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鬼の葛藤
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魔族とギルドマンの遺体を回収し現場の確認を済ませたオレとギルド職員達は開拓村へと戻った。
魔族が出没した以外では特に異常な点が見当たらなかった為、開拓村に戻ると職員から王国騎士団がくるまで待機するよう指示された。
「にしてもあんた、あんな頑強な腕をよく切り落とせたな」
宿屋へ戻る最中に昨日話しかけてきたギルドマン…マーカスがオレの横で語りかけてきた。
「大した事ではない。あの個体はまだ若かったし、外殻を纏う前のだったからな」
ウィルがなんでも無いように言うと、感嘆するように大袈裟な反応をする。
「はぁー…あんたやっぱ相当強いんだな」
「何故そうなる」
「ははっ否定はしないんだな。そりゃあいくら外殻をまとってはいないとはいえ、相手は魔力に適応した種族だぞ? 並の生物よりは圧倒的に硬いぜ」
確かに魔族は魔力の出力なんかは他の生物とは比べ物にならない。事実オレが魔力を込めて放った全力の蹴りを食らってもピンピンしていた。
出力が高いということは単純に耐久力を瞬時にそして格段に上げることが出来るということだし、もちろん身体能力全般の強化も人間とは比べ物にならないだろう。
「それを差し引いても武器というのは使い方次第で格上を倒しうる程の殺傷力がある」
それに…とウィルは続けて話す。
「いくら魔族の爪や牙なんかは他の生物より硬いとはいえど、金属…特に魔法合金などとは比較にならないくらい柔いからな。それだけ人の武器や兵器の開発技術は進歩している」
「あんたが持ってるそれは魔法合金なのか」
マーカスはウィルの持つ剣に指を指しながら尋ねる。
「まさか。これは普通の竜骸鉱とアスカル鉄鉱の合金だ…と言っても斬る分には十分な強度ではある」
俺の剣に使われている金属は王国内ではごく一般的な鉱石だ。王国の南東にあるラキアドー鉱山周辺でよく採掘される種類なため決して高価なものではないが、粘りが強く折れにくいことで有名なため刃物としてよく使用されている。
「竜鉄鋼だったか? 確か王国騎士団の剣も同じ素材だっけか」
「そうらしいが騎士団は個人用の剣を所持できるからな。あまり使うものはいないらしい」
「やっぱ貴族出身が多いから、もっと質のいい剣を使ったりするんかね?」
「そこまでは知らん」
「そりゃそうか!!」
はははっと笑うマーカスだったが途中で立ち止まりウィルの腕を肘で突付いてくる。ウィルはため息をはきながらどうしたのか尋ねながら視線を移動させる。
視線を向けた先にはロイと思われる男が店屋で笑い合いながら話していた
「あれ、ロイじゃないか? だいぶ大きな怪我してるんだろ、放おっておいて大丈夫なのか?」
「無理をしなければ自由にしろと言ってあるからな」
「はぁ…やっぱあんた結構優しいんだな。普通は絶対安静で縛り付けるとこだぜ?」
「無理をしたら問答無用でここに置ていくから問題ない」
「照れるなよ! ロイも良い師匠を持ったな!」
「俺の師匠なんて魔物が出る森に一人でほっぽり出して放置だからな!! ひでえ人だった!!」
マーカスはそう言いながらはははっと笑うがそこには不快や嫌悪といった感情はなく純粋に懐かしんでいる感じであった。
「お前も良い師を持っていたんだな」
「そうだな。なんだかんだ嫌いじゃなかったぜ。そういうあんたはどうなんだよ?」
「あんたの腕的に余程高名な武術家に教えてもらってたんじゃないのか?」
「片田舎の異端さ。大元は体術を中心に据えた技術だったが、オレの師が宗家の許可を得ず勝手に剣術へ転用したものだ」
「まあ、武術なんて技を盗んだもの勝ちだからな。それに盗まれるような技術ってことはちゃんと使える技だってことだろ」
「まあな」
「で?」
ウィルはマーカスの問いに不思議な顔をする。
「…なんだ」
そんなウィルを見て呆れたような反応をしながらマーカスは改めて質問をしてきた。
「いやいや、お前はロイの師匠なんだろ?じゃあ色々技とかも教えてるんじゃないのか?」
「あいつの流派はオレとは違う。それにオレの技はあいつが使うには、あまりにも血濡れすぎている」
ウィルはマーカスの質問に対してそう言うが、あまり納得の行く内容ではなかったらしく微妙な顔をしていた。
「血濡れてるねぇ…でも武術ってそういうものじゃないのか」
「それはそうだが…」
「これはアレックスが言ってたことなんだが…殺しの技も武器も使い手次第。持つ者の判断次第で如何様にでもなるってな」
「まあ俺は馬鹿だからよくわかんねえけどさ。あんたなら何となく言いたいことはわかるんじゃないか?」
いつの間にか手に持っていた酒を飲みながらマーカスはこれまでとは別方向に歩き始める。どうやら別れ道に差し掛かったようだ。
ウィルの宿屋とギルドはちょうど反対側なためここで別れることとなる。
「…」
ウィルは未だマーカスの言っていた事を考えていた。
「さてギルドはあんたの宿屋からは反対だからここらで別れるとするか。あんたもあまり考え過ぎて変な方向にいかないよう気をつけろよ」
そう言ってマーカスは酒を飲みながら、冒険者ギルドがある方角へと消えていった。
