29 / 74
化け物と剣鬼
しおりを挟む
額に生えた幾多にも重なり合った一本角。
赤黒く汚れた猛獣の様な爪。
不気味な神聖を感じさせる純白の毛。
人とかけ離れた異様な体格。
その特徴を上げたらキリがない異形にその場に居合わせた全員がある事を悟った。こいつは過去の人魔対戦の逸話で語られる様な魔族であると…つまり…
「全員…アレと戦おうなんて思わないで下さい。もしアレがその気なら我々は一瞬で全滅です」
ロバートは指示を出しながらも魔族に対抗する手段を考えていた。しかしそれもすぐに無意味であると知る事になる。
「ぐはっ!?」
コールマンの近くにいたはずの魔族の姿が一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間にはロバートの目の前に現れ殴り飛ばされる。
「ロバートさん!?...グガッ!?」
ロバートが馬車に激突し血を吐きながら気を失った。その様子に驚いている近くにいた二人の騎士団員を、まるで羽虫を払うように弾き飛ばす。
「先生どうしますか!?」
「ロイ。下がっていろ」
ウィルは剣を構え身体強化の魔法をかけながら、こちらを見ている魔族を警戒する。しかしその警戒も虚しく魔族の初動を見逃してしまった。
(…なんだとっ!?)
ウィルが驚愕する。その速さはロバートのような最速最短の距離を狙う【雷光一閃】とは違い。過去に唯一初動を見抜けなかった、剣聖コハクの歴戦の技術が生み出す運足とも違う。
それを例えるならば、生物として上位な存在の速さ。目にも止まらぬ速度を生み出す純粋な力の結晶。
故に誰も敵わない。人ならざる存在に人は敵わない。人に出来るのはその厄災が過ぎ去るのを祈ることのみ。
「先生!?」
(オレは一体何をされた…?体中きしむような痛みがある…)
ウィルは現状を静かに確認する。限られた視界内に馬車が見えないことから、さっきまで立っていた場所の十数メートルも後方に吹き飛ばされ木に激突し座り込んでいるとわかる。
全身が痛み呼吸をすることすら難しい。そんな絶望的な状況だというのに、ウィルの顔には自然と歪んだ笑みが浮かぶ。
遠くで魔族に襲われているのか、ロイや騎士団員の叫び声が聞こえてくる。
(動け…これで終わりじゃないだろう…)
ウィルは軋む肉体にムチを打ち、なんとか顔を上げ現状を認識する。
馬車の周囲で倒れるロイの姿。そんなロイに覆いかぶさって守るように倒れている男装の麗人レヴィル。
馬車にめり込む形で項垂れている、どこまでも胡散臭い笑顔の男ロバート。そしてその男に忠実な騎士団員達。
その全てが体を欠損させたるか、五体満足だが多量の血を流している状態で倒れ伏していた。
ウィルは…鬼はその現実をその眼でただ静かに見ていた。
•
•
•
「は、はははっ!! 騎士団を簡単に蹴散らすとは流石だ。あの役立たずの獣とは大違いだ!!」
この状況を作り上げた元凶のコールマンは高らかに声を上げ笑う。
「おい!!俺の拘束具を壊してくれ!!」
その声に反応したのかの様にコールマンの側へ移動する。そして…
「グェッ!?」
魔族はうつ伏せになって拘束されているコールマンの首を踏みつけると、まるで潰れたカエルのような声を出す。
「その命令には従えんな」
「なん…だと?お前は何を…ッ!?」
魔族はコールマンを踏む力を少しずつ強くしていく。
「人間。貴様は勘違いしている」
「勘違い?」
「お前が使ったそれは…お前らの言葉で表すなら【太陽の呼び声】だ。それは代償を払って我らと契約する代物。我々を自由に使役できる物ではない」
「代償だと?」
「ああ、そうだ。前回は上手く騙して代償を払わずに済んだようだが今回はそうはいかないぞ」
どんどん首にかける力を強める。コールマンは自分の骨が軋む音を感じながら、魔族の話を聞くことしかできない。
「我は今機嫌が良い。久しぶりに声が聞けたからな。今回の代償はお前とそこで死んだふりをしている人間の命で勘弁してやろう」
「それじゃあアイツらを殺した意味が…な…」
意味がない…そう呟く暇も与えずに首をへし折る。そして次にロイに腕を切られてからずっと死んだふりをしていた賊に近づく。
「…お、おい!!た、たすけ」
その賊が咄嗟に起き上がり命乞いをするのを無視して、顔面鷲掴みにするとそのまま鋭い爪で骨ごと砕く。
「ふむ…もう戦う意味はないのだがな」
魔族は先程殴り飛ばした男が死んでいるはずの場所を見る。そこには額から多量の血を流しながら剣を握り、コチラを眺めている男が立っていた。
「さて、貴様はどうしたい。我は今は気分が良い。死に方くらいは選ばせてやろう」
化け物は不気味な男に興味を示し始めていた。化け物はその男に問う自らと戦いたいのかと…
「…どうするか?」
鬼は無機質な眼を向けその問いに答える。目の前の化け物を品定めするかのように眺めながら…
「簡単なことだ。貴様を斬って終いにする」
その言葉を合図に【化け物】と【剣鬼】は同時に動き始めた。
赤黒く汚れた猛獣の様な爪。
不気味な神聖を感じさせる純白の毛。
人とかけ離れた異様な体格。
その特徴を上げたらキリがない異形にその場に居合わせた全員がある事を悟った。こいつは過去の人魔対戦の逸話で語られる様な魔族であると…つまり…
「全員…アレと戦おうなんて思わないで下さい。もしアレがその気なら我々は一瞬で全滅です」
ロバートは指示を出しながらも魔族に対抗する手段を考えていた。しかしそれもすぐに無意味であると知る事になる。
「ぐはっ!?」
コールマンの近くにいたはずの魔族の姿が一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間にはロバートの目の前に現れ殴り飛ばされる。
「ロバートさん!?...グガッ!?」
ロバートが馬車に激突し血を吐きながら気を失った。その様子に驚いている近くにいた二人の騎士団員を、まるで羽虫を払うように弾き飛ばす。
「先生どうしますか!?」
「ロイ。下がっていろ」
ウィルは剣を構え身体強化の魔法をかけながら、こちらを見ている魔族を警戒する。しかしその警戒も虚しく魔族の初動を見逃してしまった。
(…なんだとっ!?)
