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乙女ゲームからの脱出
初めての冒険者ギルド
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早速冒険者ギルドに行くと、むさくるしいおじさんばかりかと思ったら、意外とフレイヤと同じ年頃の少年少女もいた。受付で話を聞くと、十歳から冒険者ギルドに登録できるので、平民はみんな気軽に登録するらしい。冒険者カードがいろいろなところで役に立つらしいのだ。
フイレヤも登録用紙をもらい記入し始めてはたと気が付く。名前の欄にフレイヤと書きかけたところでやめたのでフレイという中途半端な名前になる。
(危ない、危ない、私は今男の子のつもりなのだ。女の子の名前なんて書けないよ)
必要事項と言っても今は住所不定、無職、前世で言うところのホームレス状態。それまではニートだったしなあと遠い目になる。
「えっと、すみません。名前と年だけでもいいですか?」
仕方なく聞く。受付の女性はにこやかな笑みを浮かべて、構いませんよという。まずは登録料を支払い、いろいろな魔道具に手を触れたり、血を垂らしたりしてから、チェーンネックレスのついた前世の銀行カードのようなものを渡された。
「これは大事な証明書代わりにもなりますから、失くさないように必ず首にかけておいてくださいね。魔法がかけられていますので、そのカードは本人以外に渡ることが無いようになっています。ステータスも本人とギルド職員以外にはわからないようになっています。それから明日には初心者用の講座を受けてもらいますので、その手続きもしてくださいね。冒険者と言ってもいろいろとあるので、その説明も兼ねています。あと受講料もお願いします」
おいとフレイヤは言いたくなる。何この詐欺的な展開は。登録料に受講料。もしかしたら、どんどんかもられていくのかと心配になる。
「お金がないのでしたら、後でも構いませんが、その場合は、講義のあとで強制的に依頼を受けてもらいます。それから泊まるところはありますか?住所も書かれていなかったので、もしかしたらと思いまして」
少し心配げに彼女は教えてくれた。ちょっと詐欺かと思ったのはごめんなさいと心で謝り、彼女に言うとおりに講義の後で依頼をこなし受講料を支払うことと冒険者ギルド御用達の初心者用の宿泊施設に泊まれるようにと無事手続きを終えた。この宿泊施設には登録してから一か月は初心者に格安で泊まれるらしいし、ここもまた講義のあとでの依頼料で支払えるらしい。なんて親切なとフレイヤは受付のお姉さんに感謝に意を表した。
現金なもので、お金を無駄にしなくてもいいとわかると冒険者ギルドはなんて親切なんだとフレイヤは感激した。今生と前世の総合知識からすれば、旅をするのも命がけ、衛生面も悪く、病気にでもかかったら最悪死ぬしかない世界、なにが一番かというとお金だ。ただし、お金を持っていると知られると治安が悪すぎる世界では殺されてしまうかもしれない。それを思うと貧乏なふりをした方がいいと自衛術をいろいろと思いつく。貴族としての知識は役に立たない。身を守る術に剣術や魔法を学んでおけばよかったと後悔する。
彼女は教えられた宿泊施設の一部屋でホッと溜息を吐く。
助かった?
