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そこら辺に生えた雑草鍋
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「その程度で終いか?」
目の前に立つ師匠でもあり、育ての親でもある虎牙流師範ホリスが仰向けになって倒れるオレに声を荒げながら指示する。
「お前の力はそんなものではないはずだ…早く立て!!」
声を荒げる師匠に応えるためオレは立ち上がろうとするも、体が重く思うように動けない。まるで誰かに四肢を押さえつけられているかの様に…
オレは仰向けのまま師匠に問う。
「師匠…オレは本当に強くなっているのでしょうか? 師はいつもオレにもっと強いはずだと言ってきますが…どうにもオレは自らにその様な力も実力もあるとは思えないのです」
「なぜそう思った?」
「オレは師匠に勝つどころか、善戦すらできていないのです。そんなオレに…」
嗚呼、そうだった。
当時のオレは師匠に誰よりも多く稽古をつけてもらうも、その稽古も虚しく伸び悩んでいた。そんなオレに師は諭すように話をする。
「お前を森で拾って10年は経っか…お前は既にオレの技をすべて身につけ、免許皆伝をやってもいいくらいには成長している」
「そんなお前がなぜオレに勝てないのか?」
「オレと対して体に技量を持つを持つお前がなぜ手も足も出ないのか?」
師匠は剣を鞘に収め未だ倒れているオレの横に歩いてきて見下ろす。その姿はまるで、あの森で初めて師匠に合った時を彷彿とさせる。
冷たい目。嗚呼…なんて恐ろしい目だ。
久しく忘れていたあの眼。
まったく精気を感じず、まるで死んでいるかの様なあの眼。
何も見ていない、なのに何もかも見透かしているかの様なあの眼。
体が震える。オレの精神は完全に師匠のあの眼に怖気づいてしまっていた。
「オレに勝てない理由それはな」
そんなオレをよそに師匠は話し続ける。
「信念の差だ。信念がなんなのかわかるか?」
俺は静かに首だけを横に動かす。
「信念こそ力だ。何者にも侵されることのない揺るぎなき人の心…聖域。その心こそが人をより強く成長させる」
「お前は何のために剣を握る。お前は何のために剣を振るう」
「お前は何のために俺達を殺した」
「そこに信念はあったのか?」
「オレは…」
「立て…立って答えろ。なぜ俺達は死なねばならなかったのだ。オレはお前にあとを継いでほしかった。それだけがオレのささやかな願いであり希望でもあった…!!」
師匠の悲痛な叫びが道場に木霊する。
「お前が居てさえくれれば…何故お前はあの時逃げた…何故…」
「オレは…ただ…」
「…さあ、立って答えろウィル」
オレは立つことができなかった。オレの手には幾人もの血濡れた亡者が絡みつきオレを血溜まりへと引きずり込もうとしている。
その中には見知った顔もある【豪胆な幻術使いの剣士】【かつて剣聖と称えられた鬼】【国の監視者】そのどれもがオレを恨みの目を向け呪詛を吐き出している。
「お前のせいで俺はたった一人の大事な息子をあの都市で一人にさせてしまった。寂しい思いをしているだろう。貧しい暮らしだったからな、もしかしたら既に死んでしまっているかもしれん…お前にこの無念がわかるか」
やめろ…
「童よ、主は間違いを冒した。世に必要なのは童のような恐怖ではなく、儂のような希望とそれを思う信仰じゃ。戦の時代はとうの昔に終わり既に暴力による支配は害以外の何物でもない」
あいつはそんな事言わなかった…
「剣鬼…お前は何がしたいんだ。俺達はお前を害する気はなかった。なのに…オレたちには待ってくれている家族が居る、友人がいる。それに比べてお前はどうだ…? 一体誰がお前のような狂人を愛すると言うんだ」
オレにだって帰る場所くらいは…
「ウィル。お前に帰る場所など本当にあるのか…?」
「どうしたウィル」
「ウィル…答えろ!!」
「ウィル!!」
•
•
•
…ん…ィル…さん…ウィルさん!!
