60 / 74
機会を逃すものなど
しおりを挟む
「今そいつが言っていた事は......本当なんですか?」
大量の血が染みついた衣服を身にまとっているロイは、呼吸を荒くしながらウィルを睨む。
「......ああ、その通りだ。俺がお前の親を殺した」
その発言を聞いたロイは、強く歯を食いしばり顔を歪めた。そんなロイの姿をウィルは、ただ静かに見つめていた。
ロイの服はジョンの血液によってひどく汚れてはいるものの、立ち姿を見るに傷は浅いようだとウィルは推測する。実際レジナルドの斬撃は肋骨によって阻まれ、内臓が傷つくことを防いでいた。
ロイは二本の足でしっかりと地面に立ち、剣先をウィルへと向けている。しかし剣を握るロイの手はひどく震え、額からは冷たい汗が頬をつたう。
「どうして......なぜ僕が父の子だとわかっていながら、僕を助けたんですか?」
「......わからん」
ウィルは目をつぶり小さく呟くと、一度深いため息をつき目を開くとロイの姿をまっすぐ見つめる。目に映るロイの表情は悲しみと失望に彩られ、目には涙が浮かんでいた。
「もう、あなたを先生とは思いません」
ロイは腰を静かに落とすと剣を強く握りしめた。
「堅豪流ユーゴ・カルウェズが弟子。ロイ・カルウェズ!! 今、父の仇を!!」
名乗りを上げたロイは剣を大きく振り上げ、足を大きく踏み込んむ。その時......額の汗がロイの瞳に流れ落ち、一瞬だけ片目を閉じてしまった。
「ッ!?」
「言ったはずだ」
目を閉じる行為は戦場で命取りとなる。たとえ片目だけだったとしてもウィルにとっては、ロイ程度を相手にするなら十分すぎるほどの隙であった。
ウィルは剣を抜き、一文字にロイの首を切り裂いた。
「たった一度きりのチャンスをモノにできない......だからお前はここで死ぬのだ」
ウィルは血が噴き出ている首を抑え、うずくまるように倒れていたロイに少しずつ近寄る。そして剣先をロイに抜け突き立てた。
「そうはさせないわ!!」
「早かったな......サラ」
茂みの中から声が聞こえるや否や、ウィルの腕に矢が突き刺さった。予想外の乱入にもウィルは、冷静に周囲を見渡しながら腕に刺さった矢を抜き取る。
「ウィルさん。これはどういうことです!!」
「おい、ロイ君が倒れてるぞ!?」
茂みの奥から見知った3人と、数人の騎士団員が姿を現した。その光景にウィルは一瞬だけ眉を顰めると、剣を鞘にしまい茂みへと後退していく。
「まってウィルさん。なぜこのようなことをしたの!?」
サラは後退するウィルを追いかけようと前に出るが、ダレンによって阻まれてしまう。その行動にサラは顔を赤くし、激高した表情で非難する。
「何でとめるのよ!!」
「サラ、冷静になれ!! 今はロイ君を救うのを優先だ」
ダレンはサラの肩を掴みながら、倒れ伏すロイに指をさす。その行動を見たサラは一瞬、恨めしそうにウィルを睨むがそれ以上のことはしなかった。追撃の意思がないとわかったウィルは、背を向け茂みの中へ入っていく。
「もうお前らとは、出会わないことを願う......」
闇の中に消えてゆくウィルのつぶやきは誰の耳に入ることはなく、騎士団員とギルドマンの三人はただ見つめることしかできなかった。
大量の血が染みついた衣服を身にまとっているロイは、呼吸を荒くしながらウィルを睨む。
「......ああ、その通りだ。俺がお前の親を殺した」
その発言を聞いたロイは、強く歯を食いしばり顔を歪めた。そんなロイの姿をウィルは、ただ静かに見つめていた。
ロイの服はジョンの血液によってひどく汚れてはいるものの、立ち姿を見るに傷は浅いようだとウィルは推測する。実際レジナルドの斬撃は肋骨によって阻まれ、内臓が傷つくことを防いでいた。
ロイは二本の足でしっかりと地面に立ち、剣先をウィルへと向けている。しかし剣を握るロイの手はひどく震え、額からは冷たい汗が頬をつたう。
「どうして......なぜ僕が父の子だとわかっていながら、僕を助けたんですか?」
「......わからん」
ウィルは目をつぶり小さく呟くと、一度深いため息をつき目を開くとロイの姿をまっすぐ見つめる。目に映るロイの表情は悲しみと失望に彩られ、目には涙が浮かんでいた。
「もう、あなたを先生とは思いません」
ロイは腰を静かに落とすと剣を強く握りしめた。
「堅豪流ユーゴ・カルウェズが弟子。ロイ・カルウェズ!! 今、父の仇を!!」
名乗りを上げたロイは剣を大きく振り上げ、足を大きく踏み込んむ。その時......額の汗がロイの瞳に流れ落ち、一瞬だけ片目を閉じてしまった。
「ッ!?」
「言ったはずだ」
目を閉じる行為は戦場で命取りとなる。たとえ片目だけだったとしてもウィルにとっては、ロイ程度を相手にするなら十分すぎるほどの隙であった。
ウィルは剣を抜き、一文字にロイの首を切り裂いた。
「たった一度きりのチャンスをモノにできない......だからお前はここで死ぬのだ」
ウィルは血が噴き出ている首を抑え、うずくまるように倒れていたロイに少しずつ近寄る。そして剣先をロイに抜け突き立てた。
「そうはさせないわ!!」
「早かったな......サラ」
茂みの中から声が聞こえるや否や、ウィルの腕に矢が突き刺さった。予想外の乱入にもウィルは、冷静に周囲を見渡しながら腕に刺さった矢を抜き取る。
「ウィルさん。これはどういうことです!!」
「おい、ロイ君が倒れてるぞ!?」
茂みの奥から見知った3人と、数人の騎士団員が姿を現した。その光景にウィルは一瞬だけ眉を顰めると、剣を鞘にしまい茂みへと後退していく。
「まってウィルさん。なぜこのようなことをしたの!?」
サラは後退するウィルを追いかけようと前に出るが、ダレンによって阻まれてしまう。その行動にサラは顔を赤くし、激高した表情で非難する。
「何でとめるのよ!!」
「サラ、冷静になれ!! 今はロイ君を救うのを優先だ」
ダレンはサラの肩を掴みながら、倒れ伏すロイに指をさす。その行動を見たサラは一瞬、恨めしそうにウィルを睨むがそれ以上のことはしなかった。追撃の意思がないとわかったウィルは、背を向け茂みの中へ入っていく。
「もうお前らとは、出会わないことを願う......」
闇の中に消えてゆくウィルのつぶやきは誰の耳に入ることはなく、騎士団員とギルドマンの三人はただ見つめることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる