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騎士団と夜目
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「以上が今後の流れになる。ロイ初級騎士、何かわからない点はあるかな?」
椅子に座る僕に眠たげな目を向ける男性は、先ほどディアナさんから紹介されたラハイア上級騎士だ。
癖っ毛の強い短髪と眠たげな瞳が特徴的な彼は、キャンベル教官が率いていた、上級騎士隊の元指揮官でもあったようだ。一線から身を引いた現在は、ディアナさんの率いる隊で、裏方作業や後進の育成に尽力していると本人から聞いている。
そんな彼が僕一人を対象に、今後の予定とついでに騎士団に関する講義を事細かくしてくれていた。僕のような新人への通達は普通、もっと下位の団員がする仕事の筈だけれど......
騎士団長のディアナさん直々の紹介ということもって、目の前のラハイアさんの講義にも力が入っている。
「つまり......これから僕たちは長い時間をかけて法王庁へ向かい、法王と聖者様に会うってことでいいんですよね?」
「ざっくり言うとそういう事だな。君はこの騎士団に来てから、まだ2週間弱だと聞いているが...どうだ、ここの環境には慣れてきたか?」
説明を済ませたラハイアさんは、机に片手をつき資料へ目を通しながら世間話を振ってきた。講義の終了時間よりも早く終わってしまった為か、大して興味はなさそうに僕へ話を振るラハイアさんに僕は苦笑いを浮かべる。
仕事と個人の時間ははっきり分けるタイプなのかな......とくだらない事を考えながら、僕はラハイアさんに返事をする。
「同期の方々はとても親切な方も多いですし、教官の指導もありここの環境には、早々になれることができたとは思います!!」
「そうか」
僕の言葉に一言だけ返すと、ラハイアさんは黙ってしまった。
どうしよう。こういうのって話を続けないとすごく気まずいぞ!!
僕は部屋に充満する気まずい雰囲気にドギマギしていると、いきなり資料から目を離したラハイアさんが僕の顔をじっと見つめてくる。
そんなラハイアさんの姿に一瞬気押され、椅子を後ろに引いてしまう。そしていまいち何を考えているか読み取れない、その眠たげな瞳を向けたラハイアさんは呟くように語り出した。
「俺の同期にリュークとグレッグという奴らがいた」
「?」
突然の告白で困惑する僕をよそにラハイアさんは、嫌に響く静かな部屋の中で語り続ける。
「こいつらは“夜目《やめ》”の一員でな。優秀な諜報員として活躍していた。今は“例の辻斬り”によって殺されたが......」
「それは、ご愁傷様です」
少し気まずい雰囲気を感じながら、ある点に興味を持った僕はラハイアさんに質問を投げかける。
「あれ、夜目《やめ》って......レヴィルさんも確か同じ隊に所属しているんでしたっけ?」
「あいつが籍を置いているのは“夜目《やめ》”の実働部隊だ。そもそも“夜目《やめ》”には3つの部隊が存在している」
「3つですか?」
首を傾げている僕を見つめるラハイアさんは、少しだけ考え事をすると紙を一枚だけ用意して文字を書き始めた。
「ああそうだ。一つ目はルーシー・レヴィル上級騎士が所属している実働部隊“夜蝶《ガ》”だ。主に国王陛下を中心に治安維持をしている」
レヴィルさんはどうやら、“夜蝶《ガ》”と呼ばれる実働部隊にいるらしい。片腕になった今でも特殊な隊で活躍しているのを聞いていると、やはりレヴィルさんはすごい才能を持っているんだと実感する。
「そして俺の同期が所属していた“夜蛛《ヤクモ》”。主な活動は諜報活動、国内の情報網の管理だ。そして最後の3つ目が」
ラハイアさんは一呼吸だけ間を置き口を開いた。
