剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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知らない天井だ

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 目を覚ますとまず初めに目に入ったのは、見知らぬ天井だった。

「ここは…」

 ウィルは妙に気怠い身体を起こしながら、周囲を確認する。どうやら今いるのは宿屋のようだ。それも普段ウィルが利用するような安宿ではなく、それなりの身分の者たちが泊まるような高級宿。

「一体どうなっている。確かオレは魔族に吹き飛ばされて…」

 そう呟くと突然頭が痛み始める。まるで何かに殴られたような鈍い痛みが襲い、その痛みにウィルは頭を抑える。

 頭を抑えれていると部屋の扉が開き、騒がしい声が聞こえてきた。

「あっ!?先生起きたんですか!?」

 そう叫びながら部屋に入ってきたロイにウィルは手を向けて制止する。

「…余り大きな声を出すな」

「す、すみません」

 ロイはとっさに口抑えて小さな声で謝る。

「…オレはどれくらい眠っていた?」

「えーと、大体5日間くらいですかね」

 どうやらあの魔族に吹き飛ばされて、5日間も眠っていたようだ。ウィルは先程から感じている気怠さに納得した。

「そうか…それでロイ」
 
「はい、なんですか?」

「どうやってこんないい部屋をとったんだ? 流石にここまでいい部屋を取れるほどの金はなかったはずだが」

「それが…僕たちがあの魔族に襲われた後にロバートさんが…」

 ロイはここ5日間で起こった出来事を説明した。





「つまりロバート達が目覚めたあとオレたちに治癒魔法をかけて助けたと」

「はい。それからは先生が眠っている2日間で今いる目的地前の…嵐が直撃したという村に行ったんです」

「そうか。それでここはその村なのか?」

「いえ、ここはグラズバの街です。あの街には結局大した被害はなかったようだったので、軽く調べた後に直ぐ村を後にしました」

「それでこの街についたら、ルークさんの知り合いがやっている宿屋があるらしく、そこに宿泊出来るよう手配してもらいました」

「それがこの宿屋ということか。やはり騎士団は金があるな」

「そうですよね。ここのご飯すごい美味しんですよ!! 知ってました?ブナハ茸って毒を抜けばすごい美味しいんですよ!!」

 初めて宿泊する高級宿にロイはテンションが上がっていた。そんなロイの話を聞きながらウィルは、自分の体に起きている変化について考えを巡らしていた。

(…体が思うように動かない。飢餓による倦怠感とは別物の違和感。一体俺の体はどうしてしまったんだ?)

 ウィルの異変に気がついたのか、ロイは慌てて体調を確認してくる。

「先生もしかしてまだ体調が悪いんですか!? 何か薬とか持ってきたほうがいいですかね。
ここには医療施設もありますので、もう一度医者に見てもらったほうが…」

 心配するロイは慌ただしくウィルの周りを動き回る。

「…いや、体調は悪くない。逆に体調は良好だ。ただ少し体に倦怠感があるくらいだ。もう少し休めば良くなるだろう」

「そうですか...あまり無理はしないでくださいよ? 僕の武器選び手伝ってほしいんですから!!」

 ロイはさも当たり前の様に武器をウィルに選んでもらおうとしていた。その様子にウィルはため息を吐きながら説教を始める。

「言っておくが、使う武器は自分で選ぶものだ。他人に頼るようではいずれ大きな失敗をすることになるぞ。オレが休んでいる間にいくつか武器を試してこい」

「はーい…フフフッ」

「なんだ。何かおかしな事でも言ったか?」

「いえ、先生すっかり元通りですね?」

 ロイは少し嬉しそうに笑うが、当のウィルは困惑した顔を浮かべていた。

「まだ元通りではない。だがすぐ動けるようになるから、治ったら次にお前の修行を付ける場所に連れて行く」

「やった!!どこで修行ですか!? でもここにそんな修行できそうなスペースはなさそうですけど…?」

 ロイはコロコロと表情を替えながらウィルの発言に反応する。

「なんだまだこの街をちゃんとみていないのか?」

「ええ、実は僕もさっきまで騎士団の皆さんに訓練をしてもらってたので…それにどうせ周るなら先生と一緒がいいかなーて」

「はぁ...修行に真面目なのは良いがたまには息抜きも大切だ。気を張り詰めすぎるとなにかが起こった時に疲労で上手く動けなくなる。何事も極端なのはいかん」

「わかりました!! それで先生、修行の場所って?」

「本当にわかっているのか…? まあ良い、この街の修業場所と言ったらもちろん…」

「…ヘルメの闘技場だ」
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