空蝉

ひさかはる

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 カメラを通した映像を見た電気屋は何を思っただろうか。保身に冷や汗を掻いたか。それともこちらを心配したか。いずれにせよ電気屋を揺さぶることが出来たならあの男の愚行もまったくの無駄ではなかったと言える。

 あなたは昼と夕の間に佇み、取るに足らないものではあるが、電気屋と迎えた初めての苦難にふたりでどう対処するべきかを想い、危機に瀕する効果で自身を偽った。

 事実、何か動かなければならない事はない。あっけなく危機は去った。けれど余裕のない声で電気屋に連絡を入れればどういった言葉が返ってくるか興が熾らないでもなかった。

 何も言わずにおくことで、次に現れた際に、三度目の冷たい視線に相まみえるのであればそのほうが良いかもしれない。

 そう思えば連絡をするにしても、沈黙するにしても、どちらにせよ嘘でしかなく、嘘は言葉にあるのではなく心にあると知らされて、悦びの為に犠牲にされた純心が遠くで啼いた。あなたの耳はその声に鳴らされても、意に介するものにはなり得なかった。

 虚言癖というのは病のようでもありながら悦びへと邁進する意志にも思われた。

 偽るという行為をひとつの心の在り様とすれば、嘘であることが真実にもなり得るのではないかとするあなたから、心がまたひとつ失われていった。

 恋をするには嘘が必要とはいえないが、焦がれる為には必要だった。

 夏の太陽から逃れられる冷房は夏を嘘にする。

 真実に還るほどの強さを持たない現代人が灼かれるにはもうひとつ嘘をつき、再度反転させる他はない。

 
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