4 / 74
迂闊な獲物
しおりを挟む
剣聖イナバ•コハクとの決闘からしばらく経ちウィルの生活に変化が生じ始めた。
主な変化はウィルを倒し名を挙げようとする者たちが現れ、決闘を申し込まれることが多くなったこと。
だがそのどれもが取るに足らない凡夫ばかり。剣聖イナバ•コハクとの激闘を制したウィルの心を動かす存在は未だ現れず。
そしてとある街道を歩いている時に剣を携えた武人に決闘を申し込まれる。
「あんたがあの剣聖に勝った剣鬼だな? あんたに決闘を申し込む!! 」
「…受けよう」
武人の申し出を承諾し剣を構えると、それに呼応するように相手も剣を構える。
「…いざ!! 」
相手が剣を振り上げながらこちらに近づく、そして間合いに入った瞬間に剣が振り下ろされる。
「遅い」
しかしその剣が完全に振り下ろされるよりも疾くウィルの剣が相手の身体を両断する。
「グッ...!?」
相手は一瞬訪れた激痛に苦悶の表情を浮かべながら地に倒れ伏した。
「…どうした、これで終いか?」
ウィルは少しの間倒れ伏す相手の前で待つが、一切の動きが無いことを確認すると、一度溜息を漏らした後にその場を去った。
•
•
•
ウィルの姿が視界から完全に消え、誰もいないことを確認すると木陰に隠れていた存在が姿を表す。
「いやぁ…あれはちょっと規格外だぞ。体捌きや技のキレ、そして何よりも…」
「…目が良すぎる」
「ああそうだな。俺だけならともかく隠密スキル持ちのリュークすら気取るのは明らかに異常だ。決着がついた後も俺等が襲撃してくるか警戒してたし、もしあの時俺等が動いていたら殺されてたろうなぁ…」
そんな話を聞きつつ、リュークと呼ばれた男はたった今ウィルに敗れた男の死体に近づいて調べ始める。
「この男はどうやらギルドマンのようだな」
男の死体が身につけていたネームタグを確認すると、この男が王国内に存在する冒険者ギルド所属の者だと判明する。
「おおよそ【剣鬼】に恨みを持つ貴族か武人が仲介屋を通して、クランに所属していないフリーのギルドマンへ殺害の依頼を出していたんだろう」
リュークは死体のネームタグだけ回収するとウィルが去った方とは別の方角へと歩み始め、もうひとりの男も急ぎ足でついていく。
「にしても自分で手を汚さず他人に殺させるとは、卑怯というかなんというか…」
「今の決闘を見た後だとその気持ちも分かる。しかし俺達には彼奴を捕まえる義務がある。王国の平和を脅かす存在は放ってはおけないからな、グレッグもそこんとこは忘れるなよ?」
グレッグと呼ばれた男は少し戯けたように反応を返す。
「もちろんさ!! 我ら王国騎士団の名の下に悪は絶対排除して見せる!!」
「アホ…あくまで捕縛が優先で最終手段が排除だ。それに今は騎士団の身分は隠してるんだあまり大声で叫ぶな」
「 はははっ!! すまんすまん、まあでもどうせ俺等が戦うわけじゃないんだ気楽に行こうぜ!! いつもの様に騎士団長様がどうにかしてくれるだろうしさ!! 」
注意を全く気にもとめず大声で笑うグレッグに、リュークはため息を吐きながら自らの拠点へと戻っていった。
二人は知らない。
鬼は自らを完璧に闇へ紛れ込ませる術を持っていることを…
だから二人は気づけない。
鬼が闇の中で彼らを見定めていることに…
鬼は決して獲物を逃さない。
主な変化はウィルを倒し名を挙げようとする者たちが現れ、決闘を申し込まれることが多くなったこと。
だがそのどれもが取るに足らない凡夫ばかり。剣聖イナバ•コハクとの激闘を制したウィルの心を動かす存在は未だ現れず。
そしてとある街道を歩いている時に剣を携えた武人に決闘を申し込まれる。
「あんたがあの剣聖に勝った剣鬼だな? あんたに決闘を申し込む!! 」
「…受けよう」
武人の申し出を承諾し剣を構えると、それに呼応するように相手も剣を構える。
「…いざ!! 」
相手が剣を振り上げながらこちらに近づく、そして間合いに入った瞬間に剣が振り下ろされる。
「遅い」
しかしその剣が完全に振り下ろされるよりも疾くウィルの剣が相手の身体を両断する。
「グッ...!?」
相手は一瞬訪れた激痛に苦悶の表情を浮かべながら地に倒れ伏した。
「…どうした、これで終いか?」
ウィルは少しの間倒れ伏す相手の前で待つが、一切の動きが無いことを確認すると、一度溜息を漏らした後にその場を去った。
•
•
•
ウィルの姿が視界から完全に消え、誰もいないことを確認すると木陰に隠れていた存在が姿を表す。
「いやぁ…あれはちょっと規格外だぞ。体捌きや技のキレ、そして何よりも…」
「…目が良すぎる」
「ああそうだな。俺だけならともかく隠密スキル持ちのリュークすら気取るのは明らかに異常だ。決着がついた後も俺等が襲撃してくるか警戒してたし、もしあの時俺等が動いていたら殺されてたろうなぁ…」
そんな話を聞きつつ、リュークと呼ばれた男はたった今ウィルに敗れた男の死体に近づいて調べ始める。
「この男はどうやらギルドマンのようだな」
男の死体が身につけていたネームタグを確認すると、この男が王国内に存在する冒険者ギルド所属の者だと判明する。
「おおよそ【剣鬼】に恨みを持つ貴族か武人が仲介屋を通して、クランに所属していないフリーのギルドマンへ殺害の依頼を出していたんだろう」
リュークは死体のネームタグだけ回収するとウィルが去った方とは別の方角へと歩み始め、もうひとりの男も急ぎ足でついていく。
「にしても自分で手を汚さず他人に殺させるとは、卑怯というかなんというか…」
「今の決闘を見た後だとその気持ちも分かる。しかし俺達には彼奴を捕まえる義務がある。王国の平和を脅かす存在は放ってはおけないからな、グレッグもそこんとこは忘れるなよ?」
グレッグと呼ばれた男は少し戯けたように反応を返す。
「もちろんさ!! 我ら王国騎士団の名の下に悪は絶対排除して見せる!!」
「アホ…あくまで捕縛が優先で最終手段が排除だ。それに今は騎士団の身分は隠してるんだあまり大声で叫ぶな」
「 はははっ!! すまんすまん、まあでもどうせ俺等が戦うわけじゃないんだ気楽に行こうぜ!! いつもの様に騎士団長様がどうにかしてくれるだろうしさ!! 」
注意を全く気にもとめず大声で笑うグレッグに、リュークはため息を吐きながら自らの拠点へと戻っていった。
二人は知らない。
鬼は自らを完璧に闇へ紛れ込ませる術を持っていることを…
だから二人は気づけない。
鬼が闇の中で彼らを見定めていることに…
鬼は決して獲物を逃さない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる