青空の彼女

第3話 過去の秘密

「嘘、、だろ」
まさかだ。俺にあの時声をかけてくれた子、優しい笑顔で喋ってくれた子、俺の初恋の子、その子が秋だったのか。今となっては、想像ができない。
「そのことを秋は知っているのか？」
俺は父に聞いた。父は答えた。
「もちろん知っているさ、秋ちゃんはずっと俺たちのことを覚えていたらしいぞ。」
驚いた。なら、尚更疑問だ。昔はかなり仲が良かったのに、どうして昨日はあんな冷たい態度を取っていたのだろう。
「なら、どうして昨日はあんなに冷たかったのか。とか、どうせ考えてるんでしょ笑｣
政子さんがクスッと笑いながら言ってきた。
「顔に出てましたか？」
「うん笑やっぱり、累くんは優一さんそっくりだね｣
たしかに父さんもすぐに顔に出るタイプだ。続けて、政子さんが言う。
「なんで秋が冷たいかは、累くんが悪かったからかな」
「え、俺なんかしましたか？」
何をしてしまったのか、全く分からない。
「昨日、秋に会った時に、君は初めましてって言ってたよね？秋には言うなって言われてたけど、あの子凄い累くんに会えるの楽しみにしてたみたいなの。だから、覚えられてないことがちょっとショックだったみたいなの笑｣
そうだったのか。でも、あんなに見た目が可愛く変わっていたら、普通気がつかない。でも、秋はずっと俺のことを覚えていてくれた。昨日のあの発言は、秋を傷つける発言だった。これは嫌われてもおかしくない。
玄関の扉が開く音がする。
「帰ってきたね」
政子さんが何かを訴えかけるように、俺に視線を送る。俺は玄関に行って、靴を脱いでいる秋に声をかけた。
「お、おかえり。遅くまでお疲れ様。疲れてるところ悪いんだけど、話したいことがあるからちょっと時間貰っていいかな？」
秋は1つため息をついて、
「別にいいけど｣
とだけ言って、俺を見た。
「ちょっとだけ、俺についてきてくれないか？」
俺がそう提案をすると彼女は、
「は？こっちは疲れてるんだけど」
当然の返事だ。でも、このまま仲の悪いまま一緒に暮らしていくのは良くないし、しっかりと秋には謝らないといけない。
そう思い、俺は秋の手を引っ張って、少し強引につれていった。
「ねぇ、離してよ。普通に気持ち悪いんですけど」
無視。
「こんなところ他の人に見られたら、最悪なんだけど」
無視。
「無視とかマジでキモイんだけど」
無視。
俺は秋にボロくそ言われていた。少し歩いただけで、俺の心はボロボロになっていた。
しばらく歩き、
「え、ここって」
秋がびっくりした顔で俺を見る。俺が連れてきた場所は、ジャルが練習で使用していた体育館だった。
「秋。すまない。秋は覚えていてくれてたのに、俺は父さんたちに言われるまで、秋のことを忘れていた。秋には何度も助けらていたのに、本当にごめん」
俺は勇気を振り絞って、秋に謝った。
すると、秋は笑顔になって、
「本当だよ。私、累に忘れられてるって知った時、本当に凄いショックだったんだよ！前はあんなに仲が良かったのに、、でも思い出してくれたみたいで良かった｣
秋は学校でも1度も見せたことのないような、とても幸せそうな笑顔でそう言った。
「これからは、仲良くしてくれるか」
俺は秋に聞いた。
「当たり前だよ。これからは、じゃなくて、これからもでしょ！」
そう言って、2人は安心したように笑いあった。
しかし、累にはずっと疑問に思っていたことがあった。
「どうしてあの時、急にジャルをやめたんだ？」
俺がその質問をすると、秋は少し悲しそうな声で言った。
「実はあの頃に大好きだったお父さんが病気で死んじゃったんだ。もともと、お父さんはプロのバレー選手でね、私がバレーしたいって言った時は、凄い応援してくれたんだ。でも、もともと持っていた肺の病気が悪化してしまって、そのまま、、｣
秋は少し辛そうに喋りながらも、俺の質問に答えてくれた。
「だから、バレーをしているとお父さんのことを思い出して、すごく悲しくなったの。だからバレーをすることをやめたんだ」
累が質問をする。
「なら、どうして今バレーをしてるの？」
秋は答えた。
「バレーをしたいと言った時のお父さんのとても嬉しそうな顔が、どうしても忘れられなくてね、バレーを練習して上手くなれば、天国のお父さんも喜んでくれるかなって思ったし、辛い時や悲しい時にあの子も、今頑張ってるんだなと思うと、私も、くよくよしてられないなって思ったから｣
秋は俺の目を見つめて、
「私がバレーしてるのは、君のおかげでもあるんだよ。ありがとね」
そう笑顔で彼女は俺に言った。
「そう言って貰えて、嬉しいよ。俺も辛い時や悲しい時、いつも秋のことを思い出してたよ。小学生までだけど笑」
そう俺が言うと、秋は頬を膨らませて、俺の足を蹴った。なかなか痛かったが、でも昨日じゃ想像もつかないくらい秋と打ち解けることが出来て、痛みと同時にうれしさも感じていた。
「これからもお互い練習を頑張って、支え合いながら、バレー頑張ろっ。目指せ総体優勝だ！｣
俺がそう言うと、彼女も笑顔で言った。
「七沢高校男女バレー共に総体優勝だ！」
お互い大きく今後の目標を掲げた。
俺にとって、秋は初恋の相手だったが、今は良き戦友としてこれからはお互いを支え合っていく関係になる。俺はそう思っていた。
「じゃあそろそろ帰るか」
結局30分くらい話して、家に帰った。

「ただいまー。ちょっと遅くなったー」
俺がそういうと、政子さんは笑顔で
「良かった。お互い打ち解けることが出来たみたいね、2人とも良い顔してるわよ」
この人は、本当に人の心を読むのが上手いな。俺は政子さんに感心しつつも、凄く感謝をしていた。
「こうして秋と仲良くなれたのも、政子さんのおかげです。本当にありがとうございます」
俺は政子さんにお礼を言った。
「いいのよ、気にしないでちょうだい。ところで2人は付き合わないの？」
政子さんの口から思いもよらない言葉が出てきた。
「いえいえ、そういう関係にはならないです。だいたい俺には、、いえ、やっぱりなんでもないです。とにかく付き合うことないと思います｣
俺がそう言うと、秋も
「私たちはそういう関係じゃなくて、良き戦友みたいな感じの関係だから」
と否定をした。それを聞いて政子さんは残念そうに、
「そうなのね。ちょっと残念だけど、2人には2人なりの考えがあるのね。お母さんたちは外から見守っているね」
そう言って、政子さんは夕飯の準備を再び始めた。
続く