空蝉

ひさかはる

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 インターフォンが鳴り会社の者が三人連れ立ち訪れた。

 目をつけていた男はいなかった。

 そう上手くいくものではないか。こういったぼろを出されては困る状況にまだ青い男は連れて来ない。

 男たちが玄関で馬鹿丁寧な挨拶をし、同じ要領であなたも応じれば、男たちの目の奥が弛んだ。

 が、靴を脱ぎ上がり框を越えたところで目奥が最初よりも引き締まった。

 その姿勢が何も知らない女と見て甘く見積もるつもりはない堅固なものであるとあなたに知らせた。

 はったりが要る。

 線香を燻らせる間に、冷たい飲み物を用意しようとキッチンへ向かい、男たちを夫の部屋に残した。

 仏壇に手を合わせる間、遺族がそばにいれば気を弛める隙がない。怨みがあるのであれば会社の者たちの態度を観察し続けるだろうからこのタイミングで妻が飲み物を用意する訳がないと男たちは考えるだろう。口には出さずとも目を配らせ、三人はいま心安くしているはず。

 あなたはそう考えた。

 汗をかくグラスを四つおぼんに載せ、部屋へ運ぶと案の定、男たちの肩がぴくりと大きく張った。今の今まで弛めていた証拠だった。対峙する相手が一度消え、再度現れると多少なりとも気を張り直すものだが落差はそのまま欺瞞の程度となる。

 おぼんを見て男たちの肩が僅かに弛んだ。

 あなたが自分の分も含めた四つのアイスコーヒーを用意していることで、難航せず楽に運ぶと見たようだった。儀礼として訪問客に飲み物を用意することはあってもこの状況で四人で睦まじくとは考え難い。この女は馬鹿なのではないか? といった隙が三人に生まれたようだった。

 この部屋で済ませてしまおう。あなたはそちらに話が向くよう空気を流した。

 申し訳程度の顔を作り社長が話し始めた。口の端の微笑は拭い切れず、底意が丸見えだった。

 しばらく続けさせた。澱みなくセリフが乗り始め、余裕が見えたところであなたは切り出した。

 「私はそういった物事が何も分からない者なのですが、昨日お電話を頂いた後で丁度親類の者から連絡がありまして、法関係の者や経営をしている者もいる事だから念のため直ぐにはサインをせず、お話だけお伺いするようにと厳しく釘を刺されまして、私、ひとりっ子でして何かと周りが世話を焼きたがるんです。本当に心配症でこちらも困ってしまうくらいに…」

 ふたりの男の背が怯えを混じらせた硬さで伸びた。

 社長の鼻の下に汗の粒が浮き出る。

 平静を保たせていた交渉事が得意そうなひとりの男が助け舟を出した。

 「それはそれは、存じ上げておりませんで、ちなみにどちらの企業さんで? お伺いしたところで何がどうと言った事でもないのですが…。いや、それに用心するに越した事はありませんから心配症の身内は有難いものです」

 「申し訳ございません。お答え出来兼ねます。これにも釘を刺されておりまして、何かそういった調べる機関でもあるのですか? こちらに任せておくようにと言われておりまして、本当に困ってしまいます」

 あなたはシナを作り声を甘くした。目に鋭さがこもらないよう男たちをぬいぐるみと見立てて話し、親戚にとってはまだまだ子供と思わせる芝居を打った。

 三人は目配せこそしなかったものの顔を見合わせたくて堪らない様子だった。それぞれの恐れをひとりずつが抱え、三人で対応しているとは誰もが思えていない孤独な目をしていた。

 今すぐここを飛び出したいであろう三人にあなたは話し続けて引き止めた。向こうから立ちあがるきっかけを作れはしない。あなたは思う存分いたぶった。

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