オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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14 その後のオストレア家にて

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「行っちゃったね。では、一度屋敷に戻ってからおいかけよっか」

「だな」

「お待ちください」

 軽い口調のロンブスとアングイラの背後から、暗雲が立ち込めている。

 2人の首根っこを掴んだ執事は、そのまま引きずってオストレア家の屋敷に戻って行った。

「お嬢様もおいで下さい」

 にっこりと笑みを浮かべるブランキアは、怖かった。

 そのまま、一番近い部屋に押し込まれ、応接セットに強引に座らされる。

「さて、ご説明願いましょう」

 正面に立ったブランキアをまじまじとみて、ロンブスが顔を手で覆った。

「………おかしくない?   アングイラ」

「あ、あぁ」

 確か、ブランキアは自分達が幼い頃から、いや、そのずっと前からオストレア家に仕えていて、自分達の父親と変わらない年齢の筈で、これまで独身を貫いてきた男だった。おそるおそるロンブスが口を開いた。

「あのぅ、ブランキアさんて今おいくつでしたっけ?」

「何をおっしゃるかと思えば……今年で55になりますが?」

「おかしいですよ。髪が伸びただけかと思いましたが、何だか、その……若くなってません?   力だって強いし、背も高い気がします」

「え?」

「私……」

 ラーヤが思いきったように口を開いた。

「遠くがよく見えるようになりました。あの、ミユキ様のおまじないの後から、離れたところの皆様のお顔が、はっきりと見えるようになったのです」

(えええええぇ────!?)

「ミユキ様とはいったい、どちらからいらっしゃった方なのですか?」

 ブランキアの問いにロンブスとアングイラは顔を見合わせて、ため息を吐いた。

「実は……今日の儀式で……勇者様達と一緒に異世界からいらっしゃったようなんです」

「は?」

「勇者様は11人いらして、皆様は私達と同年齢くらいのようでしたが、ミユキ様だけ、その、お歳を召していらして、その上ステイタスにも何もなかったらしく、間違えて喚ばれたのだろうと国王様から宴にも置いていかれて……」

「な………」

「でも、その、皆様が宴に行かれた後、残された私達学院生は魔力切れで朦朧としていて、それをミユキ様がおまじないで一瞬で満たしてくださったんです」

「しかしその事を報告に行こうとした学生をミユキ様がお止めになり、火傷の痕が治っているのに気付いたシルーシスがお願いして、こちらまで一緒に来ていただいたんです」

「お兄さま……」

 眉間に縦皺を寄せていたブランキアがラーヤをちらりと見た後、思いきったように質問した。

「坊っちゃまは、ミユキ様に差し上げた報酬はいかほどなのかご存知ですか?」

 これには、ロンブスが、う、と詰まった。

「その……ミユキ様は『何か食べ物を』としか仰らず、実はまだお渡ししていないようです」

「食べ物?」

「あの、最初はシルーシスが下僕になると言ったのですが、あっさり断られたので、これから儀式に参加していた学院生のサルモーくんの実家の海猫亭でご馳走するつもりのようですが……」

「三食召し上がったとして、一年かかってもお返ししきれませんね」

 ブランキアはため息を吐いた。

「しかし何故、ミユキ様の力を報告されなかったのです?」

 いろいろとまずすぎる事態である。なぜ、魔法を使う者だというのに、一瞬で魔力を回復させる力の恐ろしさに気づかないのか。この子達はそこまで愚かだったか?   しかし、ロンブスはにこにこと笑っている。
 まさか………

「勇者様達は、きっとそのくらい簡単にできるはずですから。同じ世界からいらっしゃったんですし」

「そうそう。ステイタスも素晴らしかったそうだし。11人もいらっしゃるんだから、どなたかおできになりますよ」

「お姫さまの笑顔のほうが大事だしね」

「そうそう」

 自分達が習う回復魔法では7年も前の火傷の痕など直せない。そもそも、そんなことができる魔道士にお目にかかったこともない。古い文献でも調べ尽くした。わかりきった事なのだ。シルーシスの右手で、何度も試したのだから。

「ブランキアさん、このおまじないは、奇跡って事にしていただけませんか?」

「?」

「勇者様達がこの地にいらっしゃった際の奇跡」

 ブランキアは大きく目を見開いた。

「なるほど。そういう事ですね。わかりました」

「特にその髪の件は……」

「ええ。もちろんです」

 髪は女の命、というが男に於いても然りであった。
 しかし、悲しいかな、この国の男達の髪は黄昏れ率が高いと言うのも事実だったのだ。同じような能力の男が求婚した場合、より豊かな毛髪を所有する者が選ばれるらしい。
 まぁ、黄昏れ率が高いだけに、実はそこまで重要視されてなかったりするのだが。そこに拘る女性はあまりいないし、あったらいいな、くらいにしか思われていないのだ。
 男のロマンなのだろうか。
 実際、この家の主人もかなり黄昏れているが、正室側室合わせて6人もの奥方様がいる。

「ただ、こちらの主人は……」

 その夜、城から戻った主人に問い詰められ、渋々説明する事になるのは目に見えていたが、それはまた別の話だった。

「では、今回の出来事は勇者様降臨にあやかり、奇跡という事にしておきます。ラーヤ様、よろしいですね?」

「はい。私、ミユキ様の事は誰にも言いません」

 ロンブスはにっこりと微笑んで、ラーヤの頭を撫でた。

「よかったね、本当に」

「はい!」

 ラーヤは今年で10歳になる。
 ロンブスは7年前に出会った時からずっと恋い焦がれている。自身が7歳の時からだ。火傷の痕など全く気にならなかったが、自分の魔力の暴走で、兄の手まで焼いてしまったことをずっと悔いていたようなので、その心が晴れるのなら何でもするつもりだった。

 やっと、心の枷がとれるだろう。

(まずは第二王子の誕生会のエスコートに立候補することにしよう……)

 このふたりの恋物語は、また別のおはなしである。


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