇っているのでは無いかと思えるほどの情報量で頭がクラクラしているが、ピアソンさんによる魔法学勉強会はまだ始まったばかりだ。
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