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スキルは「茨城県」?
しおりを挟む私は生まれも育ちも茨城県。まあ、時々、他の都道府県にも行ったことはあるけれども、ほぼ人生の全てを茨城県で過ごしている。
魅力度最下位とか馬鹿にされているけれど、何故か道路には他の都道府県からの車が走ったりしている。魅力度がないっていうなら来るなよ。道路が混むだろうがと内心毒づく。特に夏の時期など他府県ナンバーが走り回り、渋滞を引き起こしてくれるから嫌になる。筑波山が気軽に登れる山だから渋滞しながら登山して楽しいのか?しかも夜遅くまでいて降りられなくなったとか石だらけの登山道の途中で足挫いたなどとすぐに救援を求めるなよ。それなりに装備して来いよ。茨城県は魅力がないんだろう、だったらわざわざ来るな迷惑だよと何度も言いたくなるくらいだ。
そんなごく普通の茨城県民である私が、たまたま東京なんてところに出張した際に、ラノベのテンプレどおりに勇者召喚なんて言う面倒なものに巻き込まれた。
高校生3人組が前を歩いていて、若いっていいなあとぼうっと思いながらもその横を通り過ぎようとしたアラサーの私。そしたら突然、周りが光って意識が飛ばされたと思ったら、はい、魔法陣らしき上に正座してたよ。ちなみに例の高校生3人組は魔法陣の上に意識を失って倒れていた。
ーなので、これは間違いなく勇者召喚に巻き込まれたという状況かと冷静に判断します
なんかわからない機械的な女性の声が頭の中に響いてくる。
ー誰?
ーはい、『つくば研究学園都市のブレーン』です
ー『つくば研究学園都のブレーン』って何よ?
ーはい、あなたのスキルの中の一つになります。疑問はすべて私が解決します。困った時はアドバイスさせていただきます
ースキル?
ーはい、【茨城県】です
「はあ?」
思わず声を出していた。
だってねえ、ラノベ世界でもゲーム世界でもスキル【茨城県】なんて聞いたことがないよ。一気に脱力した。
そんな私の抜けた声に気が付いた高校生たちが「ここはどこ?」とか「やったー勇者召喚だ」とか「ラノベ展開だ」とか騒いでいる。そう言えば、こういったものにつきものの神様に出会わなかったぞと私はそんな彼らを見ながらそう思った。いや、それよりもなんで私はこの状態を冷静に見ているのかと疑問に思わなかったことが異常だとも思っていなかった。
予想通りに綺麗な王女様が出てきて、「勇者様、我が国をお救いください」とかいうラノベ小説か何かを読んでいるようなテンプレ展開とかいろいろあって、職業とスキルなどを調べてられて、勇者とか賢者とか聖女とかいう職業とラノベによく出てくる真っ当な当たりスキルばかり持った高校生たちと職業が何故か【茨城県民】でスキルが【茨城県】って何なのと高校生たちに馬鹿にされて笑われて、つまりだ、私は勇者召喚に巻き込まれた只人ということでいらないとばかりに高校生たちと引き離された後、殺されそうになったところを『つくば研究学園都市のブレーン』に助けられて、何故か今は『亜空間西山荘』にいる。
そう、殺されかけたところでブレーンちゃん(『つくば研究学園都市のブレーン』っていちいち呼ぶのが長過ぎて、面倒だからブレーンちゃんと呼ぶことにした)が亜空間が開いて私をそこに逃げ込ませたらしい。ちなみにこの『亜空間西山荘』も【茨城県】のスキルの一つだそうで、異世界(外)で危険な目にあったらいつでもここに入れるように、ブレーンちゃんが設定してくれた。おお、なんて出来る子なんだブレーンちゃん。
西山荘ってあの西山荘だよね。確か、時代劇で有名な水戸黄門の隠居場所で昔さあ、萩に行ったときにみた松下村塾のあとみたいながっかり感と同じで遠足で行ったとき何この小さな家って残念感があったなあと遠い目になる。それがなんで亜空間になるんだろうか?おかしくない?おかしいよね?それにブレーンちゃんだって『つくば研究学園都市のブレーン』っていったい何?たしかにつくば研究学園都市は国の研究機関や大学が集まっているけれど、それで異世界のことも何でも分かるの?なんかおかしいスキルだと今さらながらに思った。
