剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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機会を逃すものなど

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「今そいつが言っていた事は......本当なんですか?」

 大量の血が染みついた衣服を身にまとっているロイは、呼吸を荒くしながらウィルを睨む。

「......ああ、その通りだ。俺がお前の親を殺した」

 その発言を聞いたロイは、強く歯を食いしばり顔を歪めた。そんなロイの姿をウィルは、ただ静かに見つめていた。

 ロイの服はジョンの血液によってひどく汚れてはいるものの、立ち姿を見るに傷は浅いようだとウィルは推測する。実際レジナルドの斬撃は肋骨によって阻まれ、内臓が傷つくことを防いでいた。

 ロイは二本の足でしっかりと地面に立ち、剣先をウィルへと向けている。しかし剣を握るロイの手はひどく震え、額からは冷たい汗が頬をつたう。

「どうして......なぜ僕が父の子だとわかっていながら、僕を助けたんですか?」

「......わからん」

 ウィルは目をつぶり小さく呟くと、一度深いため息をつき目を開くとロイの姿をまっすぐ見つめる。目に映るロイの表情は悲しみと失望に彩られ、目には涙が浮かんでいた。

「もう、あなたを先生とは思いません」

 ロイは腰を静かに落とすと剣を強く握りしめた。

「堅豪流ユーゴ・カルウェズが弟子。ロイ・カルウェズ!! 今、父の仇を!!」

 名乗りを上げたロイは剣を大きく振り上げ、足を大きく踏み込んむ。その時......額の汗がロイの瞳に流れ落ち、一瞬だけ片目を閉じてしまった。

「ッ!?」

「言ったはずだ」

 目を閉じる行為は戦場で命取りとなる。たとえ片目だけだったとしてもウィルにとっては、ロイ程度を相手にするなら十分すぎるほどの隙であった。

 ウィルは剣を抜き、一文字にロイの首を切り裂いた。

「たった一度きりのチャンスをモノにできない......だからお前はここで死ぬのだ」

 ウィルは血が噴き出ている首を抑え、うずくまるように倒れていたロイに少しずつ近寄る。そして剣先をロイに抜け突き立てた。

「そうはさせないわ!!」

「早かったな......サラ」

 茂みの中から声が聞こえるや否や、ウィルの腕に矢が突き刺さった。予想外の乱入にもウィルは、冷静に周囲を見渡しながら腕に刺さった矢を抜き取る。

「ウィルさん。これはどういうことです!!」

「おい、ロイ君が倒れてるぞ!?」

 茂みの奥から見知った3人と、数人の騎士団員が姿を現した。その光景にウィルは一瞬だけ眉を顰めると、剣を鞘にしまい茂みへと後退していく。

「まってウィルさん。なぜこのようなことをしたの!?」

 サラは後退するウィルを追いかけようと前に出るが、ダレンによって阻まれてしまう。その行動にサラは顔を赤くし、激高した表情で非難する。

「何でとめるのよ!!」

「サラ、冷静になれ!! 今はロイ君を救うのを優先だ」

 ダレンはサラの肩を掴みながら、倒れ伏すロイに指をさす。その行動を見たサラは一瞬、恨めしそうにウィルを睨むがそれ以上のことはしなかった。追撃の意思がないとわかったウィルは、背を向け茂みの中へ入っていく。

「もうお前らとは、出会わないことを願う......」

 闇の中に消えてゆくウィルのつぶやきは誰の耳に入ることはなく、騎士団員とギルドマンの三人はただ見つめることしかできなかった。
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