いやまだ安心できない。この国を出るまでは気を抜いてはいけないと改めて決意した。
それからカードを取り出した。
名前 : フレイ
年齢 : 15歳(ミューア大陸歴815年花の月12日生まれ)
体力 : 80
魔力 : 200
魔法 : 精霊魔法レベル1
称号 : 精霊に愛されし者
「ふえ?」
すごいお間抜けな声を上げたのは仕方がないと思って欲しい。フレイヤの称号の精霊に愛されし者というのが理解できなかったからだ。
そこで頭の中の前世のぼんやりとした記憶中を探った結果、思い出したのは題名の「新緑の乙女」の意味だった。
新緑の乙女とは精霊の愛されし者の別名となっている。つまり、冤罪で殺されたフレイヤは精霊に愛された者であるのに人間が勝手に無実の罪で殺した結果、精霊たちがこの国から彼らの恩恵を取り上げたのだ。精霊の恩恵、それは森の中にある数多の恵であり、国の多くの農地の豊作など多岐にわたる。つまり、精霊たちの恩恵なしには人間は生きることができない。それに焦ったのはこの国の人間たちだった。彼らは精霊の恩恵を取り戻すために殺したフレイヤを聖女と崇め、フレイヤの遺志を継ぐ少女を選び出した。新緑の乙女になった彼女の努力により、精霊たちは再びこの国に彼らの恩恵を与えることになったというのが確かあのゲームの大筋だったはずだ。
ということは、フレイヤには大きな力があると言っても過言ではないが、今まで彼女は精霊を見ることもなく過ごしてきた。
「どこに行けば精霊に会えるのかしら?」
まずはそれが問題となる。今の不安定な状態である以上切実に彼らの力を貸して欲しかった。
いやいや、それよりも冤罪で殺される前になんで、精霊たちは愛されし者が殺されるのを止めてくれなかったのかと思う。これはやはりゲームのインパクトが欲しかったからなのか?ゲームの設定として新緑の乙女を作り出す必要性を求めたからなのか?それにしても最初からこれはもうバグじゃないかと突っ込みたい。
愛されし者が殺されてから精霊たちが文句を言っても遅いし、それから復讐とかなんかいろいろと詰んでいる気がする。面白くて楽しんだゲームもこうして殺される側になると理不尽としか言いようがない。
精霊の存在が一国の人間たちを慌てさせるほどのすごい力を持っているなら、なんでむざむざ愛されし者を死なせるかなあとやるせない思いばかりが胸を締め付けた。その前にそもそも精霊に会ったことがないのに愛されし者ってどういうことよと問いたい。よく読んだライトノベルだと精霊の愛し子とか言われる存在には最初から精霊が見えて精霊たちに守られている設定だったような気がする。これってやっぱりバグ以外の何物でないわと早々に考えるのを諦めた。
もう寝ようとフレイヤは思う。考えれば考えるほとどつぼにはまり込む。もう今日は何も考えまいとそう決めたのである。
布団をかぶって横になると、すぐに彼女は寝息を立てた。普段寝ている豪華なベッドでもなく柔らかい羽根布団でもないのに、こんなに簡単に眠れるとは思いもよらないことだった。今日一日で身体的ではなく精神的に何かがごっそりと削られていった気がした。それが彼女を簡単に眠りへと誘ったのである。
フイレヤも登録用紙をもらい記入し始めてはたと気が付く。名前の欄にフレイヤと書きかけたところでやめたのでフレイという中途半端な名前になる。
(危ない、危ない、私は今男の子のつもりなのだ。女の子の名前なんて書けないよ)
必要事項と言っても今は住所不定、無職、前世で言うところのホームレス状態。それまではニートだったしなあと遠い目になる。
「えっと、すみません。名前と年だけでもいいですか?」
仕方なく聞く。受付の女性はにこやかな笑みを浮かべて、構いませんよという。まずは登録料を支払い、いろいろな魔道具に手を触れたり、血を垂らしたりしてから、チェーンネックレスのついた前世の銀行カードのようなものを渡された。
「これは大事な証明書代わりにもなりますから、失くさないように必ず首にかけておいてくださいね。魔法がかけられていますので、そのカードは本人以外に渡ることが無いようになっています。ステータスも本人とギルド職員以外にはわからないようになっています。それから明日には初心者用の講座を受けてもらいますので、その手続きもしてくださいね。冒険者と言ってもいろいろとあるので、その説明も兼ねています。あと受講料もお願いします」
おいとフレイヤは言いたくなる。何この詐欺的な展開は。登録料に受講料。もしかしたら、どんどんかもられていくのかと心配になる。
「お金がないのでしたら、後でも構いませんが、その場合は、講義のあとで強制的に依頼を受けてもらいます。それから泊まるところはありますか?住所も書かれていなかったので、もしかしたらと思いまして」
少し心配げに彼女は教えてくれた。ちょっと詐欺かと思ったのはごめんなさいと心で謝り、彼女に言うとおりに講義の後で依頼をこなし受講料を支払うことと冒険者ギルド御用達の初心者用の宿泊施設に泊まれるようにと無事手続きを終えた。この宿泊施設には登録してから一か月は初心者に格安で泊まれるらしいし、ここもまた講義のあとでの依頼料で支払えるらしい。なんて親切なとフレイヤは受付のお姉さんに感謝に意を表した。
現金なもので、お金を無駄にしなくてもいいとわかると冒険者ギルドはなんて親切なんだとフレイヤは感激した。今生と前世の総合知識からすれば、旅をするのも命がけ、衛生面も悪く、病気にでもかかったら最悪死ぬしかない世界、なにが一番かというとお金だ。ただし、お金を持っていると知られると治安が悪すぎる世界では殺されてしまうかもしれない。それを思うと貧乏なふりをした方がいいと自衛術をいろいろと思いつく。貴族としての知識は役に立たない。身を守る術に剣術や魔法を学んでおけばよかったと後悔する。
彼女は教えられた宿泊施設の一部屋でホッと溜息を吐く。
助かった?
