剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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激励と誓い

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 ロイがレヴィル同伴で行った闘技場の下見から数日が経過した宿屋で、ロイとウィルは出かける準備をしていた。

「先生ケガは本当に大丈夫なんですか?」

 ロイはウィルを心配そうに眺めながら質問する。それに対していつも通りの無感情な顔でその杞憂であるとロイへ言う。

「何度も言うが傷はすでに完治している。ロバートや宿に在中している医師からも問題無しと言われた。お前は心配しすぎだ」

「それでも心配なんですよ?また無茶しないかって…」

 ロイの心配はもっともである。なぜならここ数日のウィルは、怪我が完治していない状態で普段通りの稽古をしている所を何度もロバートが発見し、その度に部屋へと連れ戻されていたからである。

「流石にロバートさんを気絶させた時は騎士団に連行されるかとヒヤヒヤしました…」

「…まあ、あれだ。つい勢い余ってやってしまったというやつだ。だがロバートも許すと言っていたから問題ないだろう」

「ロバートさんが優しい貴族様で良かったですね先生?」

「…悪かったとは思っている」

 そんな会話をしながら準備をしていると、部屋の入口からノック音と少し遅れてレヴィルの声が聞こえてきた。

「ロイ」

「はーい。今鍵を開けるのでちょっと待ってくださいね!!」

「ウィル様。ロイ様。おはようございます。良い朝ですね?」

「レヴィルさんおはようございます!!」

「昨日はすまなかったな」

 元気よく挨拶するロイとは裏腹に、開幕謝罪を決めるウィルを見てレヴィルは苦笑いを浮かべる。

「いえロバートさんも問題ないと言っていましたので大丈夫ですよ。それはそうと私の方は準備が整いましたが、一階フロアにてお待ちしておけばよろしいでしょうか?」

「そうだな。もうすぐ準備は終わるそうしてもらえるか?」

「かしこまりました。では一旦失礼いたしますね」

 そう言うとレヴィルは部屋を退出する。それを見届けると二人は準備を載荷した。

「お前もあの娘のように早く起きれるようにならんのか?」

「いやぁ…どう、ですかね?正直ここまで来ると早起きは不可能なんじゃないかと思えてきました」

「いっそ清々しいまでの諦めだな」

「アハハ…ってそれよりも先生!!」

「なんだ」

「先生ってレヴィルさんが女性だって気がついてました?!」

「...? 見ればわかるだろう」

「いやいやたしかに中性的ですが普通に男の人だと思うじゃないですか!?なんで教えてくれなかったんですか!?」

「逆に何故わざわざそんな事を教えてやらねばいけないのだ。それに名前が女性のそれではないか」

「いや、まあそうですけど…」

「...?」

「やっぱなんでもないです!!さあ先生、準備ができたのであれば早く行きましょう!!レヴィルさんを待たせては失礼ですから!!」

「それはお前がもっと早く起きて準備すれば良かっただろ」

「うぐっ...と、とにかく行きましょう!!」

「はぁ…相変わらずお前は騒がしいやつだな」





 宿屋の一階でレヴィルと合流した一行は、早速闘技場へと向かっていた。

「はーやっぱ緊張してきました…」

「ロイ様、初めては誰でもそうですよ。気を楽にして肩の力を抜いて下さい。ずっと体が緊張していては最高のパフォーマンスは出せませんからね」

「…そう言えばロイとレヴィルが見たという魔法具はどういったものなんだ?」

「えーっと…レヴィルさんどういうものなんでしたっけ?」

 ロイの発言にウィルは「何故買おうとしてるお前がわかっていないんだ…」とため息交じりに反応していると傍らで、レヴィルがその質問に答える。

「【閼伽あかうつわ】…通称【みそぎのくい】とも呼ばれる最古の魔法具です。これは使用者本人へ加護の付与と不浄なモノを祓う効果があります」

「不浄なモノというのはつまり退魔効果が有るということだろう。しかし加護というのは…?」

「加護というのは主に智神ちしんマキナを信仰することで得られる魔法の強化です。単純に魔法の練度レベルが使用者本人の習熟度などに関係なく上昇すると思っていただければ問題ありません」

「つまりそれを持っていれば筋力を強化魔法で強化した場合、今まで以上に能力が上昇するのだな」

「はいその解釈で間違いありません」

「でもこれって一回使ったらもう駄目になるんなんでしたっけ?」

「ダメになる…というと語弊がありますが、一度使用したら長期間の使用ができなくなるというのが正しいかと思います」

「長期間の使用?」

「ええ、簡単に言うとクールタイムが存在するということです。魔法でも出力が高い魔法は発動までに魔力を充填する必要があるでしょう?それと同じで特定の力…具体的には智神ちしんマキナへの信仰が一定以上集まらないと使えません」

「信仰ってそう言う物に使えるんですね…」

「まあ、一種の言霊ことだまみたいなものですからね。魔法の詠唱も実質的には智神ちしんマキナへの信仰や祝詞のりとに近いものですし」

「じゃあ、あの色々とスゴい店主さんが言っていた一度切りっているのは?」

「恐らく一回の戦闘で一度しか使えないということを言いたかったのかもしれません。少なくとも私が知る【閼伽あかうつわ】に関する情報では時間をおけばいつかは再使用可能になるというものでした」

「なるほど~...いってたぁ!?」

 ロイが納得したような表情をしながら手を叩く仕草をしていると!ウィルは軽くロイの頭に手刀を食らわせた。

「自分が今後使う武器の情報くらい調べておけ」

「はーい…」

「フフフッはたから見ると、やはりお二人は父子のようですね?」

 そんなこんなで一行が向う通りの奥に見覚えのある大きな円柱形の建物が見えてきた。

「はぁ~やっぱり緊張するぅ…」

「ロイ様なら大丈夫ですよ」

「レヴィルさんありがとうございます…先生、何かを木おつけたほうが良いことってありますか?」

 ロイは今回の修業目的である闘技場での戦闘の最終確認をする。

「…今まで御前が培ったものを総て使え、でないとお前は絶対に勝てない」

「…先生はやっぱずるいです。僕がそんなこと言われたら絶対諦めないの知ってていってますよね?」

「…お前がこの程度でつまずくとは思っていないからあえて言うんだ」

「え...それって」

 珍しくロイを褒めるウィルに驚愕の表情を浮かべるロイ。普通に考えるとだいぶ失礼な反応であるが、それに気がついていないのか、それとも気にしていないのか…ウィルはぶっきらぼうに語る。

「今回の闘技場の敵は自分自身だ。これまで俺はお前をよく見てきた…だからこそわかる。お前は自分自身に負けるほどやわではない」

「先生…わかりました。絶対この試合勝ってみせます!!」

 ロイはウィルの激励に心を震わせながら、これから訪れる激闘を絶対に制すると誓った。

 一方静観していたレヴィルはニマニマした目で二人を見守るのであった。
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