剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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ガラス越しの異世界

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 先生と別れてから俺は大人しく宿屋へと戻って自分たちの部屋に入る。

 俺は倒れるように妙に固いベッドへ倒れ込むように横たわると少しの間ボーとしていた。すると隣の部屋から宿泊者の声が聞こえてきた。どうやら最近有名な【虎牙の剣鬼】という辻斬りについて話しているようであった。

 暇つぶしと言っては少し悪趣味な気がするけれど、俺は静かに聞き耳たてることにした。

『聞いたか?また例の辻斬りが出たらしいぜ』

『辻斬りって虎牙の剣鬼ってヤツのことか?』

『ああ、それもこれから俺たちが行こうとしていたロベータへの街道で賊が殺されていたらしい』

(ロベータ…確か水産都市だっけ。海の魚は食べたこと無いなぁ…美味しいのかな?)

 正直川の魚は泥臭くてあんまり好きではないんだけど、海の魚は泥臭くないって父さん言ってたっけ…

『賊か…それだったら俺らからしたら助かるが騎士団なんかも殺られてるんだろ?』

(騎士団を狙うなんて命知らずだな)

『騎士団を狙うなんてどんなバカだよ』

 ロイは隣に宿泊している人と凡そ同じことを考えていたことに少しクスッっと笑う。

『知り合いの話だと近々その辻斬りの討伐隊が組まれるんじゃないかって噂らしい』

『それならもう心配なさそうだな。騎士団は腰が重いけど実力は確かだからな』

『はははっそれはそうだな!!』

 笑いながら話す宿泊者はしばらくの間そんな感じで色んな都市の噂話なんかをしていたが、どうやら晩飯を食べに出かけたようでロイの部屋に静寂が訪れた。

「お腹すいたなぁ…」

 疲れと傷の痛みで忘れていたが昨日から何も食べていないことに気がつくとロイの腹の虫が鳴る。

「どうしよう、先生は宿屋で大人しくしてろって言ってたしなぁ。腹減ったなぁ」

 そうつぶやきながら体を起こし窓から開拓村を眺める。開拓村には魔法具による明かりが灯り、忙しなく働く商人や恐らくはギルドマンであろう人たちが樽や木箱に座って酒を飲みながら楽しそうに話していた。

 王都とはまた違った明るさがあり、窓越しから違う世界を見ている様な不思議な感覚がして胸が踊る。

「怪我さえしてなければ俺も村を見て回りたかったんだけどなぁ」

 ロイは少し残念に思いながらもしばらくの間外を眺めていると、部屋の扉が開く音がした。

 入口の方を見るとそこにはウィルが立っていた。

「あ、先生おかえりなさい!!」

 先程までの自分を隠すようにロイは気丈に振る舞う。そんなロイに対してウィルは敢えて何も触れずに先程ギルドでの出来事を説明した。





「…ということだ。そしてお前は明日ここで待機してもらう」

「それは良いんですけど。騎士団ていつ頃くるんですかね。僕たちが王都からこの村に着くまで10日くらい掛かりましたよね?」

「オレたちは歩きなのとお前の修行で時間がかかったこともあるが、もし馬車に乗ってると仮定しても5日はかかるかもしれないな」

「5日はこうしてジッとしてなきゃ駄目なんですね…」

 少し落ち込むロイにウィルはため息を吐く。

「無理をしないならば村の中を周るくらいはしても構わん」

「やった!!じゃあ早速ご飯食べにいきましょう!!」

  ウィルから出歩く許可を得たロイは待ってましたとばかりにはしゃぐ。

「…いいか。あくまでもお前は怪我人だ無茶をして怪我を増やすようならお前を王都に帰すからな?」

「分かってますって!! さあ、晩飯♪晩飯♪」

「はぁ…言っとくがここは開拓村だから他の栄えてる街のような豪華なものはないぞ」

「え、そうなんですか?」

「当たり前だ。ここはあくまで街と街の道や土地を開発するための拠点だからな」

「あー言われてみればそうか」

「ただ、王都ではあまり出回らない様な獣なんかは食えるかもな」

 ウィルの発言にロイはちょっと怪訝な顔をする。

「それって大丈夫なんですか?」

「言わんとしてることはわかるが、あくまでも王都じゃ食べられていないだけで他だと結構食べられている物がほとんどだ」

「なるほどー」

「それにこんなとこで開拓する以上は変なものを出して開拓村の連中が野垂れ死にされる方がよっぽどマズいからな。まず食べて死ぬようなものはでない」

「じゃあそこまで心配しなくてもよさそうですね!! そうと分かれば早速でかけましょう先生!!」

「...死にはしないが、ゲテモノは出ることは偶にあるがな」

 小さく呟くウィルの言葉は意気揚々のロイにはは届くことはなかった。

 しばらくして開拓村の一角で少年の悲鳴が響き渡り一時的に常駐ギルドマンが出動する騒ぎがあったようだが…それはまた別のお話。
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