いやまだ安心できない。この国を出るまでは気を抜いてはいけないと改めて決意した。
それからカードを取り出した。
名前 : フレイ
年齢 : 15歳(ミューア大陸歴815年花の月12日生まれ)
体力 : 80
魔力 : 200
魔法 : 精霊魔法レベル1
称号 : 精霊に愛されし者
「ふえ?」
すごいお間抜けな声を上げたのは仕方がないと思って欲しい。フレイヤの称号の精霊に愛されし者というのが理解できなかったからだ。
そこで頭の中の前世のぼんやりとした記憶中を探った結果、思い出したのは題名の「新緑の乙女」の意味だった。
新緑の乙女とは精霊の愛されし者の別名となっている。つまり、冤罪で殺されたフレイヤは精霊に愛された者であるのに人間が勝手に無実の罪で殺した結果、精霊たちがこの国から彼らの恩恵を取り上げたのだ。精霊の恩恵、それは森の中にある数多の恵であり、国の多くの農地の豊作など多岐にわたる。つまり、精霊たちの恩恵なしには人間は生きることができない。それに焦ったのはこの国の人間たちだった。彼らは精霊の恩恵を取り戻すために殺したフレイヤを聖女と崇め、フレイヤの遺志を継ぐ少女を選び出した。新緑の乙女になった彼女の努力により、精霊たちは再びこの国に彼らの恩恵を与えることになったというのが確かあのゲームの大筋だったはずだ。
ということは、フレイヤには大きな力があると言っても過言ではないが、今まで彼女は精霊を見ることもなく過ごしてきた。
「どこに行けば精霊に会えるのかしら?」
まずはそれが問題となる。今の不安定な状態である以上切実に彼らの力を貸して欲しかった。
いやいや、それよりも冤罪で殺される前になんで、精霊たちは愛されし者が殺されるのを止めてくれなかったのかと思う。これはやはりゲームのインパクトが欲しかったからなのか?ゲームの設定として新緑の乙女を作り出す必要性を求めたからなのか?それにしても最初からこれはもうバグじゃないかと突っ込みたい。
愛されし者が殺されてから精霊たちが文句を言っても遅いし、それから復讐とかなんかいろいろと詰んでいる気がする。面白くて楽しんだゲームもこうして殺される側になると理不尽としか言いようがない。
精霊の存在が一国の人間たちを慌てさせるほどのすごい力を持っているなら、なんでむざむざ愛されし者を死なせるかなあとやるせない思いばかりが胸を締め付けた。その前にそもそも精霊に会ったことがないのに愛されし者ってどういうことよと問いたい。よく読んだライトノベルだと精霊の愛し子とか言われる存在には最初から精霊が見えて精霊たちに守られている設定だったような気がする。これってやっぱりバグ以外の何物でないわと早々に考えるのを諦めた。
もう寝ようとフレイヤは思う。考えれば考えるほとどつぼにはまり込む。もう今日は何も考えまいとそう決めたのである。
布団をかぶって横になると、すぐに彼女は寝息を立てた。普段寝ている豪華なベッドでもなく柔らかい羽根布団でもないのに、こんなに簡単に眠れるとは思いもよらないことだった。今日一日で身体的ではなく精神的に何かがごっそりと削られていった気がした。それが彼女を簡単に眠りへと誘ったのである。
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