剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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納得のいかない配置

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「ちょっと、どういう事よそれ!!」

 騎士団が用意した馬車に乗り、出発まで待機していたロイとウィルは、外から聞こえる怒号が気になり頭をのぞかせ辺りを見渡す。すとちょっと離れた場所でサラがデビットに羽交い締めにされながら、騎士団と言い合いをしている姿があった。

「サラさん達が話し合いをしてるみたいですけど、何かあったんですかね?」

 ロイはサラ達と騎士団員がいる方へ、指を差しながらウィルの裾を引くとウィルが馬車を降りた。

「少し様子を確認してくる。お前はここで大人しくまっていろ」

「は、はい。わかりました......」

 ロイは言いつけ通りに馬車の中に戻り、窓から顔を覗かせる形で様子を伺う。ロイが大人しくしているのを確認したウィルは、サラ達が言い合いをしている場所へ近づき何事か尋ねる。

「どうかしたのか?」

「ウィルさん聞いてちょうだい!! 私達はパーティーなのに、この人達が別々の部隊に配置するって聞かないのよ!!」

「......何か理由はあるのか?」

 激昂するサラの話を聞いたウィルは、サラと言い合いをしていた騎士団員に鋭い視線を向ける。しかし騎士団員は動揺する様子を見せずに、淡々ことの経緯を説明し始める。

「もちろんです。そもそも今回の任務ですが、本来は騎士団のみで実行するはずでした。しかし訳あって十分な人員を用意できなかったので、冒険者ギルドへ志願者を募ったのです。ただ志願者の集まりが悪く作戦実行の為、やむなく各パーティーを別々の部隊に配置することとなったのです」

「なるほどな。ちなみにコレは契約の説明にあった、”騎士団の指示に従う“という項目の行使でいいのだな?」

「ええ、その通りです」

「ならもし......この配置によってこいつらに、危険が及ぶ場合も離脱することに問題はないな?」

「......ええ、問題ありません」

 ウィルは契約の内容に相違が無いかを騎士団員に確認すると、騎士団員は軽く頷く。

「そうか、ならコチラ側も問題ない。手間を取らせてすまないな」

「いえ、コチラも仕事ですので」

 騎士団員は抑揚のない事務的な態度で頭を下げると、出発の準備をしている集団へと戻って行った。その後ろ姿を見送ったウィルは、再度サラ達の方へ向き直る。

「という事だ。お前達も危険だと思ったら、自分たちを優先して離脱しろ。俺たちのことは気にするな」

「そういう訳にはいかないわよ。パーティーを組んで依頼を受けた以上、私達はそれなりの成果を上げなきゃいけないもの」

 サラは腕を組みながら、いかにも不満あり気な表情をしている。しかしその横で苦笑いを浮かべるダレンが、サラの本当の気持ちを代弁する。

「まあ確かにそれもあるんですけど......サラが案外お二人を気に入っているんですよ。それこそ二人をパーティーに加えないかって言うくらいにはね」

 ダレンのそんな発言を聞いたサラは、顔を赤く染めて声を荒げる。そして話を聞いていたウィルは眉をひそめながら、頭の中に浮かんだ疑問を口にする。

「なぜそこまで肩を入れる? オレ達とお前らが出会ったのはたった数日前だろう」

 ウィルは心底理解できないという様子でサラに尋ねるが、サラはバツの悪そうな顔で小さく呟く。

「さあ、私にもわからないわ。でもなんでか貴方達を見てると、ほっとけないというか......」

 そういうと顔を伏せながら頭を掻く。そして隣で面白そうに二人を眺めていたデビットが笑い、サラはそんなデビットの肩を力強く叩く。

「まあ、とにかく貴方達を放っておくと何か良くない気がしたの!! はい、この話は終わり。さっさと準備するわよ!!」

 そう言うとサラは、ウィル達と違う馬車へと向かって足早に歩いて行く。そんなサラの後ろ姿を眺めているウィルは、未だ納得のいっていない顔をしているが、ダレンが肩をすくめ、デビットがウィルの背中を叩き二人で後を追っていった。

「......戻るか」





 無事準備が整い出発した馬車の中で二人は、現在いる部隊に与えられた作戦を騎士団員と確認していた。騎士団員の横には何かの包みが置いてあるが、中身は確認することができない。

「まず今回の標的の居場所について......標的は2箇所を拠点としています。まず一つ目が“ポオレライゴ山脈南東にある洞窟です。その洞窟からは、王国と法国を分断する形で川が流れています」

「川ですか?」

 ロイは目の前で地図を広げ説明をしている騎士団員に聞き返す。

「はい。この川はポオレライゴ山脈内部を通って定刻まで続いており、標的も夜間は洞窟内部に潜伏していると、ある情報筋から判明しています。そして現在は帝国側洞窟入り口付近が崩壊している為、行き来が出来ない状態となっています」