窓の外でオレを呼ぶ声に気が付き目を覚ます。周囲は既に日も傾き暗くなり始めていた。
「もうそろそろ、仮拠点の設営が完了しますので一度馬車から降りて頂けますか?」
オレを起きしに来た騎士団員がそう告げると扉を開けたまま待機している。
「わかった」
オレはそう短く相槌を打つと馬車から降りて騎士団員に軽く礼を言った。
「それではウィルさん食事の準備も済んでますのでこちらに」
そう言って騎士団員はウィルを案内する。周囲を見るがどうやらここは森の中らしく、木々の間からのぞかせる空も既に薄暗くなっているのがわかる。
「ここは位置的にどこらへんなんだ」
ウィルは騎士団員に今日の移動距離を尋ねる。その質問に騎士団員は懐から地図を取り出しながら説明し始める。
「そうですねぇ…大体はこの辺りでしょうか」
騎士団員が指した地図の場所はこれから向かう箇所よりも少し西にズレた場所であり、本来の順路を大幅に逸れていた。
「何故こちらのルートではなくこっちを通っているんだ?」
ウィルの質問に対して騎士団員が答えようとすると横からレヴィルが説明してくる。
レヴィルの気配を感じ取れなかったウィルは一瞬焦りを見せそうになるが、何とかこらえて何事もなかったかのように対応する。
「途中まではウィル様の仰っているルートを進んでいたのですが、どうやら現在賊が出没しているようでウィル様とロイ様の身の安全を考慮して少し遠回りをするルートを通らせてもらっています」
レヴィルの回答に納得がいったのか短く「そうか」とだけ呟くと、そのあとは特に何も言うことはなく騎士団員の案内に静かについて行った。
案内された先には既にロイや他の騎士団員も揃っており、中心には野草や肉の入った鍋と器が用意されていた。
「あっ!? 先生も早くこっちに来て食べてください。具はそこら辺の雑草なのにすごい美味しいですよ!!」
ロイの発言に騎士団員達が笑う。
「ああ、とてもいい匂いだな」
ウィルも少し笑みを浮かべながら、とてもうまそうだと味を想像する。そんなロイの発言にレヴィルも乗っかり少しふざけた紹介をする。
「フフッ…ウィル様。今晩のお夜食は我々が作らせて頂きました。王国騎士団名物のそこら辺に生えた雑草をふんだんに使った肉鍋ウィカーニャ、どうぞご堪能下さい」
日も完全に暮れ辺りは静まり返る森の中で、しばらくの間は焚き火を中心に賑やかな笑い声と話し声が響いていた。
目の前に立つ師匠でもあり、育ての親でもある虎牙流師範ホリスが仰向けになって倒れるオレに声を荒げながら指示する。
「お前の力はそんなものではないはずだ…早く立て!!」
声を荒げる師匠に応えるためオレは立ち上がろうとするも、体が重く思うように動けない。まるで誰かに四肢を押さえつけられているかの様に…
オレは仰向けのまま師匠に問う。
「師匠…オレは本当に強くなっているのでしょうか? 師はいつもオレにもっと強いはずだと言ってきますが…どうにもオレは自らにその様な力も実力もあるとは思えないのです」
「なぜそう思った?」
「オレは師匠に勝つどころか、善戦すらできていないのです。そんなオレに…」
嗚呼、そうだった。
当時のオレは師匠に誰よりも多く稽古をつけてもらうも、その稽古も虚しく伸び悩んでいた。そんなオレに師は諭すように話をする。
「お前を森で拾って10年は経っか…お前は既にオレの技をすべて身につけ、免許皆伝をやってもいいくらいには成長している」
「そんなお前がなぜオレに勝てないのか?」
「オレと対して体に技量を持つを持つお前がなぜ手も足も出ないのか?」
師匠は剣を鞘に収め未だ倒れているオレの横に歩いてきて見下ろす。その姿はまるで、あの森で初めて師匠に合った時を彷彿とさせる。
冷たい目。嗚呼…なんて恐ろしい目だ。
久しく忘れていたあの眼。
まったく精気を感じず、まるで死んでいるかの様なあの眼。
何も見ていない、なのに何もかも見透かしているかの様なあの眼。
体が震える。オレの精神は完全に師匠のあの眼に怖気づいてしまっていた。
「オレに勝てない理由それはな」
そんなオレをよそに師匠は話し続ける。
「信念の差だ。信念がなんなのかわかるか?」
俺は静かに首だけを横に動かす。
「信念こそ力だ。何者にも侵されることのない揺るぎなき人の心…聖域。その心こそが人をより強く成長させる」
「お前は何のために剣を握る。お前は何のために剣を振るう」
