剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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狩る者と狩られる者

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 ウィルとロイの二人は作戦の確認を済ませると、各自が用意した装備の最終確認をしようとする。だが突然発生した馬車の揺れによって、二人の行動が阻害されてしまう。

 どうやら馬車が停止したらしく、二人と同乗していた騎士の何人かが、周囲の警戒と何が起こったのかを確認する為に馬車を降り始めた。

「なんかすごい揺れましたけど、岩にでもぶつかったんですかね?」

 そう言って呑気に自分の装備を確認しだすロイ。しかしその横でウィルが急に立ちあがり馬車を降りたのを確認すると、自分の荷物を乱雑に袋に詰めながら慌てるように馬車を降りた。

 ロイがウィルの後を追い馬車を降りて最初に目に留まったのは、眼前に広がる鬱蒼とした森林であった。どうやらこれ以上は、馬車で進むことのできないと、容易に見て取れるほど草木で生い茂っている。そんな光景を遠巻きで眺めているウィル達に、周辺を確認していた騎士団員の一人が近づいてくる。

「見ての通り先ほど説明をしていた、拠点付近の森林に到着しましたので、ここからは徒歩での移動になります」

「オレはいつでも行動できる。ロイはどうだ?」

 すでに用意を済ませていたウィルは、隣で焦りながら荷物をまとめているロイに視線を向ける。すると漸《ようや》く準備を完了したロイが慌てながら声を上げる。

「は、はい。準備完了です!!」

「そうですか。では”朧草《おぼろぐさ》の衣《ころも》”を着用して魔力を通して下さい。それから作戦を実行しまう」

 騎士団員に言われた通り二人は、手渡された魔道具を羽織り魔力を通すと真横にいる互いの気配が希薄になる。その効果たるや突如として、近くにいる互いの姿が消えたと錯覚するほどであった。

 そんな中でとある点に違和感を感じたロイは、騎士団員に向けて質問を投げかける。

「あれ、さっきと違って今回は普通に見えますね?」

「それは同じ魔道具を使用した者同士ならば、お互いの気配を感じとれるように調節してあるからですね。そうしないと近くの仲間とすら、意思疎通ができなくなってしまいますから」

 騎士団員はロイの質問に淡々と答えながら、自らも”朧草《おぼろぐさ》の衣《ころも》”を羽織り魔力を通す。すると二人と同様に気配が希薄となり、一瞬だけ姿を見失ってしまうがすぐに元の状態に戻った。

「ここから10分程度歩くと目的の拠点につきます。何か伝えたいことがある際は、近くにいる者の肩を2回叩いてから伝えてください。もちろん緊急の場合はそ無視してかまいませんが、命にかかわるような緊急時以外は、これらを厳守するようにしてください。この魔道具のも万能ではありませんからね」

「ああそれと、申し遅れましたが私は”ジョン・デ・ムーアクロフト”と申します。ジョンと呼んでください」

「は、はい」「ああ、わかった」

 二人は静かに返事を返すと、騎士団員は深く頷きほかの騎士団員へ指示を出す。すると各団員は3人ずつに分かれ、暗く視界の悪い森林の中へと躊躇せず進行する。残ったウィルとロイ、そして指示を行った騎士団員の3人も、後を追う形で森に足を踏み入れた。



 ウィル達は視野を狭める葉群れをかきわけながら、暗闇の森林を進んでいく。いやに多くの生物が寝静まった森の中に草と布すれる音、そして三人の足音だけが響き渡っていた。

 そうして不気味な静けさ漂う草藪を進むこと数分、木々の隙間から淡い光を発見する。どこか温かみを感じる橙色の光を視認すると、ジョンはウィルとロイの肩を二度軽く叩く。するとロイは少し驚いた表情をし、ウィルは視線を下げ立ち止まった。

「あれがおそらく標的の拠点でしょう。焚火があることから察するに標的は、洞窟では無くこちらの拠点にいたようだ」

「でしたらすぐにでも......」

 ジョンの言葉にロイは浮足立って光のさす方向に視線を向けるが、ジョンはロイを落ち着かせるように制止する。

「ロイさん、作戦の実行まで我々は待機です。位置情報は他の団員に伝達済みですので、配置につき次第こちらも行動に移します」

  ジョンの制止にロイは不満げな表情を浮かべるが、軽着の内容を思い出し感情を自制する。獣の気配すら感じない闇の中で、涼やかな夜風が三人の肌をなでる。するとジョンが考え込むように耳を手で覆う。

「よし、配置についたようだ。二人とも準備はいいな?」

「はい......先生、どうかしましたか?」

 ジョンの作戦決行の合図にロイは静かに答えるが、ウィルがその場でかがみながら周囲を確認している。それに気が付くとロイは、何事か尋ねた。

「......何か不自然だ」

「?」

 ウィルの発言にジョンとロイは、顔を見合い首を傾げた。

「ウィルさん、不自然とはどういうことですか?」

「確かなことは言えないだが......ここまで他の生物がないのは不自然だ。もしかしたら......」

 ウィルは深刻そうな表情で言葉を続けようとしたその時、離れた場所から数人の叫び声が聞こえてきた。その声にロイは肩を震わせ、ジョンとウィルは顔を歪ませ臨戦態勢になる。

「ウィルさんこれは......」

「狩人は安全地帯周辺には、必ず罠を設置する......長年そこにいたのなら、獣も多数仕留めているはずだ。おそらく狩猟圧の影響で、獣がここらを避けていたんだろう」

「先生それって......」

「嵌《は》められた。今のオレらは奴の掌上だ」

 驚愕する二人をよそにウィルは地面に手を置き、足元周辺を調べ溜息を吐くと重い口を開いた。

「今オレ達の足元には......魔道地雷が埋まっている」

 ウィルはそう呟くと物事を鮮明に映すその瞳で、が付与された不安定な魔力の塊を......ただ静かに見つめていた。
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