剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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鬼の模擬戦

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 あれから数日が経ち金も手に入ったので例の魔道具店へ行った。

 ロイの武器を購入する際に珍妙な帽子を被る店主が「本当に大金を用意してくるとは……!!」と驚いていたこと以外は、滞り無く購入を済ませることが出来た。

 そして購入を済ませたウィルとロイは、とある場所に来ていた。その場所というのは、武器性能や使用感を試す際に、使用される修練場であった。

「そういう事で先生、お手合わせお願いします!!」

「ああ」

 短く会話を済ませると、二人は自らの持つ武器を構えた。ロイは右手で剣を前方に向けに構え、左手で閼伽《あか》の器《うつわ》を逆手持ちにする。そして両腕をクロスするように先端を前方へ向けた。

 堅豪流では【交叉構《こうさがまえ》】と呼ばれている。突き、横薙ぎに特化した構えである。

 対するウィルは剣を両の手で持ち、剣先をやや前下方へ向けながらも、正中線を維持した構えをとっている。

 これもロイが行っている交差構《こうさがまえ》同様に、突きを狙う構えであった。しかしロイとの違いもあるそれは……

「いざ......!!」

 短い掛け声とともにロイが、最短距離でウィルの喉元に剣での突きを放った。ウィルはそれを躱し下向きに構えた剣を、手首で返しながら切り上げる。

 「うわっ!?」

 ロイはその斬撃を逆手持ちしていた閼伽《あか》の器《うつわ》で、ウィルの剣を滑らすように受ける。

 そうして受けたウィルの剣は、ロイの肩を掠めたものの明後日の方向へと切り上がる。
 
 ロイはそれを見逃さず追撃を考えるも、ウィルは瞬時に後退したため仕切り直しとなった。

「やるな……今ので決まったと思ったが」

「僕だって成長するんです……っよ!!」

 最初と同様にロイが先に動きはじめる。しかし今回は直線的な動きではなく、横に回り込む形で攻める。

 ウィルは腰を落としながら剣先を上に向け、防御の姿勢を取る。ウィルは両腕の自らよりも、片手で剣を握るロイの攻撃を受け切る作戦に切り替えた。

 いくら堅豪流とは言え、大人と子供……それも身体強化魔法の練度さえ劣るロイが相手となれば、力で挑むのは当然であった。

 そしてロイも瞬時にその作戦を見抜く。本来そこで気がついた時、普段のロイであれば攻撃を中断していた。それは明らかな、カウンターの誘いであるからだ。

 しかしロイは敢えてその誘いに乗った。左から回り込みながら、左下からの切り上げを放つ。

ガキンッ!!

 お互いの剣がぶつかり合い火花が散る。
そして片手で持つロイの剣が、両手持ちのウィルによって左側に大きく弾かれてしまう。

「っ......うっらああ!!」

 ロイは弾かれた勢いを利用し、体を後ろに回転させる。そして回転しながら、もう片方の手に握られた閼伽《あか》の器《うつわ》をウィルの脇腹目掛けて突く。

 「戦闘中……それもこれ程の近距離で、視線を外すのはよくないな」

 次の瞬間。先程まで居た場所から、ウィルが視界から完全に消え、自らの後方から声が聞こえてきた。

 それと同時にロイの視界が大きく揺れ、そして全身に鈍い衝撃が走った。

「かはっ!?」

 肺の中の空気がすべて吐き出され、次の呼吸もままならない今の状況では、考えを巡らすことすら出来なくなっていた。

 その光景をロイの横で見たいたウィルによって、今回の訓練終了が言い渡された。

「これで今回は終いだ。少しは形になってきたな」

「っ……あ、ありがとうございま……す」

 ウィルは未だ地面で悶えるロイを見て、ため息を吐きながら助言をする。

「鼻で大きく空気を吸い込み、そしてゆっくり息を吐け。それで幾分か楽になる」

 ロイは助言の通りに実行すると、体は痛むが視界が少し鮮明になる。それと同時に頭も冷静さを取り戻す。

「はぁ、まだまだですね。今回は先生に当てれそうな気がしたんですけど……」

「もし弾かれた勢いを利用したいのなら、その方向を考えて攻めるべきだったな」

 ロイはウィルの話を聞きながら疑問を口にする。

「弾かれる方向ですか?」

「そうだ。例えば今回武器を逆手で持っていたから、お前は後ろ周りの回転攻撃をしたのだろう?」

「そうですね」

「なら途中で順手持ちに変えて右側から攻めていたら、視界を切らずに勢いを利用した攻撃を繰り出せたろう。勿論オレの受け方と、回転の仕方にもよるから、一概にコレが正解とも言えないがな」

「うーん、難しいですね」

「そもそもお前のそれは、短剣と同じサイズだ。最初は隠しておいて、隙を見せたら取り出して攻撃……ということも出来る。」

「確かにそれもそうですね。これって半透明だから、急に出されても咄嗟には判別しにくそうですもんね?」

 ロイはウンウン唸りながら、自分にあった戦闘方法を模索する。そもそも今回の目的は、ウィルへ一撃を加えることではなく、武器に慣れることが目的であった。

「何度も言うが……戦闘はその場その場で対応が変わってくる。無理に戦闘法を固定するよりはまず、使って慣れることを第一に考えろよ?」

「勿論です!! でもやっぱりカッコいい戦い方したいじゃないですか?!」

「まあ、言わんとしてることはわかるが、それで負けては本末転倒だ。相手は基本何でもありで攻めてくるからな」

「そこなんですよねぇ」

 少し不満そうなロイを見かねたウィルは、まるで聞き分けの悪い子を宥《なだ》める様に言い聞かせる。

「今は武器に慣れるまでは、とにかく何度も何度も使え。その武器を手放してもなお、手に握られていると錯覚知るくらいに……な。新たな戦闘法を編み出すのはそれからだ」

「はーい」

 それからしばらくの間、同じ様に模擬戦を繰り返し陽が陰り始めると、二人は修練場を後にした。
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