剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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闘技場の強者

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 なんやかんやあったが闘技場の受付で、出場に必要な登録だけ済ませたロイとレヴィルの二人は一般観客用のエリアへと向かった。

 観客用のエリアは戦闘エリアを中心に周囲のテーブルや椅子などが置いてるエリアと椅子だけの雑多なエリアの2種類に分かれていた。

 戦闘エリアの上には大きな板のようなものがぶら下げられており、その板には魔法で色んな情報が書かれている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈出場者情報〉
出場者 テッド•ブラウン
ランク 42位
年齢  35
性別  男性
クラス 戦士
武器種 クレイモア
勝率  54%

〈勝敗賭け率〉        
勝敗  賭率
勝利  65%
敗北  35%

〈条件賭け率〉
条件    賭率
自不  23%
自失  15% 
相不  22%
相失  23%
時切  12%
致死    5%

~以下略
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 板には恐らく次に戦闘エリアで戦うであろう人の情報が記されていたが、いくつかの項目が目に留まる。ロイはその事を尋ねるとレヴィルはここの簡単なルールを説明してくれる。

「ランクってことは順位を決めてるんですか?」

「そうですね。どうやら過去1ヶ月間の勝率と戦闘回数などを基準に毎月順位を決めているみたいです。順位が上がると出場者自身の賞金も増えるようです」

「気になったんですけど…レヴィルさんってなんか詳しいのはなんでなんですか?」

「まあ、騎士団は貴族が多いのもありますが戦いを見るのが純粋に好きな方が多いですからね。戦いでの賭け事は結構行われているんですよ。私も何度かここで観戦したこともありますし」

「レヴィルさんは出場しなかったんですか?」

「休日などを利用しての観戦は自由なのですが、流石に王都直属の騎士団が賭け事の試合に参加したら怒られてしまいます」

「なんか、めんどくさそうですね?」

「フフッ、大きな団体に所属するというのは良くも悪くも面倒くさいものなのです。その代わりやり甲斐はちゃんとあるので楽しくもあるんですよ」

「…もしかして僕を勧誘してます?」

「バレてしまいましたか? でもロイ様ならきっと良い騎士になれると本当に思いますよ。先ほどだって...」

 レヴィルは何かを言おうとしたが途中で周囲の人々が歓声を上げる。どうやら試合が始まったようだ。

「あっ!?レヴィルさん始まるみたいですよ!?見に行きましょう!!」

「…そうですね」

「なんか不機嫌になってます?」

「な、なってません!!」

「えぇ...やっぱ僕のレヴィルさんに対しての対応に怒ってませんか?」

「いえ、それに関しては本当に怒こってませんって!?そ、それは良いので前に行きましょう!!」

「?...はーい」

 煮えきらない様子のロイをよそにレヴィルは最前列の椅子に座ったのでロイもその横に座る。あまりなれない空間にソワソワしていると、戦闘エリアに一人の男が入口らしき所から入ってきた。

「あの人が今回の出場者なんですかね? 何だかすごい強そうです」

「そのようです。流石は【ランカー】といったところでしょうか」

 ロイはレヴィルの聞き慣れない名称について尋ねる。

「ランカーてなんですか?」

「あ、ロイ様は知らないですよね。【ランカー】はランキング100位以内の者たちを指す呼び名です。この闘技場の出場者は全体で1500人はいるので、その中で最も優秀な戦績を残した100人という認識で良いと思います」

「今回は運が良いですね。【ランカー】の試合は基本満席なので見ることが出来ないのですが...ちょうど祭の準備と被ったお陰ですね」

 レヴィルの説明を裏付ける様に戦闘エリアに現れた男性を確認した観客の歓声が更に大きくなる。

「はえーすっごい盛り上がり…というか出場者って1500人もいるんですね。その中で46位…あれ、あの人もしかしなくても滅茶苦茶強くないですか?」

「正直10位くらいになるとまた話は変わってきますが、強さは間違いないです。王国騎士団でも彼に単騎で勝てるのは少ないでしょう」

「10位からはまた強さが変わるんですか?」

「10位周辺になると特に人間離れしていますね。恐らく王国騎士団で言うところの師団長クラスだとロバートさんが言っていました」

「あのロバートさんが言うってことは相当なんですね…」

 そんな風に話していると、戦闘エリアの中で不思議な減少が起こった。

「なんですかあの黒い霧?」

「まあ見ていてください。面白いですよ」

 レヴィルは少しいたずらっぽく微笑む姿に、嫌な予感が頭を悩ますよぎる。そうしてロイはまじまじと戦闘エリアの黒い霧は次第にある一点集まり黒い人の形になる。

「え…あれって出場者と同じ姿ですか?」

 その姿は次第に同じ背丈、服装、武器の形へと変形し最終的に、全身が真っ黒な事を除けば完全に出場者と同じ姿になった。

「これは智神マキナが創った【影霧の鏡】と呼ばれる魔法です。非常に複雑な魔法で対象者の能力と知性を再現し対象者と戦わせる事ができます。因みに再現されたあの黒い人形のことを、【影人】と呼ばれています」

