剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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不調と活法

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「どうしたそれで終わりか若造!!」

「いえ、まだできます!!」

 二人の騎士団員......僕とキャンベル教官が、訓練場でひときわ激しい打ち合いをして周りの視線を集めていた。剣を片手で握り仁王立ちをしているキャンベル教官は、汗を流してはいるものの傷一つ負っていない。対する僕の体は教官に何度も殴り蹴られ、すでに痛みすら感じないほどまで疲弊していた。

 周囲の仲間たちは僕たちを制止しようとするが、二人のあまりの剣幕に後込みしてしまう。皆がそうこうしている内に、またしても僕は殴り倒されてしまいその場にへたり込む。

「ふう......いかんな。そんなんではいつ迄たっても、奴を倒すことは出来ないぞ」

「そんなこと......わかって......っます!!」

 僕は勢い良く立ち上がると木刀をキャンベル教官の喉元目がげて放り投げる。しかし流石というべきか、教官は一切動揺することなくその剣を弾く。そして投げた瞬間に死角へ回り込んだ僕の鳩尾めがけて、木刀の剣先を突き立ててきた。

 僕はその突きを紙一重で回避するが、続きざまに繰り出される教官の体術によって顔面を殴打される。その攻撃は魔力がこもっていないにもかかわらず、まるで岩石で殴られたかと錯覚するほどの重みがあった。

「んん......ぺっ......」

「歯が折れたか......ふん、やはり甘いな。俺ならその折れた歯を、礫《つぶて》の代わりとして使っていただろう」

 キャンベル教官は倒れ伏す僕に向かってそう言い放つと、暫しの間休憩をするように命じてきた。今回はまったく良いところの無いまま終わってしまったが、良いところが無いなりに収穫はあった。

「死角には入ることが出来た......あとはどうやって攻撃を当てるかだなぁ」

「はあ、お前本当に馬鹿だな。んなこと出来るわけないだろ?」

「こら、スコットニー。彼なりにがんばっているんだから、あんまりおちょくるんじゃない」

 そういいながら近寄ってきたのは、僕と仲良くしてくれているスコットニーさんとロージスさんだった。二人はやはり呆れた顔をしながら、タオルと水を僕に渡してくれる。そんな二人に僕は感謝を述べると、立ち上がり剣術の基礎訓練を開始する。

「もう体も限界だろうによくやるよ」

「これくらいで、へこたれる訳にはいかないんです」

「なんでロイがそこまで必死になっているかはわからないけど、少しは俺たちを頼ってくれてもいいんじゃないか?」

 ロージスさんの言葉に僕は動きを止めて二人を見ると、何かを憂いているような顔が僕の目に留まる。僕は大きく息を吸い、肺に溜まった空気を一気に吐き出すと、二人に向けて屈託のない笑顔を向けた。

 そんな僕の姿を見た二人は互いの顔を見合うと、二人の顔は幾分か安心した表情へと変わり僕の方へ近寄ってくる。

「さあロイ、そこに少し座ってくれ。治癒魔法をかけてあげるから」

「え、ロージスさんって治癒魔法を使えるんですか!?」

「おいおい、それって大丈夫なのかよ?」

「これでも僕は魔法師の家系だからね。その家の中でも特に身体強化魔法に秀でていたからこそ、その応用である治癒魔法も扱えるんだ」

 ロージスさんはそう言うと静かに僕の額へ触れる。するとロージスさんの手が淡い光に包まれ、僕の顔に刻まれた傷や腫れが治り始める。

 この感覚はどう表せばいいのだろうか......?

 気持ちが良いかと言われると決してそんなことはないし、何方かといえば体が不調な時や熱でうなされている時と似ている気がする。

 ......あ、これまずい。

「う、おえぇ......」

「え、おい!?」

 僕はさっき飲んだ水を吐き出しその場にうずくまってしまう。その光景に驚いたロージスさんは、急いで治癒魔法を僕の体にかけるが一向に良くなる気配がない。

「なにをしておるのだお主らは......」

「教官!! ロイが!!」

「まずはおちついて、何があったのか冷静に説明しろ」

 キャンベル教官は二人を落ち着かせるように言うと、二人は状況に説明を簡潔に済ませた。そしてそんな僕たちの状況を把握したキャンベル教官は、顔に手を追おうと溜息を吐いた。

「意識のある他人に治癒魔法をかけるのは危険だ。自分にかけるのと異なり、意識がある状態の他人の思考が邪魔してしまい魔法の行使が難しくなる。ロージスともあろう者がそんな初歩的な事を見落とすとはの......」

 未だ呆れ顔のキャンベル教官がいきなり僕の背中を強打する。そのあまりの衝撃に僕は耐え切れずむせてしまうが、不思議なことに体の不調がみるみる収まっていく。

「っ!? ごほっっごほ......あれ、よくなった?」

「今のは活法といって、神経や精神的な不調を取り除くことのできる剣神流の技術だ。よく覚えておけ」

 そう話すキャンベル教官は厳しい視線を僕に向けると、そのごつごつとした大きな手で首根っこを掴み立ち上がらせた。

「休憩は終わりだ。お前らも訓練を再開しろ」

「「はい!!」」

「ロイお前も休憩は終わりだ。さあ、構えろ。今日はまだまだ始まったばかりだぞ」

「はい!! お願いします!!」

 おそらくは先生との特訓よりも、ずっとずっとキツく長い訓練が再開した。
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