剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

文字の大きさ
上 下
30 / 74

過去の戦場と被る鬼の姿

しおりを挟む
 化け物の問いに剣鬼が笑みを浮かべながら答える。それを合図に2匹は、同時に動きだした。

…たしかに同時に動いたのだ。しかしウィルはまたしても化け物の初動を見逃してしまった。

 そして次の瞬間にはウィルの目の前に現れその巨腕を大振りに放っている。それに対してウィルは下へ体を落下させギリギリで回避し、魔族の腕へ斬撃を放つ。当たったそう確信した斬撃は空を切る。

「なに!?」

「ハハハッ!!ハズレだ!!些か精度が悪いと見えるな!!」

 そしてそんなウィルに追撃を加えるため化け物は蹴りを放つ。眼前へと迫る猛獣の踵を体を後ろには大きく反って避ける。

「ッ...!!」

「面白い人間だ。貴様は先程の攻撃で既に満身創痍のはずだがよく動くものだ。知っているぞ曲芸師という人間も似た動きをしていたな」

 化け物は余裕を見せてただ仁王立ちしている。化け物はウィルの反撃を待ち、その剣ごとウィルを打ち砕くために挑発していた。

 しかしウィルはその挑発に乗らず、ただ冷静に化け物の動きを見極めていた。

「…無理だな」

「ハッ!! 何だもう諦めるのか?」

 「つまらん…」化け物は失望したような顔でつぶやくと、ウィルの頭を砕くために腕を伸ばす。

「もう良い。お前はにはがっかりだ」

 距離を取り剣を鞘に収め佇むウィルの目にも止まらぬ速さで接近する。そしてまたしても巨腕をウィルの顔目掛けて振るう。

「!?」

 しかし拳が当たる寸前で化け物は咄嗟にウィルから距離を取った。いった何が起きたのか分からず化け物はウィルに疑問を投げかける。

「諦めたのではなかったのか?」

「誰がそんな事を言った。ソレは勝手に勘違いして俺の間合いに入ったお前の失態だ」

「ふむ…我の体を斬るとはなかなかやるではないか。それでどうやったんだ?」

 化け物は数百年ぶりに味わう激痛を懐かしみながら、その元凶たる人間に問いただす。

「貴様のその鈍らでは我の体に傷をつけることは出来ない筈なのだがな」

「簡単だ。間合いに入った腕に剣を振るって斬る…それだけだ」

 ウィルの発言を化け物は聞きまた上機嫌に笑いながらウィルへの攻撃を再開する。

「フハハハッ!! やはり貴様は面白い!!」

 残った片方の巨腕でウィルの胴体目掛けて一直線に突き、外すと丸太を思わせるその脚で蹴りを放つ。だがそのどれもウィルに当たることはない。

「ハハハッ!! ちょこまか逃げるばかりで反撃すらできないのか!!まさか口だけか?!」

「強がるばかりでカスリもしないお前よりはマシだ」

 化け物の中でなにかが切れる音がし、攻撃がどんどん過激さを増していく。その連撃はまさに嵐のようで地面をえぐり、木を薙ぎ倒す。

 そんな猛攻もウィルには届かず通り過ぎてゆく。だがそれも長くは続かなかった。

「ハハハッ!!どうしたにげるのはもう終わりか!!」

「ああ、もう終わりだ」

 魔族は腕を大きく振り上げ手刀を繰り出そうとして来る。対するウィルは屈んで鞘に収めた剣に手をかける。

「ハンッ!! まるで断頭台だな!!」

 第三者が見たらまさしく斬首刑の光景と被って見えただろう。首筋をさらけ出し項垂れる人間。それの首を切り落とさんとする魔族。まさに断頭台での斬首刑。

「さあ、トドメだ!!」

振り落とされる手刀。斧のように重厚で並の剣より鋭い魔族の手がウィルの首に迫る。

 咎人は切断された。

「いい感じだ…これが【眼】で見る感覚か」

 しかし今回切断されたのは人間の方ではなかった。

「なんだと!?」

 魔族がウィルの攻撃を認識するより疾く、魔族の腕を既に斬っていた。

 魔族はすぐさま距離を取って体の再生を始める。泡立つように生えてくる腕、その再生速度は先日ウィル達が討伐した獣人種とは比べ物にならない。

「貴様は…何者だ」

「何者でもない…いや、巷では剣鬼と呼ばれているな」

 剣鬼という単語に魔族は固まる。

「剣鬼だと?」

 魔族はとある男を思い出す。過去に出合った戦場の剣士。自らを瀕死まで追い詰めた鬼に…眼の前の男が被る。

「なるほど。なぜ貴様に興味を持ったか理解した。貴様はあの男の…コハクの縁者だな!?」

「縁者ではないが…」

「なら何故貴様からあの男の気配がする!!」

「ああ、そういうことか…」

「コハクは俺が殺した。恐らくそのせいだろう」

 ウィルが問いに答えると魔族は一瞬キョトンとした顔になり、すぐに大笑いを始める。

「フ、フフハハハッ!! やはり貴様は面白い!! あの忌まわしい男を貴様は殺したのか!!」

 腕を切られたことすら忘れ大笑いする魔族にウィルは困惑する。そして…

「戦いはやめだ!! あの忌まわしい男が死んだのならもうこの地に用はない!! 本当は貴様を殺して探す予定だったがもうその必要はないからな!!」

 急な戦いは終わりだと宣言する魔族にウィルは疑問をぶつける。

「いいのか。俺を殺したいんじゃないのか?」

「フンッ!!貴様ら人間の生死に興味など無い…そう思っていたのだが、案外まだ面白いやつはいるらしいな。良い知らせを持ってきたお前に免じて今回は見逃してやろう!!」

「いいのか。いつかオレはお前を殺すほどの脅威になるかもしれんぞ」

「ならばその脅威とやらになってから我に挑みに来い。どうせ貴様ら人間は放っておいても直ぐに死ぬのだ、いま死に急ぐ必要はなかろう」

 そう言うと魔族は姿を消す。あの瞬間、腕を切り落とした時に、姿を消す仕組みは見破ったはずだった。だが今回もまた消える瞬間を視認することは出来なかった。

「…まだ至れてはいないか」

 ウィルは小さく呟くと仰向けに倒れ気を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

処理中です...