42 / 74
鬼の模擬戦
しおりを挟む
あれから数日が経ち金も手に入ったので例の魔道具店へ行った。
ロイの武器を購入する際に珍妙な帽子を被る店主が「本当に大金を用意してくるとは……!!」と驚いていたこと以外は、滞り無く購入を済ませることが出来た。
そして購入を済ませたウィルとロイは、とある場所に来ていた。その場所というのは、武器性能や使用感を試す際に、使用される修練場であった。
「そういう事で先生、お手合わせお願いします!!」
「ああ」
短く会話を済ませると、二人は自らの持つ武器を構えた。ロイは右手で剣を前方に向けに構え、左手で閼伽《あか》の器《うつわ》を逆手持ちにする。そして両腕をクロスするように先端を前方へ向けた。
堅豪流では【交叉構《こうさがまえ》】と呼ばれている。突き、横薙ぎに特化した構えである。
対するウィルは剣を両の手で持ち、剣先をやや前下方へ向けながらも、正中線を維持した構えをとっている。
これもロイが行っている交差構《こうさがまえ》同様に、突きを狙う構えであった。しかしロイとの違いもあるそれは……
「いざ......!!」
短い掛け声とともにロイが、最短距離でウィルの喉元に剣での突きを放った。ウィルはそれを躱し下向きに構えた剣を、手首で返しながら切り上げる。
「うわっ!?」
ロイはその斬撃を逆手持ちしていた閼伽《あか》の器《うつわ》で、ウィルの剣を滑らすように受ける。
そうして受けたウィルの剣は、ロイの肩を掠めたものの明後日の方向へと切り上がる。
ロイはそれを見逃さず追撃を考えるも、ウィルは瞬時に後退したため仕切り直しとなった。
「やるな……今ので決まったと思ったが」
「僕だって成長するんです……っよ!!」
最初と同様にロイが先に動きはじめる。しかし今回は直線的な動きではなく、横に回り込む形で攻める。
ウィルは腰を落としながら剣先を上に向け、防御の姿勢を取る。ウィルは両腕の自らよりも、片手で剣を握るロイの攻撃を受け切る作戦に切り替えた。
いくら堅豪流とは言え、大人と子供……それも身体強化魔法の練度さえ劣るロイが相手となれば、力で挑むのは当然であった。
そしてロイも瞬時にその作戦を見抜く。本来そこで気がついた時、普段のロイであれば攻撃を中断していた。それは明らかな、カウンターの誘いであるからだ。
しかしロイは敢えてその誘いに乗った。左から回り込みながら、左下からの切り上げを放つ。
ガキンッ!!
お互いの剣がぶつかり合い火花が散る。
そして片手で持つロイの剣が、両手持ちのウィルによって左側に大きく弾かれてしまう。
「っ......うっらああ!!」
ロイは弾かれた勢いを利用し、体を後ろに回転させる。そして回転しながら、もう片方の手に握られた閼伽《あか》の器《うつわ》をウィルの脇腹目掛けて突く。
「戦闘中……それもこれ程の近距離で、視線を外すのはよくないな」
次の瞬間。先程まで居た場所から、ウィルが視界から完全に消え、自らの後方から声が聞こえてきた。
それと同時にロイの視界が大きく揺れ、そして全身に鈍い衝撃が走った。
「かはっ!?」
肺の中の空気がすべて吐き出され、次の呼吸もままならない今の状況では、考えを巡らすことすら出来なくなっていた。
その光景をロイの横で見たいたウィルによって、今回の訓練終了が言い渡された。
「これで今回は終いだ。少しは形になってきたな」
「っ……あ、ありがとうございま……す」
ウィルは未だ地面で悶えるロイを見て、ため息を吐きながら助言をする。
「鼻で大きく空気を吸い込み、そしてゆっくり息を吐け。それで幾分か楽になる」
ロイは助言の通りに実行すると、体は痛むが視界が少し鮮明になる。それと同時に頭も冷静さを取り戻す。
「はぁ、まだまだですね。今回は先生に当てれそうな気がしたんですけど……」
「もし弾かれた勢いを利用したいのなら、その方向を考えて攻めるべきだったな」
ロイはウィルの話を聞きながら疑問を口にする。
「弾かれる方向ですか?」