因みにこの世界の勇者召喚は一方通行で二度と日本には戻れないらしい。その上、勇者召喚した国は戦争に使う予定で召喚したらしく、この世界にはそういった勝手な召喚ををして勇者と煽てて戦争の道具に異世界人を使っているとか、なので、この国と敵対している方にもまた別の異世界人の勇者がいるらしい。それで、呼び出した勇者が死んでしまえばまた呼べばいいという身勝手な世界だった(これはブレーンちゃんの説明による)。
ふふふ、馬鹿にしているよね。自分たちの身勝手な戦争に平和に暮らしている異世界人を呼んで戦争道具にして、死んだらまた別の異世界人を呼べばいいなんて最悪な世界だ。
こんな世界滅びてしまえばいいんだとふと思ったけれど、それはこの世界の人の大量虐殺になる。それにそんなことはできないしやるつもりもないからね。そこブレーンちゃん、【茨城県】スキルの一つの『東海第二原発』でドカンとやれば、一気に国を滅ぼせますよなどと怖いこと言わない。異世界で核爆弾を作ってどうする。日本は唯一の原爆被害国だ。戦争なんて国や国民を消耗させるしかない愚かなことをもう二度としないと誓った国だ。核爆弾なんて異世界にだって必要ないよ。ブレーンちゃん、そこは自重しようよ。
まあ、『東海第二原発』のお蔭で異世界でも電気が使えるのは便利だけれどね。『亜空間西山荘』には平屋の一軒家があり、見た目は子供のころにみた西山荘もどきだけれども、家の中はとりあえず近代的な2LDK?バストイレ付き?部屋はいくらでも追加できる?ついでに家具付き?あとスマホやPCも使えるからスキル【茨城県】で茨城県産の物なら何でも取り寄せられる?何その便利機能?ただ、取り寄せられるのは茨城県産の物だけっていうのが難点かもと心の中で思ったら、ブレーンちゃんに怒られた。茨城県は農業県だからお米も野菜もお肉も果物もある。そう、つまりは食生活には一切困らないのだと。そう言われればそうだよね。食は大事。よくラノベのテンプレで、異世界の拙いご飯が出てくるし、お米がないって嘆くのはよくある話。
ただ、茨城県産だけだと食べられないものもあるんだよね。南国フルーツの類は食べられないかもと思ったがそれは仕方がない、あきらめよう。と考えたら、ブレーンちゃんが茨城県のどこかの温室で作っていたりするものならOKだとか?う~~ん、それってなんか抜け道?抜け穴?ご都合主義?ブレーンちゃん、そこは深く考えるなですと。ちなみに茨城県に出店しているお店からなら、取り寄せられるとか小声でつぶやくブレーンちゃん、おい、茨城県産に限るって建前どこ行った!!
面倒なので、今日のところはコンビニSEのお弁当にしよう。ちなみにお金は一応持っているし、銀行口座も使えるらしいが、この世界のお金でも使えるので、今、持っているお金と銀行口座だけでは暮らしていけないから、この世界でもお金を稼ぐために働けるようにしないといけないなあと思いつつ、疲れたのでご飯を食べてお風呂に入って寝ることにした。
朝、何故か亜空間にも朝が来る。起きてこれからのことを考える。そこで致命的なことに気づいた。考えてもこの世界のことがわからなかったら、どうしようもないじゃないか。
「もしもし、ブレーンちゃん」
「呼びました?」
その瞬間わたしは固まった。なぜならば、翅を付けた幼女が目の前にいる。しかもファンタジーのお約束っぽい妖精の恰好をして、ニコニコと目の前に浮いていた。
「誰?」
「ひどい、ブレーンちゃんですよ。せっかくファンタジーの世界に来たんですから、ファンタジー風に変えてみました。マスターだって、この方がいいでしょう。かわいいでしょう」
いや、確かにかわいいんですが、何で急に妖精に変化したのかなあと痛む頭を押さえた。
「あ、マスターも姿を変えたいのなら好きな姿に変化できますよ。その姿じゃ目立つじゃないですか?」
はい、はい、そうですね。ではこの世界のごく普通の一般人にして欲しいわね。ヤケクソ気味。
この世界でお金を稼ぐためには、やっぱり、商人になるのがよいのかしら? ブレーンちゃんによると冒険者とか傭兵とかファンタジーのお約束の職業もあるけれど、平和な日本で暮らしてきてそんな危険な職業に簡単につけるなんて無理ゲーもいいところだわ。ゲームなら絶対に死なないけれど、ここは命が安い世界(実際に殺されかけたのだから)。それを自分の身で実感している。
