剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

文字の大きさ
上 下
16 / 74

完了報告

しおりを挟む
 イルファー様は、ルビィドに対して厳しい言葉をかけていた。
 彼が、言い訳を作って、家に戻ろうとしない。その事実を指摘したのだ。
 図星を見抜かれたからか、ルヴィドは目を丸くしている。自分の弱さを認めるということは、厳しいことだ。その苦しみを、今弟は噛みしめているのだろう。

「……イルファー様の言う通りです。僕は自分の弱さに甘えていたのですね」
「ああ、その通りだ」

 少しの沈黙の後、ルヴィドはゆっくりとその顔を上げた。
 その面持ちは、今までの自信がなさそうな表情ではない。何かを決意したような表情に、変わっていたのである。

「いい顔をするようになった……というよりも、今までのお前の顔がつまらないものだったというべきか」
「そうかもしれません」
「それで、お前は今自分が何をするべきかわかっているのだろうな?」
「ええ、わかっています。この家……フォルフィス家の人間に戻ります」

 ルヴィドの口にした言葉に、私は驚いた。
 話の流れからすれば、それはとても自然なことである。だが、それでもとても衝撃を受けてしまうのだ。
 家出した弟が戻って来る。その事実は、喜ばしいことだ。長年の思いが込み上げてきて、私の心を揺さぶっているのだろう。

「今までお世話になりました……」
「違う」
「え?」

 頭を下げた弟の言葉を、イルファー様は否定した。
 そこで、否定したことには私も少し驚いている。
 まさか、ここまできて弟がフォルフィス家に戻ることを許さないというのだろうか。いや、流石にそれはないはずである。
 それなら、お世話になったのはこちらとでもいうのだろうか。しかし、それはイルファー様には似合わない台詞である。

「私とお前に、関りなど一切存在しなかった。お前は家出をして、他国にいて、そこで慎ましやかに生活していたのだ」
「それは……」
「私に私兵は存在しない。それを理解しろ」
「……はい」

 イルファー様が言いたかったことは、私が予想したようなことではなかった。
 彼が私兵を持っていることは、誰にも知られてはいけないことである。彼は、それをルヴィドに今から示したのだ。

「……」

 ルヴィドは、少し悲しそうにしながら後退していった。
 彼にとっては、家出してからずっと仕えていた主との別れなのだ。それは、かなり辛いことだろう。
 しかも、今後二人は元の関係として出会うことはない。弟の心中を考えれば、とても悲しいはずである。

「……」

 一方のイルファー様は、特に表情を変えていなかった。
 もしかしたら、この別れは彼にとってはありふれた別れでしかないのかもしれない。今までも、こういう別れを彼は経験してきたのではないだろうか。その雰囲気が、そう物語っているようなのだ。

「さて……もう一仕事といくか」
「え?」

 そこで、イルファー様は立ち上がった。
 どうやら、まだやるべきことがあるようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

処理中です...