剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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三人の熟練ギルドマン

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 グラズハを立ってから、早くも3週間の時が経過した。特段ロイとウィルの二人が道中で、面倒ごとに巻き込まれることはなく、至って平和な旅路となった。

 そんな平和な旅路も目的地である、ズギ貿易町と広大な海が遠くに見えてきた事で終わりを感じられる。

「先生、海が見えてきましたよ。すっごい綺麗ですね!!」

 いつも通りテンションの高いロイは、人生で初めて目の当たりにする海を見て、瞳を輝かせながらウィルの袖を引っ張る。

 一方のウィルは自らの袖から、ロイの手を引き剥がし、どうしてロイがここまで興奮しているのか考えていた。そして少し考えていると先日、ロイが王都でも食べる事ができる川魚と、なかなか出回らない海産物の違いについて興味を抱いていた事を思い出した。

「そういえばお前が海を見たのは、今回が初めてだったか?」

「はい!! 話には少しだけ聞いていたんですが、本当に宝石が散りばめられているみたいに輝いていますね!!」

 ロイが海の綺麗さへと興奮してるのを横目に、内陸出身の自分も、初めて目の当たりにした海には感動していた事を思い出す。そんな古い記憶を懐かしんでいると、二人の後方から大量の馬車が迫ってくる。

 その馬車に掲げれた紋章入りの旗に目をやると、それは王国騎士団のモノであると見て取れた。そこで二人の脳裏に、マーカスが率いていた騎士団の馬車が浮かぶが、すぐに違う隊のものであると気がつく。

 マーカスの率いる馬車は盗賊と獣人種の魔族襲来で破壊され、グラズハで新しく調達したものであったため、最初に乗っていた馬車とは少し構造が異なっている。

 しかし現在二人に近づき、そして横を通り過ぎた馬車も、正しく王国所有の馬車であった。よく見ると馬車の周囲を闊歩する騎士団員も知らぬ顔であるので、恐らく間違いはないであろう。

 二人は道の端に寄って、騎士団の馬車に道を譲ると、最後尾で追従していた騎士団員が軽く礼をしながら通り過ぎていった。

「なんかレヴィルさん達とは雰囲気が違いますね。なんか厳格さがあるというか......それに先頭で馬に跨っているあの騎士は他と違う鎧を着てますし」

 ロイは声を顰めながらウィルだけ聞こえる声量で語りかけてくる。ウィルはロイの言う先頭の騎士に目を向け確認すると、確かに先頭の騎士は他の騎士とは違い、少し装飾などが施されている事がわかる。

「......あれは騎士団でもそれなりに、位が高い隊なのかもしれんな」

 ウィルはこれ以上面倒ごとに巻き込まれるのを嫌がっている為か、歩く速度が先ほどよりも著しく落ちている。それに気がついたロイが苦笑いをしながら、ウィルの歩く速度に合わせる。

 次第に騎士団との距離も離れ、しばらくする頃には遠くで薄っすらと視認できるほどまでになった。そして最終的には、地面の起伏や木々によってその姿が視認できなくなった。

 そんなこんなでゆっくり道を歩いていると、次第にズギ貿易町が近づいてきた。遠くからではわからなかったが、貿易町の入り口には多くの商人と思われる馬車が列を成していた。

「はえぇ......コレはすっごい数の馬車ですね。もしかして僕達もコレに並ぶ感じですか?」

「いや、あれは貿易商用の入り口だ。オレらのような少人数の旅人には、あそことは別の入り口がある」

 長時間並ぶ事を想像して、あからさまにげんなりした態度を取っているロイに、ウィルは町への入り方説明をする。その説明を聞いたロイは先ほどと一転し、安心したような表情をする。

「なんだ、それならよかった~。あそこに並んだら僕たちが街に入る頃には、辺りが真っ暗になっちゃいますよ」

「実際あの最列の後尾が入れるのは、日が落ちてから暫くしてからだろうな。入り口はあそこだ」

 そう話しながらウィルは離れた場所に見える門を指差す。ロイはウィルが指差す方向に目を向ける。門の近くには数人の旅人らしき風貌の者達と、騎士団ほどではないがそれなりに身なりを整えた門番が検問をしていた。