ブレーンちゃんによると商人も後ろ盾がないとあっさりと潰されるらしい。商人の持つ商品は貴族にとっては金づる。儲かると思えば、それをあっさりと貴族に取り上げられてしまうらしい。しかも冤罪は当たり前、死罪もしくはあっという間に奴隷堕ち。なんて世知辛い世の中だ。
しばらくは『亜空間西山荘』で引きこもりニートしている方がいいかもと心の底から思った。
それでも、生活するには衣食住が必要だ。衣と住は問題ないが、引きこもりニートするにも食べ物がないと生きていけない。
スローライフだ。晴耕雨読というではないか。幸い、亜空間に土地はいっぱい余っている。なら、野菜を作ればいいじゃないと私は単純だった。
年を取ったらスローライフなどと言う人たちはえらいと思う。農業をずっとやっている人たちには本当に頭が下がる。最初は気軽に思ったけれど、土を育てることから始めて、種をまき、実がなるまで気が遠くなるほどにお世話が必要だ。ブレーンちゃんが気候調整してくれるからいいものの、これが自然だったら、私にはもう耐えられない。とかぶつぶつ言っていたら、いつの間にか、畑や田んぼの世話をする人が増えていた。
「ねえ、ブレーンちゃん、あの人たち誰?」
「ああ、あちこちの国で戦争で荒廃した村人たちが飢餓に苦しんでいたので、食べられるなら働くというので雇いました」
「はあ?」
「だって、マスターは農業にむいていないし、なら働く人を勧誘して、ここに新しい国茨城国を作ればいいんじゃないかと思いましてね」
「ブレーンちゃん、それ先に言って、しかも茨城国って何よ」
「いや折角、異世界に来たのだから、茨城のすばらしさを異世界に伝えるために茨城国を建国するって当たり前のことじゃないですか?」
「いや、当たり前じゃないと思う」
「マスターは悔しくないんですか?職業が【茨城県民】で【茨城県】ってスキルで馬鹿にされて、そこでここで茨城国を作れば茨城県のすばらしさをこの異世界に知らしめるチャンスですよ」
もういいよ、好きにやって。私は匙投げた。
ブレーンちゃんの好きにやらせた結果、いつの間にか私は茨城国の女王になっていた(涙)
どうしてこうなった?
異世界の空を私の【茨城県】のスキルの一つ『牛久大仏』が飛んでいく。『牛久大仏』は見た目は大仏型ロボット、異世界風にいうとゴーレム? 私的には大仏型の輸送船、茨城国に住みたい善良な人々を救いに行く船だ。なんか、仏教でいうところの最後の救いとなる弥勒菩薩様を思い出すなあ。もちろん、『牛久大仏』には他の人達には見えないようにステルス化している。この世界は異世界人を呼びだして戦争に明け暮れ、荒廃しきった国々の末端に住む人々は重税にあえぎ死なないように生かされているだけ。
あれですよ。徳川幕府の農民の地位は武士のすぐ下と言いながら、死なないように最低限の生活で生かされていた存在。あの時代の農民たちと一緒で、この世界の末端の人たちは逃げ出すこともできず、ひたすら、農業をやらされて、食べる最低限の食料以外を全部搾取されていくという底辺生活。
ブレーンちゃんはそこに目をつけ、食べられる以外にも多少の色を付けることを条件に『亜空間西山荘』での農業の人員確保をしたのである。
本当にブレーンちゃんは優秀だ。これって私はいらなくない?
「いえいえ、すべてはみんなマスターの魔力で動いていますから、いてくれないと困ります」
って、私は燃料なのか、燃料以外の価値がないのかと落ち込む。いいよ、どうせ引きこもりニートだし。やさぐれそう。
この時、私は知らなかった。ブレーンちゃんが自分の配下にした異世界の精霊たちに命じて異世界人の召喚を二度とできないようにあちこちの国の中枢部に入り込んで異世界召喚の魔法陣はもちろん資料から一切合切をすべて消去していたことも、各国で農民たちの神隠しと言われる現象が起こり、大騒ぎになっていたことも。
茨城国がこの異世界で楽園と呼ばれていることも。
何故か。この世界の女神に私がなっていたことも。
この世界の精霊王に格上げし、昼夜暗躍するブレーンちゃんのお蔭で、ただ、何も知らずに私はのんびりとひたすら、引きこもりニートを楽しんでいたのだ。
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