オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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(三回目でラスト……?。これで大丈夫なのかな。しかし、オラに力を~ってのは危ないかもしれない)

 ぐったりしている四人を含めて辺り一帯を緑色の光で覆いつくしながら、ミユキは上空を見上げた。
 雲ひとつない晴天である。
 今は何時くらいなんだろうか。

 守護竜たちは三頭でなにやら会議中のようであった。ふたばは途中でコウスケの頭からふわりと飛び降りてミユキの下に来ておねだり中である。空腹らしい。ふたばが飛び降りたとき、コウスケがすがりつくような視線を送っていたのを、ミユキはひそかに気づいていた。かなり気にいっているようだ。

(さて、これからどうするか……。やっぱりあの三人と合流してから説明会かな。って説明できるほど私も知らないしなぁ。あ、とりあえず生き証人のイークレスさんがいるし、状況の説明は彼にお願いするのがいいよね)

 考え事をしているうちに、遠くには森ができ、周辺は草原となり、足元にはぽつぽつと白い小花が咲きはじめた。四人も体力が戻ったようで、立ち上がり周囲を見回している。

「あの~、何がどうなっているんですか?」

 ふらふらと徳山が寄ってきた。

「うーん、私にもよくわかってないんですよねー」
「「「「え?」」」」
「で、ではなぜ? なぜにこのようなことを?」

 イークレスの言葉遣いが変なのは置いておこう。

「話すと長くなりますよ……」

 ぼんやりと遠い目をするミユキである。

「な……長くなってもいいですから、気になるので教えてください」

 うんうんと頷く一同であった。しかし思い出したようにミユキが言った。

「あぁ、皆さんを石から戻さないと。今度はお仲間がいるから大丈夫ですかね」
「え? 何が?」

 立花の質問に、イークレスが苦い顔で答える。

「皆さん、石から解呪されるとまず、守護竜様に攻撃されると思います。元々は我々の責任なのですが。邪悪な竜を倒すと言ってこちらにお連れしたのですから……」

 立花は時間を切り取られたような感覚を思い出した。
 ついさっきまで自分もあの竜を敵だと思っていたのだ。ミユキは鼻歌を歌いながら一体の石に向けて解呪を始めた。そしてやはりボロボロだったので続けざまにクリーンをかける。

「北尾ッ」

 剣を握りしめる少年に徳山と立花が駆け寄った。

「どけっ!」

 北尾と呼ばれた少年は二人を押しのけて、ギラついた目で辺りを見回すと、目標を定め、一気に走り出した。ミユキも同時に走り出した。

(あれ? こんな元気がまだあったのか……)

「北尾ッ! よせ!」

 立花の声は届かず、徳山も走り出したが、北尾はがむしゃらに片手で剣を振り回していて近寄れない。

「ぶっ殺す!」

 空いた左手を天に掲げてブツブツ唱えると同時に、手のひらにパリパリと火花のような光が集まりだした。その手のひらで剣を撫でるようにすると火花が剣にまとわりついていく。しかし目に焦点があっていない。

「ミユキ様! あぶないッ! それは雷剣トルトニス──聖剣です!」

 イークレスの叫び声に構わず黒い竜の前に立ちはだかったミユキに、北尾は構わず剣を振り上げ、たたきつけるように振り下ろす。

「───なんだぁッ?」

 音もなくミユキは左の前腕で剣を受け止めていた。聖剣のミユキに触れた部分にうっすらとひびが入っている。ミユキが右手で刃を掴むと、北尾は真っ赤な顔をしてプルプルと震えていた。動かないのだ。

(………困った。雷剣ってなんだか強そうなのに、痛くもかゆくもないよ。この人も勇者だよね? すでに人間ではないものにされている感が否めないし。あれ?)

「北尾さん、ちょっとすみません。その腕輪は……」

 北尾の上腕にある、細かな細工がなされた腕輪が気になったのだ。

「ばっ! 離せ! ババァのきたねー手で触んじゃねー……」

 ぱきん、と乾いた音が響きわたる。
 雷剣トルトニス──雷鳴の名を持つ国宝だった剣は、その日、折れた。ヒーッとイークレス達が悲鳴にならない声を漏らした。

(ババァ……ですかぁ。さすがにまだ、言われたことなかったな。初ババァだわ。ハハハ)

 ミユキがにっこりと笑みを浮かべ、剣の下半分だけを持った北尾は後ずさろうとしたがいつのまにか背後を銀色の竜に阻まれていた。竜の頭の上にはなぜかビーグル犬が乗っている。

「北尾! 馬鹿! あっちを見ろよ! おまえ、さっきまであの石だったんだぞ!」

「え?」

「みんな、石にされちゃっんだからな! 石から戻してくれたの、そのミユキさんなんだぞ!」

 まわりこんだ徳山から羽交い絞めにされ、正面からも立花に肩を掴まれて揺さぶられ、北尾の瞳にうっすらと光が宿ったかに見えたが、すぐにまた暗いものに戻った。

「すみません、ちょっと抑えててくださいね」

 ミユキが再び腕輪に手を伸ばすと、北尾がもがき、暴れだす。

「クソババァ! やめろ! それは貴様みたいな汚いババァが触れていいものじゃないんだからなっ!」

(クソババァときたか……そして汚いババァ……。いや、もしかして若いうちに子を産んでたら、もうおばあちゃんになってたかもしれないしなぁ。えーと19で産んで、その子が19のときに38歳……楽勝でおばあちゃんだな。12歳の孫かぁって、それでもよその高校生におばあちゃんといわれる筋合いはないわ! ましてやババァなぞ、人として言語道断だし! 私はまだまだおばさんだ!)

 ミユキから漂う冷たい空気に、三人の男は冷や汗をかいていた。自分でもわからないが、なぜか嫌な汗が噴き出てくるのだ。心なしか足が小さく震えてきた。

「だ、黙れ、北尾、頼む、黙ってくれ」
「いい加減、黙れ! 馬鹿野郎」

 ついに徳山が北尾の口を手で覆った。
 フガフガと何やら叫び続ける北尾にミユキが手を伸ばし、腕輪に触れるか触れないかのところで、それは北尾の腕から消え、次の瞬間にはミユキの手の上にあった。

「それは……」

 恐る恐る近づいてきたイークレスが青ざめた顔で、息をひそめて言った。

「隷属の腕輪ですね」

 北尾は気を失っていた。

「ミユキ様」

 ふいに、幼い声で呼ばれ、振り返ると空色の髪の中学生くらいの少年が立っていた。






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