「あれって何をしてるんですか?」

「ああ、そうだが......グラズハでは検問を受けなかったのか?」

 ロイの疑問に答えながら、ウィルも不思議に感じた事を聞き返す。ウィルの記憶が正しければ、グラズハの入り口でも検問が行われていたはずであるからだ。

「あーグラズハではマーカスさんが何か見せたらすんなり通れたんですよね。あれが普通だと思ってたんですけど、もしかして騎士団だけ特別なんですかね? さっき僕達を横切った騎士団の馬車も、商人の列に見当たらなかったですし」

「さあ、そこら辺はオレも詳しくないからわからんな」

 そんなたわいない話をしていると......自分達よりも先に検問を待っていた、旅人らしき集団がコチラに近づいてくる。

 まず旅人らしき集団の中から、最初に話しかけてきたのは、短髪ブロンド髪の軽装で腰に剣を携えた青年。

「あんたら冒険者か? 随分軽そうだがここら辺の町に住んでるのか?」

 その次に青年の後ろから顔を覗き込ませながら、背中に弓を背負い、ウェーブのかかった髪の女性がロイを見て笑顔で語りかける。

「こっちの子まだ若いのに、よくここまで来たわね? 大変だったでしょう疲れてない? 飴でも食べる?」

 そして最後に気苦労が耐えなさそうな雰囲気をしている、戦士職の装備をした男性が先の二人を注意する。

「おいおい、あんま他のパーティーにちょっかいかけるなよ。面倒ごとは勘弁だからな?」

 ロイとウィルに近づいて来て三者三様の反応で、矢継ぎ早に話しかけてくる3人組。胸元には冒険者ギルドのマークが描かれたタグがキラリと金色の輝きをはなっている。タグの色から考えるに、どうやらこの3人は、熟練のギルドマンのようである。

