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同類の偽物
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ロイが出掛けてからしばらく経った宿屋の一室で、ウィルは一人静かに荷物の整備をしていた。
ここ最近はロイと行動する事が多かった事もあり、部屋が一掃静まり返っているように感じた。そしてその静寂が、ウィルの心を酷くかき乱す。
「あいつが居ないと......こうまで静かになるのだな」
そんなウィルの呟きが、部屋中に響き渡る。その音はどこか普段と違い、部屋の中がまるで頭蓋の中のように、くぐもった音の様に感じる。ウィルは一度鼻をつまみ口を閉じると、息を吸い込む様に口内に残った空気を飲み込む。
すると幾分かは部屋のくぐもった感覚が、改善された様に感じられた。そこで部屋の入り口からノックする音と、聞き覚えのある女性の声がする。
「ウィルさん、ロイくんいるかしら~?」
どうやらその声の主はサラの様である。気配から察するに、ダレンとデビットもいるとウィルは推測する。ウィルは外扉に近づくと、部屋の外に立っていた人物を確認した後に挨拶をした。
どうやら予想は当たっていた様で、そこにはサラとダレンそして、先日ウィルが容赦なく叩き潰したデビットの3人が佇んでいた。
「おはよう。それとデビット...先日はすまなかったな」
挨拶を軽く済ませるや否や、開幕謝罪をしてくるウィルを見た3人は笑う。
「あはは、全然気にしなくていいわ。こいつ体だけは頑丈だから!!」
「いや確かに並の奴らよりは頑丈だと自負しているけどよ...痛いもんは痛いんだぜ?」
サラの発言にデビットは、頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる。そんな二人を横目にダレンは、突然の訪問に対して謝罪をする。
「ほら二人とも、今回は遊びに来たんじゃないんだ。ウィルさん突然お邪魔しちゃってすみません」
「別にかまわん。それより何か用できたんだろう?」
ダレンの謝罪にウィルを軽く流し、今回の訪問の理由について尋ねる。
「ああ、そうでした。実は討伐開始日が正式に決定したみたいなので、ウィルさん達にも伝えようかと思いやってきました」
そう言うとダレンは懐から一枚の紙を取り出し、ウィルへと手渡してくる。ウィルはその紙を受け取ると、紙に書かれた内容を確認する。
「明日の0時......随分と急だが、何かあったのか?」
ウィルは事情を知っているであろう3人に問いかける。しかし3人はなんとも言えない、微妙な表情をしながら口を開く。
「実は私たちもギルドの受付に確認したのだけど、ギルドも把握していない様だったのよね」
「ああ、元々はもっと準備期間を設けるつもりだったらしいな...でもアポも無しに騎士団員が突然やって来て、出発の日程だけ告げると帰ったらしい」
「普通に考えたら、状況が変わったってところでしょうけど......」
ウィルは少し考えを巡らせ、一つの可能性に気がついた。
「騎士団側に内通者がいて、こちらの動きに気がつかれた......」
ウィルの発言にダレンは首を横に振り否定をする。
「それはあり得ないんじゃないかな。騎士団は誇り高い集団なんですよ?」
「どれだけ気高い意思も死には抗えない」
「つまり内通者は誰かに脅されて、情報を漏らしたって言いたいわけ? だって相手はあの王国騎士団よ?」
サラは腰に手を当てると、呆れた表情でウィルを見る。しかし当のウィルは、何かを確信しておるかの様な表情をしている。
「たとえ騎士団の誰かが脅されていたとしても、対人戦のプロである騎士団員がそんな簡単に......」
そこまで言うとサラはある事件を思い出す。それは騎士団が今回、討伐隊の編成する原因となった事件。そしてその事件で、運の良く生き残った騎士団員の存在。
「もしかして“虎牙の剣鬼”に襲われた、剣神流の生存者が内通者......?」
サラの口にした内容に、ダレンとデヴィッドが信じられないと言う。だがウィルはその推測が、あながち間違いではないと知っていた。
「恐らくとしか言えんがな。どちらにしろヤツが、こちらの動きに気が付いたのは確かなようだ」
ウィルは至って冷静な態度で返答するが、ダレンとデヴィッドは驚愕と焦りの感情を露わにしている。
「それが本当なら今回の急な出発にも納得がいきますね......」
「ってか、それなら騎士団にそれを話さなきゃダメじゃねえのか!?」
デヴィッドは焦りの表情を浮かべながら、部屋を飛び出そうとする。しかしそんなデヴィッドをサラが呼び止める。
「待ちなさいデヴィッド。そんなことは騎士団も気がついているはず。だからこそ急に作戦の決行を指示したのでしょ」
「たしかに......それもそうだな。でもどうするんだよ? 騎士団員を殺すどころか、脅して操ることができる様な奴を相手に、今回の奇襲が成功するとは思えないぞ?」
「気づいているか否かは大した問題ではない。気づかれたなら居場所がわかるうちに潰す......と言うのが騎士団の意向なのだろう」
ウィルはそう言うと、興味を失ったかの様に部屋の中に戻る。3人は未だこの事実に混乱しているが、すぐに冷静になると自分たちも出発の準備を済ませるために戻ることにした。
「伝えることは伝えたから、私たちも準備のために部屋に戻るわね? ロイ君にもよろしく伝えておいて」
そう言ってサラは手を振ると、デヴィッドは片手を軽く上げ、ダレンも頭を下げて部屋の扉を閉めて帰った。
3人が帰りまた静まり返った部屋の中で、ウィルは自らの剣を眺めると目を瞑り小さく呟く。
「......いったい何が目的なんだ」
鬼は目を瞑り思いを巡らす。恐らくは同類であろう“虎牙の剣鬼”その偽物に。