「そうだ。例えば今回武器を逆手で持っていたから、お前は後ろ周りの回転攻撃をしたのだろう?」
「そうですね」
「なら途中で順手持ちに変えて右側から攻めていたら、視界を切らずに勢いを利用した攻撃を繰り出せたろう。勿論オレの受け方と、回転の仕方にもよるから、一概にコレが正解とも言えないがな」
「うーん、難しいですね」
「そもそもお前のそれは、短剣と同じサイズだ。最初は隠しておいて、隙を見せたら取り出して攻撃……ということも出来る。」
「確かにそれもそうですね。これって半透明だから、急に出されても咄嗟には判別しにくそうですもんね?」
ロイはウンウン唸りながら、自分にあった戦闘方法を模索する。そもそも今回の目的は、ウィルへ一撃を加えることではなく、武器に慣れることが目的であった。
「何度も言うが……戦闘はその場その場で対応が変わってくる。無理に戦闘法を固定するよりはまず、使って慣れることを第一に考えろよ?」
「勿論です!! でもやっぱりカッコいい戦い方したいじゃないですか?!」
「まあ、言わんとしてることはわかるが、それで負けては本末転倒だ。相手は基本何でもありで攻めてくるからな」
「そこなんですよねぇ」
少し不満そうなロイを見かねたウィルは、まるで聞き分けの悪い子を宥《なだ》める様に言い聞かせる。
「今は武器に慣れるまでは、とにかく何度も何度も使え。その武器を手放してもなお、手に握られていると錯覚知るくらいに……な。新たな戦闘法を編み出すのはそれからだ」
「はーい」
それからしばらくの間、同じ様に模擬戦を繰り返し陽が陰り始めると、二人は修練場を後にした。
ロイの武器を購入する際に珍妙な帽子を被る店主が「本当に大金を用意してくるとは……!!」と驚いていたこと以外は、滞り無く購入を済ませることが出来た。
そして購入を済ませたウィルとロイは、とある場所に来ていた。その場所というのは、武器性能や使用感を試す際に、使用される修練場であった。
「そういう事で先生、お手合わせお願いします!!」
「ああ」
短く会話を済ませると、二人は自らの持つ武器を構えた。ロイは右手で剣を前方に向けに構え、左手で閼伽《あか》の器《うつわ》を逆手持ちにする。そして両腕をクロスするように先端を前方へ向けた。
堅豪流では【交叉構《こうさがまえ》】と呼ばれている。突き、横薙ぎに特化した構えである。
対するウィルは剣を両の手で持ち、剣先をやや前下方へ向けながらも、正中線を維持した構えをとっている。
これもロイが行っている交差構《こうさがまえ》同様に、突きを狙う構えであった。しかしロイとの違いもあるそれは……
「いざ......!!」
短い掛け声とともにロイが、最短距離でウィルの喉元に剣での突きを放った。ウィルはそれを躱し下向きに構えた剣を、手首で返しながら切り上げる。
「うわっ!?」
ロイはその斬撃を逆手持ちしていた閼伽《あか》の器《うつわ》で、ウィルの剣を滑らすように受ける。
そうして受けたウィルの剣は、ロイの肩を掠めたものの明後日の方向へと切り上がる。
ロイはそれを見逃さず追撃を考えるも、ウィルは瞬時に後退したため仕切り直しとなった。
「やるな……今ので決まったと思ったが」
「僕だって成長するんです……っよ!!」
最初と同様にロイが先に動きはじめる。しかし今回は直線的な動きではなく、横に回り込む形で攻める。
ウィルは腰を落としながら剣先を上に向け、防御の姿勢を取る。ウィルは両腕の自らよりも、片手で剣を握るロイの攻撃を受け切る作戦に切り替えた。
いくら堅豪流とは言え、大人と子供……それも身体強化魔法の練度さえ劣るロイが相手となれば、力で挑むのは当然であった。
そしてロイも瞬時にその作戦を見抜く。本来そこで気がついた時、普段のロイであれば攻撃を中断していた。それは明らかな、カウンターの誘いであるからだ。
しかしロイは敢えてその誘いに乗った。左から回り込みながら、左下からの切り上げを放つ。
ガキンッ!!