「今回お前が同行する“夜蟻《クロアリ》”と呼ばれる。治安維持と秘密裏で外交を行う部隊だ」
「えーっと、“夜蛛《ヤクモ》”って言うのはなんとなくわかりますが、“夜蝶《ガ》”と“夜蟻《クロアリ》”って何が違うんですか? というか僕が同行する部隊?」
僕の矢継ぎ早な問いかけを手で静止すると、ラハイアさんは丁寧な口調で説明を続ける。
「簡単に言うと“夜蝶《ガ》”は近衛隊。王の直属の護衛だと思えばいい。そして“夜蟻《クロアリ》”だが、この隊は国単位での治安維持を目的とした隊だな。他にも今回の様な公表できない外交にも出動する」
「騎士団とは違うんですか?」
「勘違いされがちだが“夜目《やめ》”は国王陛下個人の直属組織で、騎士団はあくまでも国に属している組織だ」
「うーん?」
「......つまり“夜目《やめ》”は国王陛下の独断で動かせる唯一の組織。騎士団は国王陛下だけの意思では、自由に動かせない組織という事だ。騎士団を実際に稼働させるには、騎士団長を含む一部の上級貴族の許可が過半数必要だ」
「なんかめんどくさいんですね?」
「まあ、騎士団員は国中の各領主達の領民でもあるからな。いくら国王陛下でも、勝手に動かすと反発を買ってしまうから厳しくせざるを得ないのだ」
「勿論、例外もあるがな」と話を締める括るとラハイアさんは、講義で使用した資料などを片付け始める。
「もうそろそろ訓練も終わりの時間だろう。ロイ初級騎士も4日後の出動に向けて、準備を怠らないように。必要な物のリストはその資料にまとめておいたから、ちゃんと確認しておいてくれ」
「はい!! 今日はありがとうございました!!」
「騎士団で長いことやっていくなら、今日みたいなことは稀に起こる。自分自身の確認も怠らないよう心がけることだ。いいな?」
「はい!!」
僕は今日で一番の返事をしたところで、ラハイアさんも片付けを終えたらしく、軽く頭を下げた後に部屋を退出した。
「これ、ディアナさんの職務放棄で、みんな迷惑してるんじゃなかろうか......」
そんな僕の呟きは静かな部屋の中へと、空虚に吸い込まれて消えていった。
椅子に座る僕に眠たげな目を向ける男性は、先ほどディアナさんから紹介されたラハイア上級騎士だ。
癖っ毛の強い短髪と眠たげな瞳が特徴的な彼は、キャンベル教官が率いていた、上級騎士隊の元指揮官でもあったようだ。一線から身を引いた現在は、ディアナさんの率いる隊で、裏方作業や後進の育成に尽力していると本人から聞いている。
そんな彼が僕一人を対象に、今後の予定とついでに騎士団に関する講義を事細かくしてくれていた。僕のような新人への通達は普通、もっと下位の団員がする仕事の筈だけれど......
騎士団長のディアナさん直々の紹介ということもって、目の前のラハイアさんの講義にも力が入っている。
「つまり......これから僕たちは長い時間をかけて法王庁へ向かい、法王と聖者様に会うってことでいいんですよね?」
「ざっくり言うとそういう事だな。君はこの騎士団に来てから、まだ2週間弱だと聞いているが...どうだ、ここの環境には慣れてきたか?」
説明を済ませたラハイアさんは、机に片手をつき資料へ目を通しながら世間話を振ってきた。講義の終了時間よりも早く終わってしまった為か、大して興味はなさそうに僕へ話を振るラハイアさんに僕は苦笑いを浮かべる。
仕事と個人の時間ははっきり分けるタイプなのかな......とくだらない事を考えながら、僕はラハイアさんに返事をする。
「同期の方々はとても親切な方も多いですし、教官の指導もありここの環境には、早々になれることができたとは思います!!」
「そうか」
僕の言葉に一言だけ返すと、ラハイアさんは黙ってしまった。
どうしよう。こういうのって話を続けないとすごく気まずいぞ!!
僕は部屋に充満する気まずい雰囲気にドギマギしていると、いきなり資料から目を離したラハイアさんが僕の顔をじっと見つめてくる。
そんなラハイアさんの姿に一瞬気押され、椅子を後ろに引いてしまう。そしていまいち何を考えているか読み取れない、その眠たげな瞳を向けたラハイアさんは呟くように語り出した。
「俺の同期にリュークとグレッグという奴らがいた」
「?」
突然の告白で困惑する僕をよそにラハイアさんは、嫌に響く静かな部屋の中で語り続ける。
「こいつらは“夜目《やめ》”の一員でな。優秀な諜報員として活躍していた。今は“例の辻斬り”によって殺されたが......」
「それは、ご愁傷様です」
少し気まずい雰囲気を感じながら、ある点に興味を持った僕はラハイアさんに質問を投げかける。
「あれ、夜目《やめ》って......レヴィルさんも確か同じ隊に所属しているんでしたっけ?」
「あいつが籍を置いているのは“夜目《やめ》”の実働部隊だ。そもそも“夜目《やめ》”には3つの部隊が存在している」
「3つですか?」
首を傾げている僕を見つめるラハイアさんは、少しだけ考え事をすると紙を一枚だけ用意して文字を書き始めた。
「ああそうだ。一つ目はルーシー・レヴィル上級騎士が所属している実働部隊“夜蝶《ガ》”だ。主に国王陛下を中心に治安維持をしている」
レヴィルさんはどうやら、“夜蝶《ガ》”と呼ばれる実働部隊にいるらしい。片腕になった今でも特殊な隊で活躍しているのを聞いていると、やはりレヴィルさんはすごい才能を持っているんだと実感する。
「そして俺の同期が所属していた“夜蛛《ヤクモ》”。主な活動は諜報活動、国内の情報網の管理だ。そして最後の3つ目が」
ラハイアさんは一呼吸だけ間を置き口を開いた。
「今回お前が同行する“夜蟻《クロアリ》”と呼ばれる。治安維持と秘密裏で外交を行う部隊だ」
「えーっと、“夜蛛《ヤクモ》”って言うのはなんとなくわかりますが、“夜蝶《ガ》”と“夜蟻《クロアリ》”って何が違うんですか? というか僕が同行する部隊?」
僕の矢継ぎ早な問いかけを手で静止すると、ラハイアさんは丁寧な口調で説明を続ける。
「簡単に言うと“夜蝶《ガ》”は近衛隊。王の直属の護衛だと思えばいい。そして“夜蟻《クロアリ》”だが、この隊は国単位での治安維持を目的とした隊だな。他にも今回の様な公表できない外交にも出動する」
「騎士団とは違うんですか?」
「勘違いされがちだが“夜目《やめ》”は国王陛下個人の直属組織で、騎士団はあくまでも国に属している組織だ」
「うーん?」
「......つまり“夜目《やめ》”は国王陛下の独断で動かせる唯一の組織。騎士団は国王陛下だけの意思では、自由に動かせない組織という事だ。騎士団を実際に稼働させるには、騎士団長を含む一部の上級貴族の許可が過半数必要だ」
「なんかめんどくさいんですね?」
「まあ、騎士団員は国中の各領主達の領民でもあるからな。いくら国王陛下でも、勝手に動かすと反発を買ってしまうから厳しくせざるを得ないのだ」
「勿論、例外もあるがな」と話を締める括るとラハイアさんは、講義で使用した資料などを片付け始める。
「もうそろそろ訓練も終わりの時間だろう。ロイ初級騎士も4日後の出動に向けて、準備を怠らないように。必要な物のリストはその資料にまとめておいたから、ちゃんと確認しておいてくれ」
「はい!! 今日はありがとうございました!!」
「騎士団で長いことやっていくなら、今日みたいなことは稀に起こる。自分自身の確認も怠らないよう心がけることだ。いいな?」
「はい!!」
僕は今日で一番の返事をしたところで、ラハイアさんも片付けを終えたらしく、軽く頭を下げた後に部屋を退出した。
「これ、ディアナさんの職務放棄で、みんな迷惑してるんじゃなかろうか......」
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