目を瞑り思い馳せながら、闇の中へと意識を手放した。
鬼は捨てる覚悟を決めた。
ここ最近はロイと行動する事が多かった事もあり、部屋が一掃静まり返っているように感じた。そしてその静寂が、ウィルの心を酷くかき乱す。
「あいつが居ないと......こうまで静かになるのだな」
そんなウィルの呟きが、部屋中に響き渡る。その音はどこか普段と違い、部屋の中がまるで頭蓋の中のように、くぐもった音の様に感じる。ウィルは一度鼻をつまみ口を閉じると、息を吸い込む様に口内に残った空気を飲み込む。
すると幾分かは部屋のくぐもった感覚が、改善された様に感じられた。そこで部屋の入り口からノックする音と、聞き覚えのある女性の声がする。
「ウィルさん、ロイくんいるかしら~?」
どうやらその声の主はサラの様である。気配から察するに、ダレンとデビットもいるとウィルは推測する。ウィルは外扉に近づくと、部屋の外に立っていた人物を確認した後に挨拶をした。
どうやら予想は当たっていた様で、そこにはサラとダレンそして、先日ウィルが容赦なく叩き潰したデビットの3人が佇んでいた。
「おはよう。それとデビット...先日はすまなかったな」
挨拶を軽く済ませるや否や、開幕謝罪をしてくるウィルを見た3人は笑う。
「あはは、全然気にしなくていいわ。こいつ体だけは頑丈だから!!」
「いや確かに並の奴らよりは頑丈だと自負しているけどよ...痛いもんは痛いんだぜ?」
サラの発言にデビットは、頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる。そんな二人を横目にダレンは、突然の訪問に対して謝罪をする。
「ほら二人とも、今回は遊びに来たんじゃないんだ。ウィルさん突然お邪魔しちゃってすみません」
「別にかまわん。それより何か用できたんだろう?」
ダレンの謝罪にウィルを軽く流し、今回の訪問の理由について尋ねる。
「ああ、そうでした。実は討伐開始日が正式に決定したみたいなので、ウィルさん達にも伝えようかと思いやってきました」
そう言うとダレンは懐から一枚の紙を取り出し、ウィルへと手渡してくる。ウィルはその紙を受け取ると、紙に書かれた内容を確認する。
「明日の0時......随分と急だが、何かあったのか?」
ウィルは事情を知っているであろう3人に問いかける。しかし3人はなんとも言えない、微妙な表情をしながら口を開く。
「実は私たちもギルドの受付に確認したのだけど、ギルドも把握していない様だったのよね」
「ああ、元々はもっと準備期間を設けるつもりだったらしいな...でもアポも無しに騎士団員が突然やって来て、出発の日程だけ告げると帰ったらしい」
「普通に考えたら、状況が変わったってところでしょうけど......」
ウィルは少し考えを巡らせ、一つの可能性に気がついた。
「騎士団側に内通者がいて、こちらの動きに気がつかれた......」
ウィルの発言にダレンは首を横に振り否定をする。
「それはあり得ないんじゃないかな。騎士団は誇り高い集団なんですよ?」
「どれだけ気高い意思も死には抗えない」
「つまり内通者は誰かに脅されて、情報を漏らしたって言いたいわけ? だって相手はあの王国騎士団よ?」
サラは腰に手を当てると、呆れた表情でウィルを見る。しかし当のウィルは、何かを確信しておるかの様な表情をしている。
「たとえ騎士団の誰かが脅されていたとしても、対人戦のプロである騎士団員がそんな簡単に......」
そこまで言うとサラはある事件を思い出す。それは騎士団が今回、討伐隊の編成する原因となった事件。そしてその事件で、運の良く生き残った騎士団員の存在。
「もしかして“虎牙の剣鬼”に襲われた、剣神流の生存者が内通者......?」
サラの口にした内容に、ダレンとデヴィッドが信じられないと言う。だがウィルはその推測が、あながち間違いではないと知っていた。
「恐らくとしか言えんがな。どちらにしろヤツが、こちらの動きに気が付いたのは確かなようだ」
ウィルは至って冷静な態度で返答するが、ダレンとデヴィッドは驚愕と焦りの感情を露わにしている。
「それが本当なら今回の急な出発にも納得がいきますね......」
「ってか、それなら騎士団にそれを話さなきゃダメじゃねえのか!?」
デヴィッドは焦りの表情を浮かべながら、部屋を飛び出そうとする。しかしそんなデヴィッドをサラが呼び止める。
「待ちなさいデヴィッド。そんなことは騎士団も気がついているはず。だからこそ急に作戦の決行を指示したのでしょ」
「たしかに......それもそうだな。でもどうするんだよ? 騎士団員を殺すどころか、脅して操ることができる様な奴を相手に、今回の奇襲が成功するとは思えないぞ?」
「気づいているか否かは大した問題ではない。気づかれたなら居場所がわかるうちに潰す......と言うのが騎士団の意向なのだろう」
ウィルはそう言うと、興味を失ったかの様に部屋の中に戻る。3人は未だこの事実に混乱しているが、すぐに冷静になると自分たちも出発の準備を済ませるために戻ることにした。
「伝えることは伝えたから、私たちも準備のために部屋に戻るわね? ロイ君にもよろしく伝えておいて」
そう言ってサラは手を振ると、デヴィッドは片手を軽く上げ、ダレンも頭を下げて部屋の扉を閉めて帰った。
3人が帰りまた静まり返った部屋の中で、ウィルは自らの剣を眺めると目を瞑り小さく呟く。
「......いったい何が目的なんだ」
鬼は目を瞑り思いを巡らす。恐らくは同類であろう“虎牙の剣鬼”その偽物に。
目を瞑り思い馳せながら、闇の中へと意識を手放した。
鬼は捨てる覚悟を決めた。
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