お互いの剣がぶつかり合い火花が散る。
そして片手で持つロイの剣が、両手持ちのウィルによって左側に大きく弾かれてしまう。
「っ......うっらああ!!」
ロイは弾かれた勢いを利用し、体を後ろに回転させる。そして回転しながら、もう片方の手に握られた閼伽《あか》の器《うつわ》をウィルの脇腹目掛けて突く。
「戦闘中……それもこれ程の近距離で、視線を外すのはよくないな」
次の瞬間。先程まで居た場所から、ウィルが視界から完全に消え、自らの後方から声が聞こえてきた。
それと同時にロイの視界が大きく揺れ、そして全身に鈍い衝撃が走った。
「かはっ!?」
肺の中の空気がすべて吐き出され、次の呼吸もままならない今の状況では、考えを巡らすことすら出来なくなっていた。
その光景をロイの横で見たいたウィルによって、今回の訓練終了が言い渡された。
「これで今回は終いだ。少しは形になってきたな」
「っ……あ、ありがとうございま……す」
ウィルは未だ地面で悶えるロイを見て、ため息を吐きながら助言をする。
「鼻で大きく空気を吸い込み、そしてゆっくり息を吐け。それで幾分か楽になる」
ロイは助言の通りに実行すると、体は痛むが視界が少し鮮明になる。それと同時に頭も冷静さを取り戻す。
「はぁ、まだまだですね。今回は先生に当てれそうな気がしたんですけど……」
「もし弾かれた勢いを利用したいのなら、その方向を考えて攻めるべきだったな」
ロイはウィルの話を聞きながら疑問を口にする。
「弾かれる方向ですか?」
「そうだ。例えば今回武器を逆手で持っていたから、お前は後ろ周りの回転攻撃をしたのだろう?」
「そうですね」
「なら途中で順手持ちに変えて右側から攻めていたら、視界を切らずに勢いを利用した攻撃を繰り出せたろう。勿論オレの受け方と、回転の仕方にもよるから、一概にコレが正解とも言えないがな」
「うーん、難しいですね」
「そもそもお前のそれは、短剣と同じサイズだ。最初は隠しておいて、隙を見せたら取り出して攻撃……ということも出来る。」
「確かにそれもそうですね。これって半透明だから、急に出されても咄嗟には判別しにくそうですもんね?」
ロイはウンウン唸りながら、自分にあった戦闘方法を模索する。そもそも今回の目的は、ウィルへ一撃を加えることではなく、武器に慣れることが目的であった。
「何度も言うが……戦闘はその場その場で対応が変わってくる。無理に戦闘法を固定するよりはまず、使って慣れることを第一に考えろよ?」
「勿論です!! でもやっぱりカッコいい戦い方したいじゃないですか?!」
「まあ、言わんとしてることはわかるが、それで負けては本末転倒だ。相手は基本何でもありで攻めてくるからな」
「そこなんですよねぇ」
少し不満そうなロイを見かねたウィルは、まるで聞き分けの悪い子を宥《なだ》める様に言い聞かせる。
「今は武器に慣れるまでは、とにかく何度も何度も使え。その武器を手放してもなお、手に握られていると錯覚知るくらいに……な。新たな戦闘法を編み出すのはそれからだ」
「はーい」
それからしばらくの間、同じ様に模擬戦を繰り返し陽が陰り始めると、二人は修練場を後にした。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる