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「さて、これで大丈夫なはずです」
宿の部屋に三人を寝かせて戻ってきたミユキは、カローと二人で作業場の隣の保管室の中にいた。コウスケはふたばと一緒に塩谷の部屋で待ってもらっている。保管室は捌かれたオークの肉が次々と運び込まれていっぱいになりつつあった。冷える魔石のおかげで中はまるで冷蔵庫だ。
「………で、これはなんだい?」
「これはですね、収納庫というか……、収納庫ですね?」
保管室の壁に鍵つきのコインロッカーくらいの大きさの扉をつけて、ミユキは首をかしげた。
「なぜ首をかしげるんだ?」
「なんていうか、入れたものは時間が止まって、保存されるんですが生きた物が入ってはいけないので鍵をつけてみました。魔力なしでできるだけの大きさを作ってみたのですが……おそらくこの建物と同じくらいの量しか入れられないので、すみません」
「それって時空間収納ってヤツか?」
「あ、それですそれ! なんちゃら収納~ どうにも忘れっぽくて。三歩歩いたら忘れる感じですね。おそらくお肉が入りきれないだろうからこれがあると無駄にならないかなと思いまして」
「この建物くらいだって?」
「ええ。あんまり大きくできなくてすみません。あ、でもこの扉に手を当てたら中身がわかる感じに仕上がりましたので試していただけますか?」
脇にあった小ぶりの肉を放り込み、扉を閉めてカローを促すと、カローは口をへの字にして扉に手を当てた。
「う、なんだこれ」
頭の中にステータスと同じように文字が浮かんでいる。慌ててミユキを見ると、うんうんと頷いていた。
「取り出したいときはこれを開けて思い浮かべると出てきますよ」
言われたとおりにすると、手の上に肉があった。
「あんた……、いったい? 魔力なしって……?」
「あ、これ置いていきますのでステーキにでも使ってください。保存にも使えるかなぁ。できたらこのお肉を流通させていただきたいんですけども……」
部屋の隅にどこからともなく出した腰くらいの高さまである大きさの壷を、どんと置くとミユキはにこりと笑った。
「捌いて頂いたお礼になるかどうかわかりませんが。あぁ、これじゃお肉の量と合わないか。すみませんね、気が利かないなぁ。ちょっと増やしますね」
ブツブツと言いながら壷を増やしていく。壁に沿って、10個並べられた。
「では、先を急ぎますので失礼します。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げたミユキは、その場から消える。
後に残されたカローは声も出せずに佇んでいた。しばらくして、礼すらまともに言っていないことに気がつき、ひとり毒づくのだった。
「くそ、次にあった時にたっぷりごちそうするからな。……しかし、こりゃなんだ?」
ずらりと並ぶ大きな壷の前に立ち、ひとつふたを開けてみると見慣れた白い結晶がぎっしりと詰まっている。思い切って、指でつまんで舌にのせた。
「うまい」
思わず口をついて出るほどにまろやかな塩だった。今まで使っていたものと質が違うのは明らかだ。並んだ壷を再び見て、深いため息を吐いてから呟いた。
「なんなんだ? あのひとはいったい……神様か?」
問いに答えるものはいない。
*****************
「ラミ○スラミ○スルルルルル~~~~」
目を爛々と輝かせるイークレスは置いといて、ミユキは一回り小さな封印石を解呪した。
光の中から現れたのは小柄な分厚い眼鏡をかけた、おかっぱの女の子である。
イークレスは滝のような涙を流し、崩れ落ちる女の子を支え、見つめていた。やはり、血とか何やらで汚れている女の子をクリーンできれいにしてから、残りの二人にも順番に呪文を唱える。
現れたのは、男子二人であった。
塩谷と比べても明らかに背が高く、体格もいい。二人ともアタッカーなのか、それぞれ槍と剣を持っていた。呆然としたまま、膝から崩れおちるふたりに続けざまにクリーンをかける。体力と魔力は後回しだ。弱っているうちに説明してから回復したほうが面倒がなくてよさそうだし、と前回からひとつ学んだミユキであった。彼らにとっては一瞬で風景が激変しているのだから混乱しているに違いない。呆然としているところに注意深く声をかけた。
「どうも~~!」
「「………」」
「えーと、私はミユキといいます。その、何といいますか……この世界を覆いつくそうとしていたらしき瘴気は、一応ここの分は消滅しました……よね?」
コウスケを伺い見ると、彼はふたばを抱きかかえ、うむ、と頷いた。その横から色気たっぷりの笑みを浮かべてキャサリンが付け加える。
「そなたたちのおかげで持ちこたえられたゆえ、礼をいうぞよ。ご苦労であった」
「「………」」((誰???))
テレビで見たことのある二人に更に混乱する二人である。しかし、少しずつ寸前のことを思い出してきたようだった。
「あれ……確かさっき、立花が石に……?」
「竜は、どこ行ったんだ?って俺が石?」
少し考え込んだ立花は膝をついたまま辺りを見回すと少女を見つけて怒鳴りつけた。
「賀来! 回復しろ! 早く! ったく使えねぇなぁ!」
ぐったりとした少女に命令する剣を持った少年……というには図体も態度もでかすぎる……。
あきれて視線を投げたミユキにイークレスも視線を返してきた。それみたことか、だからこの子だけ戻してくださればよかったんですよと言いたげである。
いやいやいや、そういう問題じゃないから、と思いつつ、もう出来上がっているであろう人格や人間関係についてとやかく言うのもなんだかなぁ、でも女の子は気の毒だし、どうしたものやらと考えるミユキに剣士な少年が顎で指して言った。
「そういや、あんた、何なんだよ? どっからわいてきたの?」
(……)
アンニュイな気分になるミユキであった。
宿の部屋に三人を寝かせて戻ってきたミユキは、カローと二人で作業場の隣の保管室の中にいた。コウスケはふたばと一緒に塩谷の部屋で待ってもらっている。保管室は捌かれたオークの肉が次々と運び込まれていっぱいになりつつあった。冷える魔石のおかげで中はまるで冷蔵庫だ。
「………で、これはなんだい?」
「これはですね、収納庫というか……、収納庫ですね?」
保管室の壁に鍵つきのコインロッカーくらいの大きさの扉をつけて、ミユキは首をかしげた。
「なぜ首をかしげるんだ?」
「なんていうか、入れたものは時間が止まって、保存されるんですが生きた物が入ってはいけないので鍵をつけてみました。魔力なしでできるだけの大きさを作ってみたのですが……おそらくこの建物と同じくらいの量しか入れられないので、すみません」
「それって時空間収納ってヤツか?」
「あ、それですそれ! なんちゃら収納~ どうにも忘れっぽくて。三歩歩いたら忘れる感じですね。おそらくお肉が入りきれないだろうからこれがあると無駄にならないかなと思いまして」
「この建物くらいだって?」
「ええ。あんまり大きくできなくてすみません。あ、でもこの扉に手を当てたら中身がわかる感じに仕上がりましたので試していただけますか?」
脇にあった小ぶりの肉を放り込み、扉を閉めてカローを促すと、カローは口をへの字にして扉に手を当てた。
「う、なんだこれ」
頭の中にステータスと同じように文字が浮かんでいる。慌ててミユキを見ると、うんうんと頷いていた。
「取り出したいときはこれを開けて思い浮かべると出てきますよ」
言われたとおりにすると、手の上に肉があった。
「あんた……、いったい? 魔力なしって……?」
「あ、これ置いていきますのでステーキにでも使ってください。保存にも使えるかなぁ。できたらこのお肉を流通させていただきたいんですけども……」
部屋の隅にどこからともなく出した腰くらいの高さまである大きさの壷を、どんと置くとミユキはにこりと笑った。
「捌いて頂いたお礼になるかどうかわかりませんが。あぁ、これじゃお肉の量と合わないか。すみませんね、気が利かないなぁ。ちょっと増やしますね」
ブツブツと言いながら壷を増やしていく。壁に沿って、10個並べられた。
「では、先を急ぎますので失礼します。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げたミユキは、その場から消える。
後に残されたカローは声も出せずに佇んでいた。しばらくして、礼すらまともに言っていないことに気がつき、ひとり毒づくのだった。
「くそ、次にあった時にたっぷりごちそうするからな。……しかし、こりゃなんだ?」
ずらりと並ぶ大きな壷の前に立ち、ひとつふたを開けてみると見慣れた白い結晶がぎっしりと詰まっている。思い切って、指でつまんで舌にのせた。
「うまい」
思わず口をついて出るほどにまろやかな塩だった。今まで使っていたものと質が違うのは明らかだ。並んだ壷を再び見て、深いため息を吐いてから呟いた。
「なんなんだ? あのひとはいったい……神様か?」
問いに答えるものはいない。
*****************
「ラミ○スラミ○スルルルルル~~~~」
目を爛々と輝かせるイークレスは置いといて、ミユキは一回り小さな封印石を解呪した。
光の中から現れたのは小柄な分厚い眼鏡をかけた、おかっぱの女の子である。
イークレスは滝のような涙を流し、崩れ落ちる女の子を支え、見つめていた。やはり、血とか何やらで汚れている女の子をクリーンできれいにしてから、残りの二人にも順番に呪文を唱える。
現れたのは、男子二人であった。
塩谷と比べても明らかに背が高く、体格もいい。二人ともアタッカーなのか、それぞれ槍と剣を持っていた。呆然としたまま、膝から崩れおちるふたりに続けざまにクリーンをかける。体力と魔力は後回しだ。弱っているうちに説明してから回復したほうが面倒がなくてよさそうだし、と前回からひとつ学んだミユキであった。彼らにとっては一瞬で風景が激変しているのだから混乱しているに違いない。呆然としているところに注意深く声をかけた。
「どうも~~!」
「「………」」
「えーと、私はミユキといいます。その、何といいますか……この世界を覆いつくそうとしていたらしき瘴気は、一応ここの分は消滅しました……よね?」
コウスケを伺い見ると、彼はふたばを抱きかかえ、うむ、と頷いた。その横から色気たっぷりの笑みを浮かべてキャサリンが付け加える。
「そなたたちのおかげで持ちこたえられたゆえ、礼をいうぞよ。ご苦労であった」
「「………」」((誰???))
テレビで見たことのある二人に更に混乱する二人である。しかし、少しずつ寸前のことを思い出してきたようだった。
「あれ……確かさっき、立花が石に……?」
「竜は、どこ行ったんだ?って俺が石?」
少し考え込んだ立花は膝をついたまま辺りを見回すと少女を見つけて怒鳴りつけた。
「賀来! 回復しろ! 早く! ったく使えねぇなぁ!」
ぐったりとした少女に命令する剣を持った少年……というには図体も態度もでかすぎる……。
あきれて視線を投げたミユキにイークレスも視線を返してきた。それみたことか、だからこの子だけ戻してくださればよかったんですよと言いたげである。
いやいやいや、そういう問題じゃないから、と思いつつ、もう出来上がっているであろう人格や人間関係についてとやかく言うのもなんだかなぁ、でも女の子は気の毒だし、どうしたものやらと考えるミユキに剣士な少年が顎で指して言った。
「そういや、あんた、何なんだよ? どっからわいてきたの?」
(……)
アンニュイな気分になるミユキであった。
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