空蝉

６

　もう分かり易い証拠は隠蔽されてしまっている。何か会社から出るとすれば揺さ振られた焦りからしかない。

　あなたはそう考えた。

　これから幾度も訪問を受けるであろうことを想定し、電気屋に頼み、二十四時間ＨＤＤ録画をし、容量が一杯になれば古いものから順に上書きされていくよう設定したカメラを全室の壁に埋め込み、はたから見ただけでは簡単には分からないよう細工し、モニターは物置にしてある部屋のクローゼットのなかに設置した。もう両親のない夫の実家であることを良いことに、穴を開けるに躊躇いのない自身にあなたは薄ら寒くなった。

　御自身でなされるよりもセキュリティー会社に頼んだほうがよろしいのでは？　と女を心配しながらも電気屋は仕事を終え、何か困ったことがあればいつでも相談に乗りますから、と名刺の裏に仕事用ではない個人の携帯電話と思われる番号を書き記しあなたに渡して帰った。

　客ではなく女を見る目をしていた電気屋は何かの拍子に使えるかもしれないと名刺を保管した。

　脚立から降りる度、ほのかに男の匂いが薫っていた。それで自身の女が起きあがるという事はなかったが、袖をまくり作業をする腕に浮く血管に淋しみが刺激されたのは事実だった。夫が亡くなったばかりで欲はまだ眠っているが、身体を使い会社の者から言質を取るほかにも疼きをしずめる男を欲する事があるだろうか。何事もなく死んでしまったのなら一生喪に服すといったことも考えられたが肉体を使うことも辞さない覚悟を決めたことであなたのうちに穏やかでない予兆が感じられた。

　夫は淡白だった。それに不満もなかった。常に愛情はあった。

　けれど太い腕で半ば強引に抱かれてしまう言い訳のなかに溺れてみたい気がないとは言えない。

　夫の写真を怨めしく見つめた。

　それもこれもあなたのせい。

　夫の微笑みは何も変わらず爽やかにしていた。