「えーっと、僕は一応冒険者ギルドに加入してますが......」

 ロイがそう言いながらウィルの方を見ると、ギルドマンの3人もそれに釣られてウィルに目を向ける。

「オレはただの流浪人だ」

「おお? てっきりあんたがギルドマンだと思ってたが、あんた何か訳ありか? なあダレンとサラも気になるだろ?」

 ブロンド髪の青年は興味津々という感じで、ウィルに迫ってくる。しかしダレンと呼ばれた男性が、青年に注意をする。

「おいっデビット!? いきなり失礼だろ!!」

「なんだよダレン。ちょっとくらいいいじゃんかよ!! なあ、サラ?」

「コレに関してはダレンに同意ね。流石に失礼よ?」

 話しかけておきながら、ウィルとロイを差し置いて会話を続ける3人。そんな3人にウィルとロイが微妙な顔を浮かべていると、それに気がついたダレンが謝罪をしてくる。

「お二人ともすみません。このバカが失礼な事を聞いてしまって......」

「おいバカってなんだよ!!」

「このバカはバカだけど、悪いやつじゃないの、だからどうか許してくれないかしら。バカだけど」

「いや、だから!!」

 怒るデビットを無視して謝罪する二人に、ツッコむのは野暮だと感じた二人もデビットを無視する事にした。

「いや、問題ない」

「まあ、先生って異様な雰囲気がありますからね? 気になるのはしょうがないですよ」

「先生......二人って師弟関係なの? もしかして旅の武芸者ってやつ?」

「まあ、訳あって基礎を教えているだけだ。別に師弟というほどではない」

 サラの質問にウィルは無感情に答えるが、その様子にロイは口をすぼめながら不満げな表情で文句を垂れる。

「えー先生まだ認めてくれないんですか? そろそろ認めましょうよ、優秀な弟子だっt......いってぇ!?」

 すでに二人にとっては慣れた光景であるが、何処からともなく現れ、ロイの顔面を強打する布に3人組は困惑する。

「サラ今の見えたか? オレには見えなかったんだけど」

「全くわからなかったわね」

「サラにも見えなかった? オレらに見えないはずだ......」

 3人が困惑しながら固まっていると、横からロイが3人に対する疑問を口にした。

「皆さんってゴールドランクのギルドマンみたいですが、なんでこの町に立ち寄ったんですか? 僕たちは......あれ先生、僕達は何をしにきたんでしたっけ?」

「法国に向かっている最中だ。その中継地点として立ち寄った」

「あー法国といえば、もうすぐ生誕祭か」

 デビットが目的地が法国だという事を聞くと、生誕祭が近い事を思い出す。

「オレらの目的はそれだな」

「なるほどなーっと、俺たちがここにきた目的だったか? そりゃあもちろん」

 デビットはサラとダレンの方を見る、二人は少し考えたのちに頷く。

「俺たちは【虎牙《こが》の剣鬼《けんき》】の討伐隊に志願する為にここに来たんだ」

 デビットの話を聞いたウィルとロイは、先ほど出会った騎士団の馬車はこの為に来たのだと気づく。

「だから騎士団があんなにきてたんですね? でもどうしてズギ貿易町なんでしょう」

 そういうロイの疑問に今度はダレンが優しく答える。

「そりゃあここが王国いろんな町とアクセスがいいからだろうね? 一応法国にも出る船がありますから」

「はえぇ......そういうだったんですね!! じゃあ僕たちも船に乗って法国に入るんですか?」

 ロイはウィルの方を見ながら質問をする。しかしその表情には、焦りのようなモノが含まれており、あまり気乗りしない様子だった。

 その様子を見たウィルは一度考える素振りを見せると、ロイの質問に対して否定的な回答をする。

「いや、少し予定を変更する。デビットさんだったか、その討伐隊はオレたちのような者も参加できるのか?」

 ウィルの発言にロイは心底驚いた表情を向ける。そしてウィルに突然質問を振られたデビットは、少したじろぎながらも答える。

「さ、さあな。俺たちは腐ってもゴールドランクのギルドマンだから参加できると思うけどよ......」

「うーん、どうでしょうね? あなた達......えーと名前をまだ聞いてなかったわ」


「あっ!! 僕はロイといいます!!」

「......ウィルだ」

「そう、ロイ君とウィルさんね? ちょっと提案なんだけど、もしよかったら私達とマルチパーティーにならない?」

「えっ!? サラそれはちょっと、どうなんだろ......」

「マルチパーティーですか?」

 【マルチパーティー】は冒険者ギルドに存在する制度のことで、同じ目的のギルドパーティーが一時的に同一のパーティーとして登録できるモノである。


 マルチパーティーの提案を聞いたダレンは少し否定的な対応をするも、サラはダレンを諭すように発言を続ける。

「あらいいじゃない。二人も討伐隊に志願したいみたいだし? それにパーティーメンバーが多ければ結果を残した際の賞金も増えるみたいだし」

 そこでウィルはサラの目的に気がつく。

「......なるほどな。それが条件か。いくらわければいい?」

「え? 先生、条件ってなんの事ですか? それに分けるって......?」

 困惑するロイを尻目にサラは嬉しそうな表情を浮かべた話を続けた。

「話が早くて助かるわ。5割......いや、今回は特別に4割で請け負うわよ? 旅は道連れ世は情けって言うしね?」

「おいおい......サラそれは流石に......」

 サラの提案に流石のデビットも口を挟んでくる。この提案はどう考えてもウィル側の利が少ない。更にはマルチパーティーの性質上、ホスト側になるであろう相手パーティーにしか貢献度が入らない為、尚更ウィル達に不利な条件となっていた。

 そんな条件にウィルは一度考える素振りをして、ロイに一度目を向ける。ロイはイマイチ状況を理解できていないのか、頭を横に傾けている。

「わかった。その条件で受けよう」

 ウィルはその様子を見た後にサラの条件をのんだ。

「まじか......本当にいいのか?」

「ああ」

「ふふふ、交渉成立ね。これからよろしくねお二人さん?」

 そう言いながらサラはウィルとロイに握手をしたところで、門番から呼び出しが入り検問のため一旦別れる事になった。

「勝手に決めてすまないな」

「いえ、僕にはよくわからなかったですが、先生がいいと思ったのなら間違いはないと思うので大丈夫です!!」

「オレが言えたことではないのだが、お前はもう少し計算はできたほうがいいかもな」

「先生、何か言いましt......いっててて耳があぁ!?」

「......聞いてないふりをするな」

 わざとらしく聞き逃したふりをしたため、ウィルに耳を摘み引っ張られたロイは、涙目になりながら謝罪をするのであった。


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