「お前は何のために俺達を殺した」
「そこに信念はあったのか?」
「オレは…」
「立て…立って答えろ。なぜ俺達は死なねばならなかったのだ。オレはお前にあとを継いでほしかった。それだけがオレのささやかな願いであり希望でもあった…!!」
師匠の悲痛な叫びが道場に木霊する。
「お前が居てさえくれれば…何故お前はあの時逃げた…何故…」
「オレは…ただ…」
「…さあ、立って答えろウィル」
オレは立つことができなかった。オレの手には幾人もの血濡れた亡者が絡みつきオレを血溜まりへと引きずり込もうとしている。
その中には見知った顔もある【豪胆な幻術使いの剣士】【かつて剣聖と称えられた鬼】【国の監視者】そのどれもがオレを恨みの目を向け呪詛を吐き出している。
「お前のせいで俺はたった一人の大事な息子をあの都市で一人にさせてしまった。寂しい思いをしているだろう。貧しい暮らしだったからな、もしかしたら既に死んでしまっているかもしれん…お前にこの無念がわかるか」
やめろ…
「童よ、主は間違いを冒した。世に必要なのは童のような恐怖ではなく、儂のような希望とそれを思う信仰じゃ。戦の時代はとうの昔に終わり既に暴力による支配は害以外の何物でもない」
あいつはそんな事言わなかった…
「剣鬼…お前は何がしたいんだ。俺達はお前を害する気はなかった。なのに…オレたちには待ってくれている家族が居る、友人がいる。それに比べてお前はどうだ…? 一体誰がお前のような狂人を愛すると言うんだ」
オレにだって帰る場所くらいは…
「ウィル。お前に帰る場所など本当にあるのか…?」
「どうしたウィル」
「ウィル…答えろ!!」
「ウィル!!」
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…ん…ィル…さん…ウィルさん!!
窓の外でオレを呼ぶ声に気が付き目を覚ます。周囲は既に日も傾き暗くなり始めていた。
「もうそろそろ、仮拠点の設営が完了しますので一度馬車から降りて頂けますか?」
オレを起きしに来た騎士団員がそう告げると扉を開けたまま待機している。
「わかった」
オレはそう短く相槌を打つと馬車から降りて騎士団員に軽く礼を言った。
「それではウィルさん食事の準備も済んでますのでこちらに」
そう言って騎士団員はウィルを案内する。周囲を見るがどうやらここは森の中らしく、木々の間からのぞかせる空も既に薄暗くなっているのがわかる。
「ここは位置的にどこらへんなんだ」
ウィルは騎士団員に今日の移動距離を尋ねる。その質問に騎士団員は懐から地図を取り出しながら説明し始める。
「そうですねぇ…大体はこの辺りでしょうか」
騎士団員が指した地図の場所はこれから向かう箇所よりも少し西にズレた場所であり、本来の順路を大幅に逸れていた。
「何故こちらのルートではなくこっちを通っているんだ?」
ウィルの質問に対して騎士団員が答えようとすると横からレヴィルが説明してくる。
レヴィルの気配を感じ取れなかったウィルは一瞬焦りを見せそうになるが、何とかこらえて何事もなかったかのように対応する。
「途中まではウィル様の仰っているルートを進んでいたのですが、どうやら現在賊が出没しているようでウィル様とロイ様の身の安全を考慮して少し遠回りをするルートを通らせてもらっています」
レヴィルの回答に納得がいったのか短く「そうか」とだけ呟くと、そのあとは特に何も言うことはなく騎士団員の案内に静かについて行った。
案内された先には既にロイや他の騎士団員も揃っており、中心には野草や肉の入った鍋と器が用意されていた。
「あっ!? 先生も早くこっちに来て食べてください。具はそこら辺の雑草なのにすごい美味しいですよ!!」
ロイの発言に騎士団員達が笑う。
「ああ、とてもいい匂いだな」
ウィルも少し笑みを浮かべながら、とてもうまそうだと味を想像する。そんなロイの発言にレヴィルも乗っかり少しふざけた紹介をする。
「フフッ…ウィル様。今晩のお夜食は我々が作らせて頂きました。王国騎士団名物のそこら辺に生えた雑草をふんだんに使った肉鍋ウィカーニャ、どうぞご堪能下さい」
日も完全に暮れ辺りは静まり返る森の中で、しばらくの間は焚き火を中心に賑やかな笑い声と話し声が響いていた。
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