空蝉

ひさかはる

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 トイレを後にしたあなたは甘い倦怠を余す膝を前へと運び、足裏を廊下に摺らせリビングへ帰った。

 睨むカメラに頬が照り、物置のクローゼットを開け、モニターをチェックすれば画面越しにも女の匂いが嗅がれるであろう恥に内腿が締まった。トイレにカメラは忍ばせずにおいたが事の終わりの気配と余熱はそう簡単には消えてくれず、リビングには澱みが生まれ攪拌もされずあなたの周りに居付いている。

 パソコン画面には先程眺めていた女性のプロフィールが貼り付き、写真が自動でスライドされていた。動画よりも露骨であり、正気であれば開かれることの適わない女のいやらしさが男へ向けた分かり良い挑発と、目が写されない気安さに咲いていた。

 ネットが普及し、社会が女の裸体に慣れたなら、蕾で留めおく妖しさは最早目を惹くものではなく、やる気の見えない女と映るのだろうか、と想えば遠回りな媚態ひとつではどうにも為らず、純然とした肉体と眉目であればさして身に覚える自信はなく、漠然とした女特有の絶対的な自己愛だけではここに並べられそうにもないあなたは喪服の女を消し求人を閉じた。

 誰かに覗かれた心地がし、振り向いたが当然の如く誰も居らず、馬鹿な企てを嗤うでも咎めるでもない空白がぽっかりと間を埋めていた。

 誰かに覗かれ露わにされる羞恥と、誰にも見られず自身と向かい合うほかない冷ややかな静けさとを比べ、恥のほうを求めればもう終わりな気がした。夫を亡くした悲哀に色を塗り、同情を誘い、ただの羞恥では済ませずにおく女の計略が顔を出し、矜持を保つ為だけにでも身体は男を呑み込み、男女ふたりの恥としてしまうのだろう。

 その言い訳に紛らせ男の根に大きく啼く声を想い、耳奥に鳴り始めた幻聴から腿の内に流れてゆくものがあった。

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