オタクおばさん転生する

ゆるりこ

文字の大きさ
75 / 91

75

しおりを挟む
 ソール帝国に発つ少し前、世界樹と呼ばれる樹の前にミユキは立っていた。

 結局、竜に乗って飛んで行くよりイークレスに地図を書いてもらい、一旦ミユキが連れて行った方が早いからだった。世界樹の周りには結界がはりめぐらされていて本来ならば世界樹に許された者以外は、いかなる者も進入できないはずだったが、全員特にはじかれることもなくこの地に立っていた。弾かれた場所からの移動のために竜にもついてきてもらっていたのだが……。
 ちなみにエルフは世界樹の番人ということで概ね弾かれず、人間は大体弾かれてその他の種族は半々の確率らしい。

 世界樹と言われても目の前にあるものはほぼ壁である。空まで届くのかと思われるほどの高さにどこまでも続いていそうな樹皮でできた壁だ。そしてこの壁から50メートルほど離れた周囲は鬱蒼とした森が続いていて、その森がエルフの国らしい。上を見上げるとかなり高い場所に辛うじて葉が茂っているような、どちらかというとどんより曇った空といったほうがしっくりくるような感じである。だいぶ前に戦った伝説の世界樹とは大きさがまるで違った。ゲームの話だけれど!

(聴診器で中の音を聞いたりしてたひとがいたなぁ。家裁のゴニョゴニョ……でもアレ、原作じゃモブのヒトがやってたのにドラマじゃ主人公がしてたんだよね……)

 懐かしいマンガを思い出しつつ、ごつごつとした樹皮に耳を当てると、川の流れるような音が微かに聞こえる。しかし……。

(元気がない。まさか、マナの力が衰えているとでもいうのかッ?)

 そのゲームでよく見ていた単語を○ンダムっぽく思ってみたが、こっ恥ずかしいだけであった。そもそもマナって何ぞやである。

「ミユキ様」

 後ろから声をかけられて、少々赤くなりつつ振り返ると、こゆみをお姫様だっこしたイークレスが立っていた。転移後すぐに回復はしたが、こゆみはまだつらいようだ。守護竜達は相変わらず影響ないらしい。竜も平気なようだった。そのあたりの線引きが不明である。

「ミユキ様、どうもありがとうございました」
「こちらからでしたら帝国まで、我々の翼でさほど時間はかかりませんゆえ……」

 イークレスに続き、ついてきた人型になっている竜が頭を下げる。その竜もなんというか、美形であった。しかもイケボだ。やはりこの世界にはイケボのイケメンしかいないのか。やはり乙女ゲームの世界なのか? その竜にもイークレスは頭を下げ、カケルにも同様に頭を下げる。カケルは世界樹を見てみたいと言ってついてきたのだ。

「大変申し訳ないのですが、ここから先は私とこゆみ様のみで行かせていただきたいのです。すぐに戻りますのでどうかお願い致します」

 腰の低さとは裏腹な、有無を言わさぬイークレスの声音に顔を見合わせた守護竜と竜は黙って頷いた。

「じゃあ、ここで待ってますね」
「お気をつけて」

「申し訳ございません。ではミユキ様、皆様、失礼いたします」

 もう一度頭を下げてこゆみを抱きかかえ、森の中へ消えていくイークレスの後ろ姿を一瞥した後、世界樹を見上げていたカケルが呟いた。

「キミもここからずっと守ってきたのに──すっかり淀んでしまっている……。世界樹きみがこんなことになっているのだったら、この世界ももう長くない………って、ええええええぇ?!」

 自身をも包み込む見覚えある真っ白な光に振り返ると、ミユキが両手を天に向けてあの光を放出していた。
 ふたばを抱いたコウスケがぼんやりと上を見上げている。
 しばらくして巨大な樹木を這うように昇っていった白い光が天上で弾け、粒子へと変わりしんしんと雪のように降ってきた。それはまわりの森にも降っている。続けて緑色の光が辺り一面を覆い、ひろがっていった。イークレスが入っていった森もあっという間に覆い、どこまで広がっていったのか見当もつかない。

「そうれそれそれ、のぼれのぼれ、ほほいのほい」

 何やら妙な調子で言いながら、ミユキは手のひらを上に向け、はたはたと動かしていた。その動きに合わせるように緑色の光がぐんぐんと上へと昇っていく。まるで緑色の霧の中にいるようだ。

「ミ、ミユ……」

 突然、樹の根元から若い枝がめきめきと生え、堅くなった樹皮を覆い尽くすように育ち芽吹きだした。曇り空のように淀んだ色だった上空が、みるみるうちに鮮やかな若葉色へと変わっていく。そして柔らかな風に葉が揺れてほのかな甘い香りの木漏れ日がきらきらと降り注いできた。

「……うぅっ……」

「えっ!? カケルくん、どうしました?」

 慌てて駆け寄ってくるミユキに、何かを答えようとするのだが、喉がヒクついて声が出ない。
 頭に大きな手が乗せられて見上げると隣でコウスケが微笑んでいた。



 おまえたちはこの世界を守るために生まれてきたんだよ。


 遠い遠い昔、初めて聞いた誰かの声はそう言っていた。
 あれは誰の声だったのだろう。



 風がひんやりとそよぎ、その時初めてカケルは自分の頬を伝うものに気がついた。煌めく若葉の間から覗く空を見上げてそのまま柔らかい草の生えた大地に寝転んでみる。
 背中が温かい。

「カケルくん」

 腰を落として心配そうに見てくるミユキに微笑みを返す。

「ミユキさん。僕、ここでこうしてます。気持ちいいです」
「え、でもこんなとこで寝たら風邪ひいたりしませんか?」

 守護竜に向かっておかしなことをいうミユキにクスリと笑うと、ミユキも気づいたのか、にやりと笑ってきた。ここは、こんなにも温かいのに風邪をひくはずがないのだ。

「でもまぁ」

 そう言ったミユキの手には小さな布が現れていた。

「失礼しますね」

 優しく頬を拭う布は温かく湿らせてあった。

「ありがとう」

 口元の笑みだけでそれに返したミユキは立ち上がって周りを見渡すと、膝をつき口を開けたまま世界樹を見あげている竜の人の肩を軽く叩く。

「すみません、それじゃ行ってきます。なんだかここは安全そうなので、こちらに勇者さん達を連れてくることにしますね。弾かれたらその時対処しますので、イークレスさん達が戻ってきたらこの辺で待っていてくださいとお伝えください」

「か、畏まりました! 必ずやお伝えします!」

 我にかえった竜の人は平伏しそうな勢いで頭を下げ、了承した。

「ミユキさん!」

 肩にコウスケの手を乗せて転移しようとしているミユキに、身を起こしたカケルが半ば叫ぶように声をかけた。首を傾げるミユキに質問する。

「どうして、世界樹を……」

 助けてくれたのかと唇をかんだカケルに、ミユキは笑みを浮かべながらあっさりと答えてそのまま転移していったが、意味がまるでわからなかった。





「世界樹が病んでラスボスに変化するパターンが一度あったんで、予防したんですよ~。こんなにでっかいのを敵にまわすなんてメンドくさいでしょ?」






 ラスボスって何?





しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...