ウィルはしばらく考えにふけっていたが、自らの肌を撫でる冷たい風に身震いをすると一度考えるのを止め宿屋へと戻っていった。
魔族が出没した以外では特に異常な点が見当たらなかった為、開拓村に戻ると職員から王国騎士団がくるまで待機するよう指示された。
「にしてもあんた、あんな頑強な腕をよく切り落とせたな」
宿屋へ戻る最中に昨日話しかけてきたギルドマン…マーカスがオレの横で語りかけてきた。
「大した事ではない。あの個体はまだ若かったし、外殻を纏う前のだったからな」
ウィルがなんでも無いように言うと、感嘆するように大袈裟な反応をする。
「はぁー…あんたやっぱ相当強いんだな」
「何故そうなる」
「ははっ否定はしないんだな。そりゃあいくら外殻をまとってはいないとはいえ、相手は魔力に適応した種族だぞ? 並の生物よりは圧倒的に硬いぜ」
確かに魔族は魔力の出力なんかは他の生物とは比べ物にならない。事実オレが魔力を込めて放った全力の蹴りを食らってもピンピンしていた。
出力が高いということは単純に耐久力を瞬時にそして格段に上げることが出来るということだし、もちろん身体能力全般の強化も人間とは比べ物にならないだろう。
「それを差し引いても武器というのは使い方次第で格上を倒しうる程の殺傷力がある」
それに…とウィルは続けて話す。
「いくら魔族の爪や牙なんかは他の生物より硬いとはいえど、金属…特に魔法合金などとは比較にならないくらい柔いからな。それだけ人の武器や兵器の開発技術は進歩している」
「あんたが持ってるそれは魔法合金なのか」
マーカスはウィルの持つ剣に指を指しながら尋ねる。
「まさか。これは普通の竜骸鉱とアスカル鉄鉱の合金だ…と言っても斬る分には十分な強度ではある」
俺の剣に使われている金属は王国内ではごく一般的な鉱石だ。王国の南東にあるラキアドー鉱山周辺でよく採掘される種類なため決して高価なものではないが、粘りが強く折れにくいことで有名なため刃物としてよく使用されている。
「竜鉄鋼だったか? 確か王国騎士団の剣も同じ素材だっけか」
「そうらしいが騎士団は個人用の剣を所持できるからな。あまり使うものはいないらしい」
「やっぱ貴族出身が多いから、もっと質のいい剣を使ったりするんかね?」
「そこまでは知らん」
「そりゃそうか!!」
はははっと笑うマーカスだったが途中で立ち止まりウィルの腕を肘で突付いてくる。ウィルはため息をはきながらどうしたのか尋ねながら視線を移動させる。
視線を向けた先にはロイと思われる男が店屋で笑い合いながら話していた
「あれ、ロイじゃないか? だいぶ大きな怪我してるんだろ、放おっておいて大丈夫なのか?」
「無理をしなければ自由にしろと言ってあるからな」
「はぁ…やっぱあんた結構優しいんだな。普通は絶対安静で縛り付けるとこだぜ?」
「無理をしたら問答無用でここに置ていくから問題ない」
「照れるなよ! ロイも良い師匠を持ったな!」
「俺の師匠なんて魔物が出る森に一人でほっぽり出して放置だからな!! ひでえ人だった!!」
マーカスはそう言いながらはははっと笑うがそこには不快や嫌悪といった感情はなく純粋に懐かしんでいる感じであった。
「お前も良い師を持っていたんだな」
「そうだな。なんだかんだ嫌いじゃなかったぜ。そういうあんたはどうなんだよ?」
「あんたの腕的に余程高名な武術家に教えてもらってたんじゃないのか?」
「片田舎の異端さ。大元は体術を中心に据えた技術だったが、オレの師が宗家の許可を得ず勝手に剣術へ転用したものだ」
「まあ、武術なんて技を盗んだもの勝ちだからな。それに盗まれるような技術ってことはちゃんと使える技だってことだろ」
「まあな」
「で?」
ウィルはマーカスの問いに不思議な顔をする。
「…なんだ」
そんなウィルを見て呆れたような反応をしながらマーカスは改めて質問をしてきた。
「いやいや、お前はロイの師匠なんだろ?じゃあ色々技とかも教えてるんじゃないのか?」
「あいつの流派はオレとは違う。それにオレの技はあいつが使うには、あまりにも血濡れすぎている」
ウィルはマーカスの質問に対してそう言うが、あまり納得の行く内容ではなかったらしく微妙な顔をしていた。
「血濡れてるねぇ…でも武術ってそういうものじゃないのか」
「それはそうだが…」
「これはアレックスが言ってたことなんだが…殺しの技も武器も使い手次第。持つ者の判断次第で如何様にでもなるってな」
「まあ俺は馬鹿だからよくわかんねえけどさ。あんたなら何となく言いたいことはわかるんじゃないか?」
いつの間にか手に持っていた酒を飲みながらマーカスはこれまでとは別方向に歩き始める。どうやら別れ道に差し掛かったようだ。
ウィルの宿屋とギルドはちょうど反対側なためここで別れることとなる。
「…」
ウィルは未だマーカスの言っていた事を考えていた。
「さてギルドはあんたの宿屋からは反対だからここらで別れるとするか。あんたもあまり考え過ぎて変な方向にいかないよう気をつけろよ」
そう言ってマーカスは酒を飲みながら、冒険者ギルドがある方角へと消えていった。
ウィルはしばらく考えにふけっていたが、自らの肌を撫でる冷たい風に身震いをすると一度考えるのを止め宿屋へと戻っていった。
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