「それがどうしてわかったんだ。まさか帝国側が教えてくれたのか?」

 ウィルが気になる箇所を尋ねるが、騎士団員はその質問を軽く流し、作戦の続きを話す。

「それは教えられません。とにかく現在、標的は逃げ場のない洞穴内部に留まっている可能性があるという事です」

 騎士団員は手前に広げてある地図に、赤い印を書き込む。

「ここがたった今、説明をした一つ目の拠点です。貴方のお仲間さんがいる部隊が偵察調査します。そして我々が向かうのは、ポオレライゴ山脈北西にあるヨグメ洞窟周辺の森林です」

 騎士団員は地図上のヨグメ洞窟と書かれた場所、その左下付近の森を赤い丸で囲む。

「ここが我々の向かう拠点です。ここは近年魔獣の目撃数が減っており、その理由を詳しく調査したところ、鋭利な刃物で両断された魔獣の死骸が複数発見されたのです」

「それだけでは拠点があるという、確固たる証拠にはならんだろう」

「付着した魔力を調べた結果“虎牙の剣鬼”であることが判明したのです。コレも例の通りある情報筋から裏をとってあります」

「その情報源が嘘を言っている線はないのか?」

「これも詳しくは話せませんが、情報に間違いはありません。ともかく我々の部隊は、ここの拠点を襲撃します」

「もし“虎牙の剣鬼”が居なかったらどうするんですか?」

「その場合はポオレライゴ山脈の洞窟へ向かいます。距離的に1時間もあれば到着するので、別部隊には入り口の監視だけし、外で待機する様に命じられています」

「じゃあ、わざわざ分ける必要なくないですか? みんなで洞窟に突入して捕まえちゃえば......」

「もしその間に洞窟内部に居なかったら?」

「来るまで待つとか......」

「コレだけの人数が居るんだ、痕跡を消そうにも必ずボロが出る。それなら片方を監視しながら、制圧のしやすい方を先に襲撃した方が良い......そう言うことか?」

「その通りです」

 騎士団員がウィルの推測に軽く頷くと、地図に線を引き始め、今後の動きの説明へと移る。

「まず我々の部隊は騎士団とお二人を合わせ12名からなる小隊です。敵の拠点は動植物の繊維で出来た小規模な拠点です。周囲には樹木が多く、周囲の景観が悪いことが災いしていままで発見に至りませんでした」

 そう言いながら赤線で囲った中に、再度赤線で丸を加える。

「この外側の赤枠は敵の索敵可能範囲。そしてこの内側の赤枠が敵の拠点です」

「索敵範囲が広いようですけど、こんな大人数で行ったら気づかれちゃうんじゃないですか?」

「それについては問題ありません」

 そう言って騎士団は横に置いてある包みをロイとウィルに一包みずつ配った。堤を開けると中には、草木を模した衣が入っており、衣の内側には幾多もの魔術式が描かれている。

「うっへぇ......なんですかコレ......」

「コレは魔道具か?」

 まるで汚いものを見るかのように、衣の両端をつまんで持つロイに対して、ウィルはその魔術式からそれが魔道具の類であるか問う。すると騎士団員は静かに頷き、衣の機能を説明する。

「コレは”朧草《おぼろぐさ》の衣《ころも》“と呼ばれる、使用者の気配を一時的に消す魔防具です。これは軽く魔力を少し通すだけ効果が発動しますので、使い方には気をつけてくださいね。そして今回の襲撃時この魔道具を使用して、標的の拠点へ奇襲を仕掛けます」

 騎士団員は説明をしながら、“朧草《おぼろぐさ》の衣《ころも》”を羽織ると、試しに魔力を通し魔道具を起動する。

 すると目の前にいるはずの騎士団員が、二人の目の前から姿を消した。その光景にロイは目を大きく見開き、ウィルは感嘆の声を漏らす。

「すごい!! 目の前にいるのに、一瞬消えちゃったと思いました!!」

「なるほどな。コレなら敵の包囲網を素通りできるかもしれんな」

 二人の反応を確認した騎士団員は、軽く頷くとこの魔道具の留意すべき点を教えてくれる。

「この魔道具をは便利な者ですが、一度使用すると再使用まで数分のインターバルが必要になります。なので今みたいに、時間が余っている時以外の使用は控えてください」

「はい!!」 「ああ、わかった」

「ではコレより襲撃作戦の詳しい配置について、皆さんにお伝えしますので心して聞くように。まず私とお二人は......」

 そうして拠点に向かう道中、騎士団員に詳しく襲撃作戦の詳細を聞く二人。それから拠点周辺に到着したのは30分後のことであった。

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