「なるほど…先生が言っていた…自分自身と戦うっているのは、こういうことだったんですね」

「そういうことでしょう。さあ、ロイ様そろそろ始まりますよ」

 レヴィルさんがそう言うと戦闘エリア内の男が動き出す。その動きはゆったりしたもので、影人の周囲をゆっくりと周る。対して影人は出場者の男を視界に収めるように、体を男に向けながらクレイモアをやや下に構えている。

「何だかすごいゆっくりしてますね」

「確かに外での戦闘…とくに前回みたいな集団戦では、ここまでゆっくりした戦いにはならないですよね。今後ここで戦うなら参考になると思いますよ」

 二人が話してる間にも戦局が少しずつ変わっていく。ゆっくりと影人の周りを歩いていた男が渦を巻くよう徐々に近づいている。

 そして影人の間合いに入ると、影人が急に激しく動き始めた。クレイモアを少し下げたと思うと男の脇腹目掛けて一気に斬り上げる。

 その攻撃を男は自分が持っているクレイモアでいなしながら、カウンターを仕掛ける。しかしその攻撃を影人はギリギリで回避する。

「すごい…」

 ロイは一連の少いやり取りで出場者の男の技量を理解する。影人の攻撃タイミングは完璧だった。男が間合いに入る直前にほんのちょっとだけ体を男に寄せ間合いを潰し、男が間合いに入るタイミングをずらしての攻撃。

 影人の攻撃は当たるはずだった。もしロイがあの状況になったら攻撃を食らっていたかもしれない。しかし男はまるで影人がそう来ることを分かっていたかのように、クレイモアでいなし更にはカウンターまで合わせていた。

「彼はクレイモアという重い武器を主軸にした戦法を取っています。一撃一撃が必殺となり得る状況での駆け引き…並の剣士なら間違いなく今の攻撃で、致死攻撃の判定となって決着がついていたでしょう」

「これが闘技場のランカー...」

 影人と男はまた距離を取ると、今度は影人がお返しと言わんばかりに、一直線に近づき男へとクレイモアを横に大きく振って攻撃する。

 しかしこの攻撃も男に当たることはなく、クレイモアの下をくぐるように避け、影人の懐に潜り込む。

『ウオオオオオオ!!』

 男は雄叫びを上げ、がら空きとなった影人の胴体へ渾身の一撃を放つ。その一撃は凄まじく剣先が地面をえぐりながら影人の胴体目掛けて迫っていく。そして…

 影人がガードしようと反射的に腕を引き戻すが、その引き戻した腕と手に握られた金属の柄ごと影人を、まるで紙をペーパーナイフで切断するように一息に切り裂いた。

「…」

 ロイは言葉を失っていた。先ほど受付を済ませる際にあったあの大柄な男や、その周辺にいた者たちとは比べ物にならない圧倒的な強者。その強さは離れた客席から見ても色濃く感じることが出来る。

「僕は今からあのヒトと同じ土俵に立つんですね…」

「怖いですか?」

 レヴィルは少し心配そうにロイの顔を覗き込む。しかしロイの顔には恐怖は一切なく、それどころか…

「怖い? 逆に闘志が滾ってきました!!」

 ロイの目には戦士としての熱くそして、どこまでも純粋で真っ直ぐな闘いの炎が灯っていた。

「…フフッどうやら私の杞憂だったようですね。でもロイ様が戦う影人はあそこまでではありませんよ」

「え?」

 その発言にロイはポカンと間抜けな顔をする。それを見てレヴィルはまた少し笑いながら説明をする。

「先ほどご説明した通り、【黒霧の鏡】は出場者の能力などを再現するものです。つまりは…ロイ様が戦うのは、あの影人ではなく...自分自身と同程度の実力の影人と戦うことになります」

「あー…レヴィルさん、さっきのセリフ忘れてくれませんか?」

「フフッでは賭けをしましょう。ロイ様が初戦で影人に勝てたら私は忘れてあげます。でももし負けたらもちろん私はちゃんと覚えておきます」

「なのでがんばってくださいね?」

 レヴィルはいつも以上にいたずらっぽく微笑むみそう言うと、ロイは顔を赤くしてウンウン唸りながら…

「はぃ…頑張りますぅ…」

 やはりレヴィルの理不尽なところは少しウィルと似ていると思いながら、ロイは初戦は絶対勝つと心の中で強く誓った。
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