ウィルが驚愕する。その速さはロバートのような最速最短の距離を狙う【雷光一閃】とは違い。過去に唯一初動を見抜けなかった、剣聖コハクの歴戦の技術が生み出す運足とも違う。
それを例えるならば、生物として上位な存在の速さ。目にも止まらぬ速度を生み出す純粋な力の結晶。
故に誰も敵わない。人ならざる存在に人は敵わない。人に出来るのはその厄災が過ぎ去るのを祈ることのみ。
「先生!?」
(オレは一体何をされた…?体中きしむような痛みがある…)
ウィルは現状を静かに確認する。限られた視界内に馬車が見えないことから、さっきまで立っていた場所の十数メートルも後方に吹き飛ばされ木に激突し座り込んでいるとわかる。
全身が痛み呼吸をすることすら難しい。そんな絶望的な状況だというのに、ウィルの顔には自然と歪んだ笑みが浮かぶ。
遠くで魔族に襲われているのか、ロイや騎士団員の叫び声が聞こえてくる。
(動け…これで終わりじゃないだろう…)
ウィルは軋む肉体にムチを打ち、なんとか顔を上げ現状を認識する。
馬車の周囲で倒れるロイの姿。そんなロイに覆いかぶさって守るように倒れている男装の麗人レヴィル。
馬車にめり込む形で項垂れている、どこまでも胡散臭い笑顔の男ロバート。そしてその男に忠実な騎士団員達。
その全てが体を欠損させたるか、五体満足だが多量の血を流している状態で倒れ伏していた。
ウィルは…鬼はその現実をその眼でただ静かに見ていた。
•
•
•
「は、はははっ!! 騎士団を簡単に蹴散らすとは流石だ。あの役立たずの獣とは大違いだ!!」
この状況を作り上げた元凶のコールマンは高らかに声を上げ笑う。
「おい!!俺の拘束具を壊してくれ!!」
その声に反応したのかの様にコールマンの側へ移動する。そして…
「グェッ!?」
魔族はうつ伏せになって拘束されているコールマンの首を踏みつけると、まるで潰れたカエルのような声を出す。
「その命令には従えんな」
「なん…だと?お前は何を…ッ!?」
魔族はコールマンを踏む力を少しずつ強くしていく。
「人間。貴様は勘違いしている」
「勘違い?」
「お前が使ったそれは…お前らの言葉で表すなら【太陽の呼び声】だ。それは代償を払って我らと契約する代物。我々を自由に使役できる物ではない」
「代償だと?」
「ああ、そうだ。前回は上手く騙して代償を払わずに済んだようだが今回はそうはいかないぞ」
どんどん首にかける力を強める。コールマンは自分の骨が軋む音を感じながら、魔族の話を聞くことしかできない。
「我は今機嫌が良い。久しぶりに声が聞けたからな。今回の代償はお前とそこで死んだふりをしている人間の命で勘弁してやろう」
「それじゃあアイツらを殺した意味が…な…」
意味がない…そう呟く暇も与えずに首をへし折る。そして次にロイに腕を切られてからずっと死んだふりをしていた賊に近づく。
「…お、おい!!た、たすけ」
その賊が咄嗟に起き上がり命乞いをするのを無視して、顔面鷲掴みにするとそのまま鋭い爪で骨ごと砕く。
「ふむ…もう戦う意味はないのだがな」
魔族は先程殴り飛ばした男が死んでいるはずの場所を見る。そこには額から多量の血を流しながら剣を握り、コチラを眺めている男が立っていた。
「さて、貴様はどうしたい。我は今は気分が良い。死に方くらいは選ばせてやろう」
化け物は不気味な男に興味を示し始めていた。化け物はその男に問う自らと戦いたいのかと…
「…どうするか?」
鬼は無機質な眼を向けその問いに答える。目の前の化け物を品定めするかのように眺めながら…
「簡単なことだ。貴様を斬って終いにする」
その言葉を合図に【化け物】と【剣鬼】は同時に動き始めた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる