空蝉

２

　親類も払い夫とふたり。

　明日になれば骨となる。

　冷たい手を持ち上げ、甲に頬を寄せた。涙に濡らしても枯れた手に潤いは馴染まず、肌を滑り、指のさきに暫時留まり雫を溜めそれから落ちた。

　棺の底に敷かれる薄い艶を持つ白布も涙を弾き、端に追いやり逃げ場を失ったところで仕方なく軽く濡れたに過ぎず、少しの時間と共に跡形は綺麗に去った。

　唇に寄せ、指をひとつまたひとつとあなたは口に含み、形をやきつける。第二関節の膨らみから爪の先へ、もう伸びる事のない梢の無念を吸い上げる。

　指に熱がまわった。自身の口内の残り香と分かってはいてもどうする事も出来なかった。

　襦袢の股を割り女の陰に夫の指を忍ばせた。

　女は濡れず、痛みがあった。

　唾液で濡らし誤魔化す事を選ばず夫を深くした。

　緩やかな曲線を描く夫の唇に苛立ち、安らかな眠りを疎外させ、遺恨を余さず復讐を遂げてから逝けるよう、もう一度瞼を開かせる愛憎で貪った。

　夫の顔が好きだった。

　造形ではなく優しみが溢れる表情が好きだった。

　けれど今はそれが憎くて堪らない。

　妻を残して逝く夫の眉間には皺ひとつなく、微笑みが貼りつき離れない顔が今のあなたには愛おしくて憎い。