剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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砂塵の中に映る人影

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 ウィルは立ち上がり砂を払うと、視点を左右に動かし不安定な魔力場を探る。そんなウィルの行動を、魔力探知が出来ない二人はただ静かに見守っていた。

「どうやら相手の方が、一枚上手のようだったな。見たところ......この罠には隠匿魔法がかけられている様だ」

「つまり標的は我々の魔法技術力と、同等の技術力があると?」

 ため息を吐きながら呟くウィルに、ジョンは眉を顰めながら尋ねる。

「どうだかな。魔力の隠匿が不十分なところを見るに、この罠の制作者は本職の魔法屋ではないだろう」

 そう言うとウィルは、ジョンの指示を待たずに足元を警戒しながら、淡い光源がある方へ歩き始めた。そんなウィルの唐突な行動にジョンは慌てて静止する。

「ウィルさん、無闇に動くと危険です。まずは他の部隊に連絡を取ってから......」

 ウィルは一度立ち止まり、二人の方を見ると呆れたように口を開く。その姿はまるで、未知の不安に憂いているようであった。

「......そんな悠長なことを、言っている場合ではないと思うがな」

「どういうことですか?」

 ロイは不思議そうに首を傾げると、ウィルは周囲に目を配る。

「俺の予想だと、あそこの拠点には誰もいないか、罠を張り巡らせているかのどちらかだと思っている」

「どうしてそんな事がわかるのですか?」

「見覚えがある。コレは法国と帝国の国境にある、戦争地帯で過去使われていた手法だ。あえて目立つ場所に罠や障害物を設置し、敵の行動を制御する」

「それに何の意味があるんですか?」

 ロイは首を傾げながら尋ねると、ウィルは自身が知っている、罠に関する記憶をたぐりながら説明を始めた。

「最終的に敵を一網打尽にするためだ。途中で罠に掛ったら良し、もし罠に掛からなくても拠点の状況を見た敵は、予想外の状況に動揺し本命の罠に引っかかる。過去これで帝国軍が、痛手を負った記録がある」

「......ずいぶんと、その罠に詳しい様ですね」

「俺は法国の出だ。それに法国には記録を残す魔術が数多く存在するのと、過去の資料を漁るには都合が良い環境だっただけだ」

「......そうですか。ん、ちょっと待ってもらえますか?」

 そう言うとジョンは二人に背を向けると、耳を手で覆うと何度か軽く頷く。そして再度二人の方に向くと、幾分か安心した表情で状況の共有を始めた。

「別部隊は負傷者が数名でましたが、どうやら死者は出なかった様です。そしてウィルさんの言うとおり、拠点には標的は確認できなかった様です」

「やはりそうか。ならオレ達も一度拠点へ向かうぞ」

「そうですね」

 そうして3人は罠に注意を払いながら、淡い光源に向かって数分歩くと、拠点に到着する。そこには既に他の部隊が到着しており、その半数以上が負傷している状況であった。

 その傷は様々で、ある者は鎧が激しく歪み、至る所に傷が見受けられる。またある者は無事な騎士団員に背負われ、足が切断されている。そして手軽な平地を発見すると、そこに負傷者を一旦下ろし負傷箇所を詳しく確認をしていた。

 そんな同僚の姿を見たジョンは眉をひそめ唇を噛み、その表情には憤怒の感情が見てとれる。だがジョンはすぐ冷静さを取り戻し、詳しい状況の確認を始めた。

「ラック。現在の状況を報告してください」

 ジョンにラックと呼ばれた唯一無傷の男は、コチラに近づき姿勢を正すと何かを手渡し、ジョンは手渡された物を見つめながら尋ねる。

「なぜコレがここにある......」

「わかりません。ですがコレがここにあると言うことは......」

 深刻そうに話す二人に興味を示したロイが何事か尋ねると。ジョンとラックは顔を見合わせ、何かを小さい声で話し合う。少しして話の終わったラックは、3人から離れて周囲の警戒をするとジョンを見て頷く。

「......コレは念關《ねんせき》と呼ばれる、離れた場所から意思の疎通を行える魔道具です」

「それが何でここに......」

 ロイはそんな重要な物が“虎牙《こが》の剣鬼《けんき》”の拠点にあることはマズいのではないかと思った。

 それも当然であろう、同じ魔道具があるということは、コチラの作戦など筒抜けになってしまっている可能性があるからだ。

「......内通者がいたのです」

 ジョンは言いづらそうに話すと、ロイはハッとした表情でウィルを見る。そんなロイに釣られてジョンも視線を向けると、ウィルは先日サラ達とギルドで話した内容を正直に話す。

「......ギルドマンも侮れませんね。まさか、我々が気づかなかった事にすぐ気がつくとは」

「まあ、お前らと違い状況証拠的に、そう考えるのが自然だったから、導き出されたと言うだがな」

 何でもない風にウィルは語るが、ジョンは素直に称賛を送る。

「いえ、それでも十分にすごいですよ。この仕事が終わった後は、ギルドマンの評価も考え直すべきかもしれませんね」

 そこで周囲を警戒していたラックが、近づいてきた他の騎士団員と話しをしている姿に、ジョンは一瞬だけ目を向ける。すると突然、周囲で大きな爆発音と強い衝撃が発生した。

 衝撃によって周辺にいた騎士団員が吹き飛ばされ、離れた位置にいたウィル達にも、石や木屑と一緒に砂塵が襲いかかる。

「っなんだ!?」

 ジョンは顔を防具で隠しつつ、即座に周囲へ状況の確認を呼びかかる。しかし激しい爆音で聴覚に異常をきたした為か、周囲の音をうまく聞き取ることができ無い。

 少し経ち聴覚が回復し始めた為、再度状況の確認呼びかけた。すると砂塵で未だ晴れない視界の中で、少し離れた場所からロイが大声で返事をした。

「ジョンさん、僕は無事です!! 先生もここにいます!!」

 ロイの声を聞いたジョンは一度、姿勢を低くし周囲を確認すると、砂塵の中で、不可解な人影を一瞬だけ目撃する。

「おいっそこに居るのは誰だ!? ラックか?」

 ジョンはその人影がいた位置に向けて、目を凝らすと不意に視界が晴れ、人影の正体が判明した。

 そこにいたのは......

「オレは無事だ。ロイはどこに居る」

 剣を持ちながら近寄ってくるウィルであった。





「先生、聞こえますか?」

 ロイは砂塵で咽せながらも、何とか近くにいた剣を片手に持った人影の元まで辿り着く。

「先生、いったい何があったんでしょう。いきなり大きな爆発が起きて......」

 ロイは未だ晴れない視界の中でウィルの方を向くが、そこでロイは違和感を感じた。

(あれ......先生ってこんな身長高かったっけ?)

 そこまで考えると、少し離れた場所で誰かが大声で叫ぶ。

「ロイ!! そこからはなれろ!!」

「え?」

 遠くから聞こえたウィルの声に気を取られ、ロイは目前に迫る剣を避けることができなかった。

「まさか、ウィルが他人に情を持つとはな」

 血を腹から流し倒れたロイに視線を向け、男は底冷えする声でウィルの名を呼ぶ。

(どう...して先生の......名前を知って......)

 次第に失われていく感覚と激痛を感じつつロイは、いつしか重い瞼を閉じ意識を闇の中へと手放した。
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