オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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(結局、サルモー君達の負担を増しただけだったかもしれない……)

 オバさんは反省中であった。
 あの後、調味料の説明を始めたところで、サルモー父子が帰ってきたので、家族三人相手に講習会をした。スクイラは、さすがプロといったところで、ひと通りの説明をすると大体理解したらしく、口頭で教えたラタトゥイユを今ひとりで作っている。ラタトゥイユはオリーブオイルと塩くらいしか使わないけれど、塩を好きに使えるのが嬉しいようだ。

 料理の基本のさしすせそと、お肉の臭み消し、焼いたり炒めたり煮たりの料理の方法等、ミユキが現在、本がなくても作られるものをいくつか教えて、オリーブオイルはモラに購入先を教えただけである。デルとモラが仲良くなって欲しいなぁと思いつつ……。
 そして、調味料の壺は、例によってサルモーの魔力注入で元の量が戻るようにして、ついでにそれをしまう家族限定のアイテムボックス(小:二畳くらい)を台所の棚につけたのだが、冒頭にもどるのであった。
 ついでに隣の酒場にも同じことをしたので、スコンベルにも負担であったが……。

「ミユキさん、ホントに明日行っちゃうの?」

 そのサルモーがお目々ウルウルで尋ねてくる。
 今、宿の部屋には黒魔法使いが集まっていた。懐かれたようだ。昔から子供には懐かれやすかった。○ケモンとか、キャ○テン翼とか、ドラゴ○ボールとか、年賀状に描いていたからか……。ポケ○ンをクリアした後、ソフトを貸してポケモンを取り放題で分けてあげていたからかもしれない……。二十代後半くらいまでは五歳くらいの子供からよくプロポーズされたものだ。って、四半世紀前だわ~。

「うん、明日の朝ね。明日は勇者さん達のお披露目があるらしいからその前にどさくさに紛れて出て行くつもり。流石に夜出て行くのは目立ちそうだから、夜明け前に狩りに出る人に紛れて出ていくよ」

 こじつけであった。ポンチョじゃないけどマントに夜明けの風孕ませて旅立ちたいだけなのであった。

「どこに行くの?  馬車に乗って行かないの?」

「決めてないなぁ。とりあえず、この国から出るつもりなので国境?  馬車はふたばもいるし、とりあえず歩きですね」

「あの……」

 実に言いにくそうにアミアが口を開いた。こういう場合は、ほぼお願いだろう。アミアは意を決したように続けた。

「僕、ソリス村ってところから来たんです。こ、国境の近くの村で……。その、魔力があったのって、ソリス村では僕だけで……これまでもいなかったって言われました」

「うんうん」

「3年前から魔物が増えて、村の近くに森があるんですけど、魔物が増える前までは、入り口近くくらいまでは、薬草とか、取りに行けたんです。でも、僕が学校に行くために村を出た頃には危なくなってて、家畜も狙われるようになって」

(家畜!  ソリス村ではお肉が!?)

「領主様も討伐隊を送ってくださったりしたのですが……」

「ついでなので、会いにいってみようか?   村のどの辺りにお家があるのか教えてくれる?」

 アイテムボックスの雑貨から文房具へ、そして筆記具……細かく分類し過ぎな気もするが、こだわるタイプなのか……。ノートとペンを取り出したのだが、妙に馴染みのあるものだった。

(あのひとは……いや、人じゃないのか?  この際どっちでもいいけど、なぜ!  これなのか?)

 ジャ○ニカ学○帳(自由帳)だった。

(40年近く前に愛用していたが……今もあるの? )

 目を皿のようにしてみている少年たちに、何事もなかったかのように広げてみせて、アミアにボールペンを持たせる。これまた愛用のメーカーであった。

「書きやすいです、これ」

 褒められても、さすがにこれを配ってはいけないと、オバさんでも判っていた。曖昧に笑ってごまかす。アイテムボックスは配りまくっているくせに。
 村は思ったより大きいようだった。家畜がいるくらいだし、一軒一軒の敷地が広いのだろう。しかし、上手い地図だ。

「でも……ここから馬車で2週間くらい、もしかしたらそれ以上かかるかもしれません。それに、魔物が増えていて、とても危険かも知れないし……やっぱり、あっちには行かない方がいいかも……」

 語尾は聞き取れないくらいに小さな声になっていた。

(村は心配だけど、私のことも心配してくれてるのか……  いい子だなぁ)

 ここ最近、じーんときやすくなっているオバさんである。

「ま、何とかするよ。行けなかったらあきらめるし。その時はごめんね?  で、できたら他のページに判るだけでいいから、この国の地図を描いてくれないかな?  地理がわからなくて。どの辺になんて国があるかとか、川とか山とか森とか、大きい街道とか」

 ヘラっと笑うと5人は一瞬考えた後、頭を寄せ合って描き始めた。。地理で学んでいる途中らしい。戦争とか絡んでくるから精密な地図が身近にあるわけではない。それで、王都の外から来た3人が通って来た道中や村周辺の記憶が頼りのようだ。そして、しっかり自分の故郷にはそれぞれの名前が書きこんである。今更だが、この文字も普通に読めるようだった……。

「ありがとう」

 地図を手にミユキは頭を下げる。

(そう言えばこっちに来てからまだ24時間くらいしか経ってないのか……)

「では、お別れの前にオバさんと約束をお願いします」

 ミユキはベッドの上に正座をした。

「おそらくないとは思うんだけど、もしもこの先、誰かが私を訪ねて来た時は、隠さなくていいから、かわいそうだったので二晩泊めたらいなくなったと言ってください。行き先も言っちゃって大丈夫です。とりあえずはソリス村ってことで」

「え……」

「変に隠すと面倒なことになるから、必ず言ってね。これは、約束です。オバさんの尊敬する女用心棒○ル○さんもそう言ってました」

「女性の用心棒!?  すごい人がいるんですね」

 ミユキは重々しく頷いた。

「私の国には、それはもう、凄いお方が沢山いるのです。指先一本で悪者を爆発させる男もいました」

「「「「「へえ~~~~!!」」」」」

「とにかく、私も何とかするので大丈夫です。おそらく、殺されることはないだろうし。わかりましたか?」
(見習い天使さん、何とかなるって信じてますぞ!)

「「「「「はい」」」」」

 美少年達から妙にキラキラした瞳で見つめられ、尻がむず痒くなるオバさんであった。




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