オタクおばさん転生する

ゆるりこ

文字の大きさ
上 下
13 / 91

13

しおりを挟む
「お、お嬢様……」

 金髪ナイスガイとなった執事の目がウルウルしている。

「ようごさいました。本当に……」

 手を取り、そう涙ぐまれてラーヤは自分の右の手のひらを見た。

「え……?」

「鏡を持ってきてもらおうね」

 なぜだか無駄にキラキラしているロンブスが微笑んでいる。どうやら先程のまじないも部屋全体に効いたらしい。同様にキラキラしているシルーシスが慌てて部屋から出て行き、すぐに大きな姿見を抱えて戻ると、壁に立て掛けた。
 キラキラのアングイラがラーヤの手を取って鏡の前に導いた。

「あ……」

 右の頬に手を当てて、目を見開いている。

「髪が……」

「綺麗に結えるね」

 ロンブスが豊かな長い髪を後ろから手でまとまるように持ち上げた。

「私……」

 大きな目から涙がこぼれ落ちてくる。そしてその傍には自分の変貌した姿を見て驚愕の表情を隠せない執事がいた……。髪に恐る恐る触れている……?

「お兄さまのは?」

「先に治していただいたよ。ミユキ様に」

 手袋を取り、手のひらを見せると、ラーヤは手にとって笑みを浮かべた。

(様に昇格したらしい……。さて、お暇して宿に向かうとするか。しかし、シルーシス君は報酬の件は忘れてないよね?   パンみたいなの、あるのかな、この世界の食べ物すらわからんな。虫が主食だったらどうしよう。まあ、それはそれでいただくとして、味覚は似てて欲しいよね……)

 ふたばを抱え上げ、粗相をしていないか確認をしていると、ラーヤが駆け寄ってきた。男共も付いてくる。

「ミユキ様」

 見上げてくる顔はさっきより、格段に明るかった。可愛い。短い髪も可愛かったけどなぁ……。

「おまじない、ありがとうございました」

「どういたしまして。……髪に触ってもいい?」

「どうぞ」

 にこりと笑うラーヤの頭を優しく撫ぜると、ラーヤは左手で抱えているふたばを覗き込んだ。

「この子のお名前は?」

「ふたばです」

「ふたばちゃん」

 しかし、肝心のふたばはもともとサービス精神が全くない犬なので無反応だった。他人が頭を撫でようすると避けるので、非常に気不味くなるため、勧められない。

「さて、では先を急ぎますので、お暇させていただきますね」

「えっ!?」

「お帰りになるのですか?」

 執事が驚いたように尋ねてきた。

「はい。宿の予約もしていますので」

「当家で御宿泊をなされてはいかがでしょう?   主人は間もなく戻りますので……   恐らくお礼を申し上げたいかと存じます」

「ありがとうございます。でも、お礼はして頂きましたし、これから約束もございますので、本日はこれにて失礼させていただきます」

「サルモーのところへ行かれるのですか?」

「ええ」

「その後は?」

 ロンブスはにっこりと笑っているが、何故だろう?少し怖い気がするのは。

「森を目指します」

「「「森?」」」

 見事にハモった。

「ええ。ふたばと森で生きていこうかと。いい森を探すのにしばらく旅を続けますが……」

 皆さん絶句しているのは何故?   そういえば、見習い天使さんもこんな感じだったかな?

「では、皆さん、ごきげんよう」

 頭を下げ扉に向かうと、シルーシスが慌てて追いかけてきた。

「お送りします」

「お待ちくださいませ」

 執事が深く頭を下げる。

「ミユキ様    もしも、また……おまじないをお願いしたい場合はどのようにすればよろしいのでしょうか?」

「連絡方法……」

(朝のラジオに賛美歌十三番?   いやいやいやラジオなさそうだしなぁ   そもそも賛美歌ってないよね。13年式G型トラクター……トラクターも新聞もなさそうだし)

「この街は、お祭りがあるなら見物して、明日か明後日には出たいので、それまででしたら、サルモーさんの宿にいると思います」

「私も玄関までお見送りをしてもよろしいでしょうか?」

 ラーヤが、遠慮しつつ尋ねてくる。かわいい。

「ありがとう」

 全員でぞろぞろと部屋から出ると、すぐ戻りますと言って執事が慌ててどこかに駆けていった。

 廊下では数人のメイドとすれ違ったが、全員素早く壁際に避けて頭を下げ、顔を見る者はいなかった。おそらく、ラーヤのためにそうなっているのだろう。

 吹き抜けの大きな玄関ホールに出ると、執事が走って来た。小さな布袋をミユキに手渡す。受け取ったものは、大きさに反してずしりとした重みを持っていた。
 これはわかる。お金だろう。

「失礼とは承知ですが、是非ともお受け取りください」

 ブランキアは有無を言わさぬ口調だった。

「シルーシス坊っちゃまがどのようなお礼をお渡ししたかは存じませんが」

(何か食べ物の予定でまだもらっていないけど……)

「世間知らずのお子様だと、お許しください」

「?」

「ブランキアッ!」

「遠方からいらっしゃったのでしたら、相場というものをご存知ないかも知れませんが、ミユキ様のなされたことは、とてつもないことでございます」

(火傷の治療?  増毛?   どっちだ?)

「こちらは私の分の御礼でございます」

(増毛か……)

「いえ、あれは偶然です。巻き込んでしまったようなものですのでお代は結構です」

「お   う   け   と   り   く   だ    さ   い」

「はい   アリガトウゴサイマス」

 金髪碧眼ナイスガイの笑みは怖かった。鞄はないのでローブもどきのポケットに突っ込んだが、妙な違和感を感じた。重さがない。しかしここで確かめるのも何なので、先を急ぐことにする。

「では、お邪魔しました~」

「ミユキ様   またいらして下さいね」

「ありがとう。ではまた」

 かわいいラーヤに挨拶をして、ブランキアに頭を下げると門に向かって歩き出す。外はだいぶ暗くなっていた。後ろからシルーシスがついてくる。

「僕達も後から追いかけるよ」
「すぐに追いつく」

 ロンブスとアングイラが声をかけてきた。

「ミユキ様!   本当にありがとうございました」

 ラーヤの声に振り返り、大きく手を振る。

 瞳をウルウルさせながら手を振るラーヤは、ものすごく可愛い。深く深く頭を下げるブランキアにもう一度会釈をして、ミユキはお屋敷を後にした。


しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

処理中です...